To Shine
They aim at the win too.






「マサキ」
じゃねーか」

驚きながらも 小さく笑みを浮かべて彼の名前を呼ぶのもとへと、黒川が足を向けた。黒川には、驚いているという様子はあまりない。よ とあげてきた手にが返したところで、え という声がの隣から聞こえた。

「知り合いなんスか?」

先ほどの声を発した人物らしい藤代は、挨拶をしあうと黒川の様子に、2人の顔を交互に見ながら、首をかしげた。その様子に、くく と黒川が笑う。同年代であるはずの藤代と黒川の雰囲気の違うその動作に1つ苦笑のようなものをこぼしてから、は黒川に向けていた顔を藤代たちへと向けた。

「あー、ちょっと悪い」

あからさまに驚いている藤代と、見た目ではそこまででもないが驚いていないわけではない渋沢に断って、それから自分を見ている桐原にも軽く会釈してから、がグランドに近づく。

「マサキ、飛葉のサッカー部だったんだ?」
「まぁな。翼や五助たちもいるぜ」
「・・・翼、いるか?俺 見つけらんなかったんだけど」

黒川の言葉にグランドに目線をやるけれど、やっぱり翼の姿はみつけられない。こう言っちゃなんだけど、翼の姿は目に付きやすいからわからないことはないはずだけどな ――― そう思いながら、がもう一度 飛葉メンバーを見れば、同じく飛葉のメンバーたちへと目をやった黒川が、あぁ と納得したように呟いた。

「今、監督んとこ行ってるから」
「あ、だからか」

きっと翼はキャプテンなんだろう。なんとなくそれには納得がいって、なるほど というように頷くと、こそどうしたんだよ?と、黒川がに視線をやった。お互い中学校もフルネームすらも知らないわけだから、どうしようかと考えるけれど それも一瞬のことで、は視線に答えるように、ちょっと偵察に と笑った。そうすれば、黒川はそれに答えるように口元を上げる。

「そりゃ光栄だ。どこの団体サマ?」
「武蔵森サッカー部 一行、ってとこ」

以後お見知りおきを なんて言って、ニッと挑戦的に笑ったに、黒川が彼の独特の笑い方で面白そうに声を漏らした。その様子に、なんだ とが肩をすくめる。別に意図的に黙っていたわけでもないし、知られたくなかったとか そういうこともないけれど、彼らは自分のことを知っていて 自分だけが彼らを知らなかったとなると、あまり面白いものではない。

「知ってたのか?」
「まぁ、気づいたのはあれから結構後だったけどな」

言いながら、黒川がだと知ったときのことを思い返す。がフットサル場で翼たちと出会った少し後に、翼が コレ見てみなよ と部室に持ってきたサッカー雑誌。その中のアンダー代表の記事の写真のなかに、を見つけた。それが、が武蔵森サッカー部のだと気づいたときだった。

「んじゃ・・改めて、俺は武蔵森の
「飛葉の黒川柾輝だ」
「同じく、畑五助」
「畑六助!」
「っておまえら・・」

黒川の後ろから、黒川にからむように出てきた五助と六助に、黒川はため息をつきながら彼らを見て、少し前から2人がこっちに向かって来ているのが見えていたは よ、五助、六助 と笑って声をかける。そうすれば、五助と六助が 久しぶりだな、 と笑った。

「お前あれから来ねぇからさー メールでも来いって言ったのに」
「しょうがねぇじゃん、俺寮生活だし。でも今日明日は家帰ってるからさ」

そう言ったに、じゃぁ明日やろうぜ と六助が笑って言う。何時にすっか と話しだす彼らに、お前ら今日試合だろ とが苦笑すれば、大丈夫だって と言った五助の言葉に重なるように、今までのメンバーとは 声もイントネーションも違う言葉が響いた。

「お前ら俺を忘れとるやろ!!」

聞こえた声に、は3人の後ろにいる金髪を見つける。にとっては初めてみる顔だった。けれど、飛葉のメンバーには違いないだろう。その金髪と関西弁に直結する、今も少し視界をずらせばいるだろうシゲをなんとなく頭に浮かべながら、は首をかしげる。

