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To Shine
Player number "10"
桜上水が3回戦を勝ち上がった、その次の日。武蔵森サッカー部では、一週間前に倒れて入院していた桐原が復帰していた。ことの事情を詳しく知っているのは渋沢と三上とだけのため、藤代いわく『ピリッとしなかった』練習も以前と同じものに戻り、ここ最近落ち着かなかった部内の雰囲気ももとに戻りつつあった。とは言ってもそれは雰囲気だけで、実際に問題が解決していないことを知っている面々のわだかまりは消えたわけではなかった。けれども、もちろん練習は練習として進んでいくし、久々に桐原の怒鳴り声が響く練習は、そんなことを考えながらこなせるものでもない。 「三上、マッサージやってー」 「あ?何で」 「だって今日きつかったしさぁ」 その久しぶりの、なぜかと三上が特にしごかれたような気がしないでもない練習が終わった後で、いーだろ、最近頼んでなかったし とが笑って言う。それは最近の練習が軽かったからだろ なんて思いながら、けれども実際に今日の練習がこたえているのは自分も同様なために、三上はいじっていた自分のスパイクを置いた。 「何で俺なんだよ」 「ちゃんと代わってやるって」 「・・・ったく」 面倒くさそうにため息をつきながら、三上が地面についていた腰を上げる。それを見て、さーんきゅ と言いながら、が手に持っていた荷物を降ろして 部で買ってあるマットの上へと腰を下ろした。 「あー・・・」 「うっわ じじくせー」 「さっき同じように唸ってたのはどこのどいつだよ」 自分の腰を押すの言葉に、三上はハッ と笑いながら言葉を紡ぐ。約束どおりにマッサージを交代した三上は、さきほどのと同じようにマットにうつぶせになっていた。 「んなこと言うやつにはこれだな」 「いって!おまえ真面目にやれよ!」 三上の言葉に、がグッと相当な力で背中のツボを押す。そうすればすぐに三上から苦情が飛んできて、けれどそれに、やってるじゃん と返せば、三上は ふざけんなテメェ 痛ぇからマジで!と唸る。けれど、はそれを気に留めないかのように笑った。そうして、痛いのだろうツボを止めることなく押していく。 けれど、ふと そんな和やかな雰囲気を壊すような声が響いた。 「・・何をやっている、お前たちは」 その一声で、三上との2人の動きが止まった。顔を上げれば、そこには2人の予想どおり 呆れたようにたっている桐原がいて、三上はその姿に些かばつの悪そうな顔をした。もちろん水野の転入の件での怒りというのもないわけではないが、それよりも桐原が倒れたのは自分の行動がキッカケになってしまったのではという考えが拭いきれないというのが大きな理由だった。 「・・・監督」 一方も、あれ以来会話をしていない。そして三上と同様、その日に倒れたということが何となくの罪悪感を生ませていた。先ほどのように部活中はそれはそれ、これはこれ とお互い割り切ってできるけれど、こうなってしまうとまた事情が違う。その気まずい雰囲気の中、口を開いたのは桐原だった。 「武蔵森の4番と10番が、そんなようでは困るな」 「・・・・・え」 その言葉に、三上は驚いたように声を漏らし、も目を見開いて桐原をまじまじと見た。だって、今、監督が言ったこと。それはつまり10番はここでこんなことをやっている三上だということで、つまり、そう、水野の話はなくなったということで、つまり 「お前たちには、全国まで部員を引っ張ってもらわなければいけないのだからな」 そう言って、振り返らずに桐原が歩いていく。2人は固まったままで、少しずつ遠くなっていくその背中を目で追いながら桐原の言葉を頭の中でリフレインさせた。全国まで。それはもとよりのことだ。けれども。そうしてしばらく続いた沈黙の後で、が口を開く。 「・・・・・だって さ、三上」 「・・・・・・・らしいな」 「どーするよ」 「どーするったってなぁ」 とりあえずというように はマッサージを再開させた。三上も同じく、とりあえず それを受けながら桐原の歩いていったほうにむけていた視線を戻した。その顔に浮かぶものは安堵なのか喜びなのか、その表現は難しい。 「・・・・ま、俺たちで全国行こうぜ!」 「・・・・おぉ」 けれど、顔は見ずとも お互いの顔に浮かんでいるのは笑顔なのだろうと思った。 |