To Shine
願え 力を






「・・はー・・・」

今日の練習を終えて、ひとまず着替えてから、はそのままにボスンとベッドに倒れこんだ。そのまま意識が遠くへ飛びそうになったところに、バタンとの部屋のドアが開く。

!』
「・・・クラウス・・おまえ元気だな」

音を立てての部屋へと入ってきたのは、現在のチームメイトであるクラウスだった。バイエルンミュンヘンのトップDFである彼は、何かとに構いたがる。それはにとってもありがたいことだし、おかげでこの一週間でだいぶドイツ語も上達した。けれど、それと今の状況とは話が違う。顔に笑みを浮かべるクラウスを、はベッドに寝転んだままでダルそうに見上げた。

『なぁ、ミニゲームやろうぜ!』
『・・悪いけど俺、そんな元気ない』

言うと同時に、にまた眠気が襲ってきた。あぁ眠い、ってかなんでこいつこんなタフなんだよ と、は半分霞んできた意識の中で思う。がバイエルンに来てもう1週間が過ぎ、ここにいるのもあと半分の1週間となった今でも、ここの練習はにとって相当ハードなままだった。にとって、というよりも、以前からこのチームにいた面々でさえも、ここ最近の練習ではへばっている場面をみかける。これはコーチ陣が日本からやってきたの存在を活用して、を鍛えるとともにチーム力を向上させようと考えたためだった。技術面で言えばそこまで劣っているということもなく、練習にもついていってるし、確実に巧くなってきているとは思う。

けれど と、は目の前の少年に目を向ける。まだ、このクラウスに勝てる とはいえない。ドイツのU−16のメンバーであるクラウスは、さすがはバイエルンのトップDF、やはり上手い。そして、と比較的プレースタイルが似ていた。だからこそ、こいつからも何かしら盗んで帰りたいと思っている。ぼうっとクラウスを見上げるに、クラウスが相変わらずの顔で笑う。よく笑っているやつだけど、藤代の笑い方とは少し違うんだよな と、あまり働いていない頭では思った。

『なーに言ってんだよー。起きろって』
『・・わかった。1時間待ってくれ』

体をベッドに預けたまま、寝ぼけたような声でが言う。その声に、んー と、クラウスが考えるような仕草をした。クラウスの体力はこのチームでも指折りのもので、回復が早いことも相まってか、倒れるほど疲れているわけではない。けれどクラウスが練習を思い返せば、確かにバイエルンの監督もコーチもそれは熱心に、言ってしまえば本来のメンバーよりもずっとのトレーニングをやっていた。けれど、気持ちはよくわかる、とクラウスは思う。期間限定だからということもあるだろうけれど、日本のトップDFってだけあって技術もしっかりしてるし、メンタルも強いし、呑み込みも早い。そして、本人曰く かなりマジにやってきたというドイツ語は ここにきてから格段に上達し、日常会話はさほど問題なく出来るために、チームメイトとも馴染んで試合などだって普通にやれる。
そこまで考えて、クラウスは 納得するように笑みを浮かべる。が目に見えて上達していくもんだから、監督とかも楽しくてしょうがないんだろうな と思う。指導者にとって、そういうのは最高の楽しみなんだろうな と。

『おっけー。歌でも歌ってやろーか?』
『いや、・・いらない・・』

クラウスがおどけたように言えば、が掠れた声で返して、そのままに寝息が続いた。そんなに、おぉ、ホントに寝た と思いながら、クラウスは今更にの顔を眺める。
日本人にとっては一般的な黒目黒髪を持つの容姿は、ドイツ人であるクラウスにとって、そしてチームメイトにとって、珍しいものだった。その独特の黒は、ドイツにおいては余計にその神秘さを漂わせる。いつものようにサッカーをしている間だったらそこまで思わないけれど、こうやって寝顔などを見ていると、何か自分たちとは違う繊細さのようなものを感じて、クラウスは前に映画で見た日本人女優を思い浮かべた。そうして、の髪をしげしげと眺める。そんなうちに同じくを誘いにきたほかのメンバーたちがクラウスと共に日本人についてを語っている間にも、すっかり寝入ったが気づくことはなかった。
けれどそんなことをしながらも、クラウスたちはきっかり1時間後、を叩き起こしてゲームを強行するのだった。







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