To Shine
They aim at the win too.







「んー?なに、渋沢」

武蔵森学園 松葉寮。サッカー部員の寮監であるここのロビーで、渋沢はを見つけて声をかけた。そうすれば、ロビーでテレビを見ていたが後ろに立つ渋沢へと振り返って声を返す。明日偵察に行くんだが と言う渋沢に、は少し考える様子を見せた。そして、どこ?と聞いたに、渋沢は笑う。

「飛葉 対 桜上水。会場は飛葉中だ」




飛葉 対 桜上水の試合の当日、たちは飛葉中の前に立っていた。比較的綺麗な校舎ではあるけれど、だからと言って私立中学である武蔵森に比べてしまえば、傍目でわかるくらいの差がある。駅からの道筋がわかりやすいとは言えない、住宅街の中にあるこの飛葉中に この時間に来れたのは、がいたからだと言っても過言ではなかった。

「ここが飛葉中か・・、よく道を知ってたな」
「まぁ、この辺はうちの近くだしな」
「え、そうなんスか?」

の言葉に驚いたふうにする藤代に、公立だったら俺 飛葉中生だもんよ と返しながら、が飛葉中の校門をくぐった。それに続いて、武蔵森のキャプテン、エースストライカー、そして監督が飛葉の敷地へと足を踏み入れる。面倒くさいと言ってこなかったメンバーもいるし、そもそも偵察というのはそんなに大勢で来るものではないからこの4人で来たわけだけれど、そこには強豪武蔵森の代表的メンバーが揃っていた。

「へぇ・・あ、先輩」
「あ、風祭じゃん」

が通っていたかもしれないという飛葉中をキョロキョロと見ていた藤代が、なにかを見つけたというように声をあげた。その声に藤代の目線を追えば 慌てたように走っている風祭がいて、はちょうどいいな というように彼に声をかけた。そうすれば、その声に視線をよこした風祭が驚いたように口を開く。

「!渋沢先輩!?先輩、藤代くん!」

わ と足を止めてから、すぐに目に入った桐原へ 風祭はペこりとお辞儀をする。風祭の言葉に無愛想ながら答える桐原の様子に、と藤代は笑顔を浮かべた。以前だったら、こうはならなかっただろうこの対応に、この雰囲気。と藤代は、渋沢と話している桐原をちらりと見ながら、監督も丸くなったな と、藤代と頷きあった。そんなとりとめもないことを思うを余所に、桐原との話を終えた渋沢は、桐原の背中を見送る風祭に改めて声をかける。

「どうだ?調子は」
「はい、なんとか。飛葉中がかなりDFが強いチームみたいなんで、コーチにいろんな攻撃のパターンを教えてもらいました」
「へぇ、そうなんだ」

風祭の言葉に、が面白そうに関心を示した。DFが強いチーム。もDFというポジションなのだから、つまり ライバルがいるということ。そういうライバルを見るのが、は好きだった。DFとしても勉強にもなるし、負けず嫌いを自覚してる自分はさらにやる気が出る。そんなことを思ったところで、ふと あるメンバーがの頭に浮かんできた。思い浮かんだその顔に、そして頻繁に届いていたお誘いメールに、こっちに帰ってきてるんだし メールしとかなきゃな とは思う。

「あとは、全力を出し切ってぶつかるだけです」
「・・そうか、がんばれよ」
「ファイト。」
「グッドラック」

そう言い切った風祭は、それぞれからの激励を受けて、笑ってグランドへと走っていく。その後ろ姿を見送りながら、がポツリと言葉を口にした。

「監督は、飛葉中 有利って見てんだよな」
「だから監督自ら足を運んできてるわけだが」

あくまでも、強豪武蔵森。ただ単に、桜上水を激励しに来たわけではない。勝つための参考にするために、こうしてわざわざ出向いたことなど十も承知だ。けれど、なにより面白い試合が期待されているのだから、単純にこの試合を楽しみにしているという気持ちもどこかにある。

「桜上水がそれをどうひっくり返すのか・・・・楽しい試合になりそうっスね」

これから始まる試合に、藤代ならずとも笑みが浮かんだ。




「監督、お待たせしました」
「大したことはない」

風祭との話を終えたたちも、グランドに出て 監督と合流する。その横に並んで、これから飛葉 対 桜上水の試合が行われる会場を見回した。特に悪いってわけでもないだろう、土のグランド。と、気づいたように呟いたの言葉がその場に通る。

「・・・・女の子、多くね?」

その言葉に、え と藤代が回りを見渡す。そうしてみれば、確かにその言葉通り ――― つまり大勢の、マネージャーなどではないだろう女の子の集団がいた。それも、大きなグループと、小さな2・3人の組が、いくつもある。

「ホントッスねー・・・うちと並ぶんじゃないですか?」
「うちのはお前やら三上やらのせいだっつーの。」

騒いでないから迷惑ってことはないけどさ というに、何言ってんスか と藤代が体を乗り出した。その体からは全面否定なオーラが放たれていて、むしろそっちに驚いたように は目を見開いた。それにたたみ掛けるように藤代が言葉を続ける。

先輩だって充分連れてきてるじゃないッスか!」
「は?連れてきてねぇよ」
「自覚ないのか?」

ふと、あたかも意外そうに途中で言葉をはさんだ渋沢に、藤代が ですよね という視線を、が 何言ってんだ という視線を向けた。そのアンバランス加減に小さく笑いながら、けれど抜け目なく渋沢が そうだろう と笑う。そうすれば、が 何で というように眉を寄せた。

「渋沢までかよ・・。お前にも言われたくねぇって。お前も相当呼んでんだから」

ってか、基本的に顔がいいやつが多いんだよな、うちの部。そう思って息をつきながら、もうこの話は止めようとばかりに、は自分たちが今いるサイドでアップをしている飛葉中に視線をやった。
こうして遠目に見ても、体格のいいのが何人かいる。彼らが例の、強いDF陣だろうか?桜上水はそんなに体格がいいのもいないし、ガチであたるとつらいかも ―――

「・・・・・・・あっれ」

そうして走らせていたた視線の中で、何人かの姿が目にとまって、はその彼らをマジマジと見た。その視線に気づいたように振り返った1人が、ちょうど同じように、を見る。その顔が驚いたように形作られるのを見て、は やっぱり と彼を見止めながら、飛葉だったんだ と呟いた。







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