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To Shine
願え 力を
「で、さ。・・・どうしたの?あいつ」 藤代との会話をいったん切って、が視線をコートに向ける。その言葉に、渋沢も藤代もコートを見た。コートにいる、見慣れた仲間を。が何を言いたいのか、誰のことを言っているのか。それは渋沢にも藤代にも、わかっていた。 「・・ここ来てからずっとあんな感じッスよ」 口をとがらせて、藤代が呟いた。まるで、納得がいかないとでもいうように。 「他の事に気をとられすぎて、自分のサッカーができてないんだ」 その言葉に同意するように、渋沢も続ける。悔しそうに、眉を寄せながら。 三上の実力を知っているからこそ、認めているからこそ、納得がいかない。それは、今 来たばかりのにも感じられることだった。最初からこの合宿に参加していた渋沢たちにとっては、誰も言いこそしなかったが、溜め込んでいた気持ちだった。 他の事。それは、にも思い当たる節がないわけではない。まだあれから、大した日数は経っていないのだ。だからというわけではないけれど、ああして意識している三上を責めることはできないとは思う。 武蔵森の、10番の件。いくら解決したとは言っても、あの出来事が三上にとってそれだけ大きい出来事だったというのは言うまでもないことだ。それは、あのとき近くにいた自分たちがよく知っている。 さきほど挨拶に言ったときに、は西園寺からこの試合のシステムを聞いた。選抜に合格したものから、交代となってゲームから抜けていく。水野がコートの外にいるということは、受かったということだろうとは思う。三上がコート内にいるってことは、まだ選抜中ってことだ。たぶんきっと、そのことも多かれ少なかれ影響して。 今の三上のプレーは、俺が、武蔵森の面々が認めるあいつのプレーじゃない。 それを切に感じて、はぐっと拳を握った。実力が出せない。思うことができない。いつも出来ることができない。プレーヤーにとって、これほどもどかしいことはない。これほど、悔しいことはない。そしてそれは確実に、後に後悔を残す。 東京選抜のレベルは、決して低くない。どれだけ上手な選手だろうと、技術をだせないままに合格できるほど簡単なところではないというのは、とて客観的に見ていればわかる。まして、MFは激戦必至のポジションだ。 三上がチームを大切にしているのはわかっている。武蔵森を誇りに思っているのも知っている。だからこそ。強豪武蔵森の10番という肩書きを背負っているからこそ、なおさら。 あいつは、自分を責めるかもしれない。 「・・・・・あのバカ・・」 が小さく呟いた言葉は、コート内の声にかき消されて隣でコートを見つめる藤代にも聞こえなかった。が小さく、悔しそうに呟いたその言葉は、誰にも聞かれること無く、ただの耳に響いただけで。 自分がいたからと言って何が変わるかはわからない。寧ろ、更に悪い方向へ進んでいたかも知れない。だけど。 はこのとき初めて、選抜に来ればよかったかもしれないと思った。 |