To Shine
Selection for advance






「あ。」

練習を終えた後の武蔵森サッカー部の部室では思い出したように声をあげた。というか、今更だが本当に今思い出しての行動だった。その声に、近くにいた面々 ―― 今ここを使っているのは一軍のメンバーだけなので、つまりは主にレギュラー陣ということになる ――に顔を向ける。彼らに顔を向けて、は言い忘れてたけど と言葉を続けた。

「俺、明日明後日 休むからよろしくな」
「あ?」

まずはじめにその言葉に反応したのは三上だった。三上はしっかりと着替えを終えた状態で、に振り返る。そういう内容の言葉が部内で交わされるのは稀なことで、さらにこのセンターバックがそんなことを言うのは本当に稀だということをこの3年の積み重ねでよく知っている三上は怪訝そうな顔をした。

「だーかーら、俺は明日明後日は来らんねぇの」
「珍しいな。何か用事か?」

三上に再度同じ内容を伝えながら、は インナーを脱いでポイっとロッカーにいれ、制服のシャツを手に取った。続いて口を開いた渋沢も、着替えを終えて荷物をまとめながら問いかける。そしてそれは渋沢や三上だけが思ったことではなくて、この部室にいるほぼ全員が思ったことだった。集まっている視線に答えるように、が口を開く。

「セレクションがあんだよ。一泊二日だから、たぶんあさっても間に合わないと思う」

こともなげに言ったに、三上や渋沢をはじめとして、服のボタンを留めていた藤代が、荷物をまとめ終えた笠井が、少し止まってを見た。今 の口から出た言葉は、その場にいるメンバーの興味をそそるには充分なものだったためだ。そもそもここにいるのは地区選抜などにも呼ばれることの多い実力者たちで、さらに実力主義の武蔵森のメンバーなのだから、そういったものへの興味も強い。

「セレクションですか?」
「そ。」
「俺 初耳ッスよー、そんなの」

ずるい とでも言うように口を尖らせる藤代に、そりゃそうだろうな とが答える。今回のセレクションは、DFだけを対象にしているものだった。一般応募ではなくはじめから選抜で候補が選ばれるため、いくら世代の代表でも、GKの渋沢やFWの藤代は知っているわけもなかった。

「いつそんな話きたんだよ」
「あーいつだっけな・・・・そうだ、春大のとき」

三上の言葉に、が視線をずらして考えてから答える。そう、あれは春の都大会の決勝のときだったから、一ヶ月と少し前のことだ。もうそんなに経ったっけ と思うに、結構前だなオイ と三上が内心でつっこむとの同じほどに、渋沢が荷物を入れきったバッグを締めながら口を開いた。

「選ばれるとどうなるんだ?」
「夏のドイツへ2週間の旅、クラブユースの練習への参加付きってプレミアチケットをゲット。」

旅行会社の文句のようにそれらしく言われたの言葉に、ぴたり と音がするほどに改めて部員が止まった。そうして支度を終えたがよし といいながらバッグのチャックを閉めて、んじゃおつかれー と爽やかに笑って部室を出て行ってから、武蔵森サッカー部の部室内は少し遅れてずるいだのなんだのとの騒ぎだす。そのなかで、あいつさっさと逃げやがったな と毒づいた三上に、だろうな と渋沢が笑った。







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