To Shine
願え 力を






バタンと車のドアを閉めて目に入ったのは、何度か来たことのあるJヴィレッジ。聞こえたのは、白熱するサッカーの試合の声。それらに、は自然と口元を上げた。

「さて、俺は先にヴィレッジに挨拶に行くが・・」
「はい。ありがとうございました。俺、あっち見てますね」

榊に向けた顔をもう一度Jヴィレッジに戻して、は軽い足どりを進めた。の位置からは見下ろした場所にある芝の上では、プレーが止まっていた。一つの場所に固まって、救急箱なんかも出ていて、誰か負傷でもしたかな と考えるの視線の中で、その中心にいる人物が立ち上がった。目を凝らしてその人物を見て、が あれ と声を上げる。そこにいたのは、ロッサの真田たちだった。

「・・・あぁ、あいつらも来てたんだ。」

が納得したように呟く。クラブチームは、たまに強豪の中高チームと試合をすることがある。武蔵森もロッサと試合をしたこともあったから、は真田たちとの面識があった。それにもともと、お互いアンダー代表で年齢が1つの差だけしかないため、ある程度の交流はある。彼らのプレーを思い出しながら、が再開された試合を見ていると、ふっと雰囲気が変わった。
若菜が風祭からボールを奪って、郭にパス。そっか、風祭も呼ばれてたんだ とが思っている間に、郭はラインギリギリを走るボールを出した。ラインを割ると思われたボールをとったのは、真田。そのままの勢いでDFを振り切って、もう1人のDFもキックフェイントで抜いて、そのままゴール。

『Hui,nettes Vergehen.』(へぇ、いい攻撃だな)

ふともらした感嘆の言葉。それがドイツ語だったことに気づいて、は浮かべていた面白いものを見つけたような笑みを、苦笑に変えた。どうやら、予想以上にドイツでの2週間は体に染み付いているらしい。そして真田のゴールのカウントの笛の直後、終了の笛がなった。

「前半終了!」

告げられた言葉に、はそっか、よかった と感じる。まだ後半分が見れる、と。せっかく来たのだから、そう、見れるものは見ておきたい。
そのとき、のジーンズのポケットがゆれた。そういえばマナーモードにしてしまったままだっけ と思ってが携帯を取り出す。表示を見ると、発信者は『桐原監督』の文字があった。

「はい、です」

次に聞こえた声に、はなんとなく笑みをこぼす。3年間ほぼ毎日聞いていた声を、久々に聞いたからだろうか。そうして桐原に今の場所と、選抜を見てからすぐに帰ることを伝えて、通話をきる。
選抜の結果が出るまでに時間が空くだろうし、それを待っている理由はにはない。誰が受かって、誰が落ちても、口を出す権利も資格もないなんて勿論のこと。だから、そのまま帰ろうとは思う。紅白戦が終わって、挨拶をして・・・ここを出るのは、一時間後くらいかな、と携帯の時計を見ながらが思ったそのとき、


「あーー!!先輩っ!!!」


聞こえた大声に、はついそのまま知らない振りをして踵を返したくなった。声の主なんて、わかりきっている。

「・・・・・藤代、お前もうちょい考えろよ・・・・」

何十人もの視線が集まっているのを感じて、悪目立ちする以外のなにものでもないと思いながら、同時に藤代がこんなとこで考えるやつじゃないことをわかっているは、駆けてきた藤代に対する反応を考えるのだった。







  << back    next >>