To Shine
Start of the final school year.






今回の武蔵森学園サッカー部は、地区大会からのスタートとなる。前回、去年の秋に行われた新人戦で、ベスト4に残れなかったためだ。それは何故かといえば ―― 一から説明をしだすと長いことになるので一言で言うと ―― ケガ人続出のためだった。センターバックであるや司令塔である三上をはじめとするスタメンの面々が、こぞって登録メンバーから抜けていた。そうして今年の、武蔵森学園にとって久しぶりの地区予選の初戦の相手は桜上水中。それを監督から知らされたのが、今日の練習の解散の集合でだった。

「そういえば、今日の監督なんか変でしたよね」

いつものように同室の藤代の帰り支度が終わるのを椅子に座って待ちながら、笠井が思い出したように言った。え、そう?と返したのが笠井を待たせている張本人である藤代で、そうだな と返したのが鍵を締めるために残っている渋沢だった。言葉を返すことはせずに笠井に視線を向けたのが渋沢と同室の三上、そして渋沢たちの部屋に用があるために残っているだ。藤代の反応にもう少し周りを見なよ と笠井が呆れたように言って、けれど地区予選からの出場で試合数が多くなると喜んでいた誠二には見えていなかったか と、自分の中で納得する。その様子に苦笑しながら、渋沢がなにかあるのかもな と話題を戻した。

「強いやつがいるとかってことスか?」
「どうだろうな。あまり聞かないが・・・」

目を輝かせた藤代に渋沢が律儀に応えて、さすが犬だなとが笑う。なんスか先輩、と口を尖らせるエースストライカーに、そんなんだから犬だって言われんだよ と思いながらも、は 別にー、と軽く言葉を返した。その様子を見ながらも、まぁ、用心するに越したことはないですよねと言う笠井はもうこの雰囲気に慣れてしまっている。頷く面々の中で、はっと三上が笑った。

「どこだろうと関係ねぇよ」

あっさりと言い放った三上に、が諌めるように声をかける。そんなを一瞥して、三上はニッと笑う。その笑い方は、三上特有のものだ。

「勝つのは俺たちだ」

サッカーに絶対はない。これはよくわかっている。今までずっとサッカーをやってきた中で、身に染みてわかっていることだ。そしてまた、強気で行かなきゃ勝てるものも勝てないということも彼らは知っていた。勝つ気がなきゃ勝てない。それはなんにしてもだ。ましてや3年生にとって、これは最後の1年。今年1年、1敗だってしない。そんな気持ちで、望まなければいけないとそう思う。

「そうッスね!」

にかっと笑って、藤代が言う。ただ純粋に、他意もなく。勝つのは自分たちだという、単純で絶対的な自信。だってそう、これだけの先輩たちがいて、自分たちがいて、今までの人たちがいて。自分たちは、それだけのチームだという自負がある。それに見合うだけのことはやってきた。ましてや、今年はこの先輩たちとできる最後の年。まだ教えて貰いたいことはたくさんある。奪いたい技術だって、見習いたいところだって、山ほど。だからこそ、負けるなんて、そんなの絶対に嫌だ。そんな思いをもちながら、な と藤代が笠井へと同意を求めれば、そうだね と笠井が柔らかく笑う。そんな様子に、と渋沢も目をあわせて笑った。


「・・・勝とうな」


ゆっくりと、落ち着いた声で渋沢が言う。そんな渋沢の声だからこそ、その言葉は胸にすんなりと染みこんで、顔を合わせて笑いあう。思いは1つ。 絶対に負けない。







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