To Shine
They aim at the win too.






後半、25分。後半早々、サン太からのトラップミスからのインターセプト ―― まさに飛葉が狙っていた展開だった ―― で先制した飛葉のゴールネットにボールが飛び込んだ。桜上水の11番であるシゲのゴールに試合会場が沸くなかで、は表情を変えずに呟く。藤代はあまりあぁいうプレーをするタイプではないけれど、DFであるはシゲのようなタイプのFWをマークしたことだって、それこそ数え切れないほどある。だからこそ、にはシゲのマリーシアが見えていた。

「・・・・・巧いな」
「ハンド!ノーゴール!」

けれどその声は、判定の声にかき消された。翼は助かった というような息を吐き、水野はわかっていたのか、落ち込んだ様子を見せない。副審側からは見えてたのか と思うに、ハンド?と藤代が呟いた。自分のほうを見てきた藤代に、背中でトラップしたとき、手ェ使ってたんだよ とが言えば、だからあんなとこに落ちたんスか と納得したように藤代が言う。それよりも問題は、困惑したような表情をした風祭だった。



「どーしたんだろ、風祭のやつ」

いいところで来たパスに反応が遅れた風祭を見ながら、腰に手を当てて、せっかくのチャンスだったのにもったいない と藤代が言う。確かに風祭の動きは、先ほどのノーゴールから悪くなっていた。そんな藤代に、渋沢が考えるようにしながら口を開く。

「・・・おそらく、迷っているんだ」
「迷う?」

渋沢の言葉に、藤代が なにを?と問う。きっと、本当に何に迷っているかなんてわからないのだろう。そんな様子に、は苦笑ともとれるような笑いをこぼした。なんというか、本当にこいつは と。

「例えば藤代。今みたいな同じ局面、ハンドをとられなくて1点入ったらどう思う?」
「ラッキー

例を挙げた渋沢の問いに、にっこり笑ってしかもピースつきで即答した藤代に、は予想通りというように笑い、渋沢はがくっと衝撃を受け、桐原はバカ者が・・と呆れたように呟いた。こんな様子は、武蔵森学園サッカー部の普段の様子をよくあらわしているように見える。

「お前に聞いた俺が悪かった」
「そうだな渋沢、藤代にはそれじゃ通じねぇよ」
「ちょっとキャプテン、先輩!終わりにしないでよ」

頭を押さえる渋沢とその肩をぽんと叩くに、藤代が慌てたように言う。なんとも笑ってしまいそうな構図だが、本人達はいたって真面目だ。さきほどの藤代の言葉だって、冗談やノリだではなく 本音だということを知っているために、コホン と一つ咳払いをして、雰囲気を変えてから渋沢が続ける。

「・・つまりだ。風祭は多分1点入ってもお前のように喜べないんだ」
「審判の判定でセーフならいいじゃないッスか、それも1つのテクニックだし」
「ま、その通りなんだけどな。こういう1点を争う試合じゃ、なおさら点取りにいくべきだし」

藤代の、なかなか現実的な返答にが同意する。渋沢とて、風祭の迷いについてはわかるものの、藤代たちの側だということも明確だ。勝つための、勝てる強豪チームに所属する3人には、標準の中学生よりも大人びた、シビアな考えも持っている。そうでなければ勝てない試合だって、ないわけではないからだ。そしてそれは、風祭とは反したものだということもまた明白なことだった。

「勝負のためなら何をしても良いという訳ではない。が、テクニックとして相手のファールを誘う、審判の見えないところで相手を牽制 ――― 衣服や体をつかんで動きを止める。審判に見つかってしまうようではテクニックとはいえん。日本人は正々堂々を好むが、そんなことでは海千山千の世界相手に戦えん」

よどみのない、武蔵森サッカー部の監督である桐原の言葉を、メンバーたちは黙って聞く。ここにいる3人は、世界を相手に戦ったこと経験があるメンバーだ。世界の壁がどれだけのものか、知っていた。正々堂々だけでは勝てない世界を、知っていた。だからこそ、自分が出来るもの ――― 自分の技術もメンタルも、マリーシアも、全てを使って戦いに行く。全ては、勝つために。結果を残すために。そういった世界を知っていた。

「さっきのとこは、翼も審判に見えないようにシゲの腕押さえてましたしね」

残り時間が少なくなってきたこの試合を目で追いながら、あくまで客観的で冷静なの言葉に、桐原が頷く。その目は、多くの選手たちを育ててきた、指導者としてのそれだった。

「分かれ目だな。部活としての楽しいサッカーか、あくまで勝ちにこだわるサッカー選手としての未来を見据えたサッカーか」

の目に、動きがぎこちない風祭、そして、桜上水のメンバーたちが映る。武蔵森に所属している自分達が選んだのは、勝ちにこだわるサッカーだった。 さぁ、彼らはどちらを選ぶのだろう。







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