To Shine
Selection for advance






「久しぶりやな、

合宿上の廊下で後ろからかけられた声に、は振り向いた。今回のセレクションは泊りがけで、土日に一気にやってしまうということで、この合宿上の割り当てられた部屋で一泊ということになっていた。その部屋からミーティングルームへと向かう道筋で、目に映った顔馴染みの姿にはニッと笑う。

「よ、城光。久しぶり」

元気そうだな と言いながら、は足を止めた。そんなに並びながら、城光はもな と笑う。同じDFというポジションであり、お互いセレクションやら選抜やらに呼ばれる機会が多いため交流がある2人は、それぞれ東京と九州に住んでいるために日常的に会うことはないが、それでもこういった選抜などでは組を組んだりすることなども多かった。久しぶりの再開に挨拶のように腕を上げながら、2人は並んで歩き出す。

「東京でやるんだと、遠路はるばるって感じだよな」
「まぁ、しかたないことやけんね」

の言葉に、はは と城光が笑う。全国単位のセレクションは、東京など 関東周辺で開催されることがおおいため、城光もこのようにいちいち本州まで出てくることもザラにあることだった。その言葉に、確かに と頷きながら、ふと遠征の度に遠いだのなんだのと言いながらもお土産を買いあさる後輩の姿が浮かんで、は内心で苦笑した。

「どう?そっちは」
「別に変わっとらん。カズは渋沢をライバル視しとるし」
「あぁ、功刀?」

城光の言葉に、負けず嫌いな九州のGKを思い出す。の頭には彼の顔と名前と同時に、小柄で、でもいい技術とセンスのあるGKで、渋沢をライバル視するだけはあったよな という評価と、何度か交わした会話が浮かんだ。強気な目に見上げられて、不敵に笑われた気がする。そうされてしまえば元来負けず嫌いなも同じようなに功刀に返したためもあってか、好戦的な彼の印象は強かった。

「そっちはどうや?」
「んー・・特にこれってことは何もないな」

ミーティングルームに向かう2人の足取りは軽い。周りからの視線が、密かにと城光の2人に集まっていた。城光は堅実なプレーが評価されている、こうしてよばれている中でも能力の高いDFであるし、はU−15でもディフェンスラインのセンターバックを務める、このセレクションの大本命だ。そんな周りのその様子に、は笑う。そんなに、城光は苦笑とも取れるかたちで笑った。

「ほんま 相変わらずやね、は」
「そ?まぁ、受かってこいって送り出されちゃったしなぁ。やっぱ、狙うのは合格だけだろ」

すっげー非難受けたけどさ とが笑う。
このセレクションの合格者は1人だということは、はじめから候補者に告げられている。そのため、こうやって話していても 両方が受かることはありえないということを承知の上で、は城光に向かって強気に笑いかけた。

「そうやね。」

それはもちろん、城光にも解っていることだった。けれども笑い返した城光に、は笑みを深めて 視界に入ってきたミーティングルームのドアを見越した。




勢いをつけてではなく、ためらうこともなく、たちがドアを開ける。中には、全国から集まったのだろう優秀なDFたちが揃っていた。その入り口で 名簿を持った確認の係りだろう男性が、たちに気づいて2人のほうへと足を進めてきた。

「名前は?」
「城光与志忠です」
「はい、そこの席に座って。」

役員の側にいた城光が名前を言って、に向かって軽く手を上げてから指定された席へと歩いていく。も同じように手を上げて返して、一歩こちらに近づいた役員に視線を戻した。

「名前は?」

自分をみる役員の視線に答えようとして、けれどあることに気づいて、なんだ、知ってんだ とは思う。身長の高いから見えた名簿には、のところにすでに印が入っていた。けれど、だからと言って答えないわけにもいかないし、それになによりも挑戦の意味も込めて、向いているいくつもの視線を目に入れて、は口を開いた。

です」

その言葉に、に向けられる視線は強くなる。それの意図するところはにはもちろんわかっていた。そんな視線を受けながら、は不敵に笑う。
これから、選別が始まる。







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