「だれ?」
「あー、そっか。が来たときにいなかったってやつ」

会ってねーよな と言いながらの黒川の補助的な言葉に、あぁ、例の とが納得する。そう、そもそもがこの飛葉メンバーだらけのフットサルチームに飛び入り参加したのは、いつものメンバーが1人いないからだった。それが彼か と思いながらが直樹を見れば、直樹は にかっと笑って口を開く。

「井上直樹や!よろしゅうな!」
「おう、よろしくなー」

こういう明るいタイプは嫌いじゃない。その言葉に笑って返すに、こいつはサルでいーぜ なんて五助が笑いながら言う。それに賛同しながら笑う面々を見ながら、黒川がちらりと時計を見て、ポツリと言った。

「つーか、お前らまで来たら翼にどやされるぜ」
「残念、もう遅いよ」

と、黒川の言葉に続くように、すっかり和やかなものになっているその場の雰囲気の中で、その雰囲気に合致しそうな まさににっこりという笑顔と、およそ合致しないだろう苛立ちと棘を含んだ声に、その場にいた面々の視線が一点に集まった。そうすれば、そこには彼らの予測どおりの人。を覗いた飛葉のメンバーが、ゲッ という顔をした。

「ったく、何してるわけ?アップ中だっていうのがわかんないの?それともなに、僕がいないからってサボってもいいとでも思ってる?それだとしたら救いようがないね。まぁ最低限のことはした後だったし、が来てたってことで免除してやるけど」

口を挟む隙もない翼の言葉に、飛葉の面々が冷や汗を流しながら笑う。は、驚いたように翼を見た。そんなチームメイトを一瞥してから、それで と、翼が有無を言わせないような笑みをへと向ける。

「僕には挨拶ナシなわけ?

何の事前情報もなく初めて聞いたマシンガントークに気をとられてまじまじと翼を見ていたは、その言葉に、はっとしたように翼に向かって笑った。けれど、いつも見慣れている自分のチームの司令塔のものとはまた違う種類の、言ってしまえば意地の悪い笑みに、は うわ、怖っ と内心で呟いた。

「久しぶりだな、翼」
「そうだね、はいくら言っても来てくれなかったし」
「いや、俺だって来たかったんだけど な?」

相変わらず笑顔を浮かべながら痛いところを突いてくる翼に、微妙に後ずさりながらが答える。わずかに口元が引きつっていたのは否めない。そんなを見て、まぁある程度は満足したように、笑みの種類を変えて翼は手を差し出した。

「まぁいいよ。とりあえず、僕は椎名翼。飛葉のキャプテン」
「・・ん。武蔵森の、

ニッと笑って、もその手を重ねる。そして、ぐっと握った。同じDFとして。ライバルとして。学校の代表として。その様子に、飛葉のメンバーも笑う。そんなとき、たちがいるほうとは反対側のサイドライン辺りから、人の声がして、は翼越しにそっちへと目を向けた。そうして映る、サングラスをかけた女性の姿。

「オイ、あっちの女の人。呼んでるぜ」
「あぁ、玲か。うちの監督」
「へぇ、あの人が。かぁっこいいなー。・・どっかで見たことあるような気するけど」

どこで見たんだっけな と、どこかに引っかかったように思い出せないは頭を捻る。そんなに、まぁ、なくはねぇんじゃねぇか?と、黒川がニッと笑った。確かに とマサキと同様に笑ってから、翼が飛葉メンバーに声をかける。なんとなく納得できないまでも、はひとまずあの女性のことを思い出すのをやめて、飛葉のメンバーを見据えた。

「面白いサッカー、見せてくれよ?」
「もちろん。」

振り向きざまにあげられた拳に、手を上げて返す。あぁけれど、どっちを応援しよう なんて思いながら、まもなく、波乱を含んでいるのだろう決勝戦が 幕を開ける。







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