To Shine
願え 力を






先輩!」
「お帰りなさい!」

武蔵森に着き、松葉寮に入ると同時に、自分に向けてかけられた多くの声。そして、その声にさらに集まってきた部員に笑って、はここに帰ってきた証の言葉を口にした。

「おぉ、ただいま」



パタン と寮内の自室のドアがしまった。どん と持っていた重いバッグを床に置く。ふぅと1つ息をついて、はひらひらとバッグを持っていた手を振った。

「あー重かった」

自分で持っていったものだけど、さすがに2週間分はキツいな と改めて思った。観光なんかで行くならまだしも、サッカーをしにいったのだから、用具一式に加えてジャージやらなんやらと、普通よりも倍近い量があった。バッグの荷物を出そうかと考えて、けれどなんとなくダルくて、そのままぼすっとベッドになだれ込む。久々のその感覚に、一気に眠気がを襲った。3年目になる、自分のベッド。家のベッドと並んで寝やすいのは、やはり馴染みがあるからだろう。瞼がくっつきそうになるのをなんとか堪えながら、はポケットから携帯を取り出した。そうして時間を表示させると、まだ3時少し過ぎ。締めていったカーテン越しにも、充分に夏の日差しがわかる時間だ。

どうしようかな とは思う。みんながわざわざパーティを開いてくれるって言ってた。飛行機の中で寝たとはいえ、練習を終えてきているのだから、今ここで寝たら、確実に起きれない気がする。でも眠い。眠い。ねむい・・・・。
そのまま、ずるずるとが眠気に誘われていく中。の携帯がゆれた。

「・・・・・・・・・あー・・?」

手の中で動いた携帯にはさすがに気づいて、やっとのことで閉じていた瞼を開けて、が携帯の表示画面を見る。発信者は、『三上 亮 』。その名前に、細く空いているだけだったの目が、ぱちりと開いた。一気に眠気も吹きとんで、そのまま通話ボタンを押す。

「もしもーし?」
『あー・・お前もう武蔵森着いたのかよ?』

聞こえた歯切れの悪い声に、は結果がわかった気がした。もちろん、違うかもしれないけれど。違うほうが、いいけれど。だけど、自分はそこまで三上のことを知らないわけじゃない。とりあえず三上がその話題を振ってくるまで触れないでいようとそう思ってはいつもどおりに会話を続けた。

「あぁ、さっきな」
『つーか、何さっさと帰ってんだお前』
「なに、そんな俺にいて欲しかった?」

いつもどおりの、軽口。そこで、いつもの三上を考えれば とても不自然に空いた間に、は眉間に皺を寄せた。
試合が終わった時点で、渋沢と藤代は合格していた。が見た限りでは、間宮も合格ラインだと思う。そうしたら。
意地っ張りな三上のことだ。チームメイトにも弱音も吐けないだろうし、悔しさをぶつけることだってできないだろう。そう思っては少し息を吸った。

「なー三上」
『・・・なんだよ』
「俺さぁ、猛烈に眠いんだよ。それはもう本気で」
『は?』

電話越しに聞こえた訝しげな声に、小さくは苦笑した。もちろん、電話越しにはわからないように。眠かったのは事実だけど、今はそうでもない。おまえの電話のせいで起こされたんだから。けれど。

「けどさ、なんか俺のパーティ開いてくれるらしいし」
『・・あぁ、そういやそんな話になってたな』
「そ。俺、多分寝たら自力じゃ起きれねぇんだよなー」

わざと軽く、三上に今の自分の顔がわかるような口調で言う。こういうとき、電話というのは便利なものだとは思う。例えば笑っていなくても、そういう声で言えば相手には思ったとおりに伝わるのだから。別に、今の自分が笑ってないわけではないけれど。笑っているわけでもない、けれど。

『・・・・・で?』

ため息をついてから聞こえた三上の、わかっているような声には笑う。少しだけいつもどおりになった三上に、少しだけ、笑う。

「始まるのは三上たちが帰ってきてからだろ?帰ってきたら、起こしに来て」
『・・・・・・ったく、わかったわかった。着いたら行ってやる』

呆れたように言う三上が、本当は呆れていないことなど、にはわかっている。きっと三上は、言葉の意味をわかっているのだろう。そのうえで、了解したのだ。

(今はいてやれないけど、後で愚痴でも弱音でも聞いてやるから。)

そんな意味で言った、の言葉を。



ピッと電源ボタンを押して、通話をきる。ふぅと息をついて、は起き上がっていた上半身を再びベッドに沈めた。何だかめまぐるしいことになっているような気はするけれど、これは二週間武蔵森を留守にしていた分のツケだろうか。そう考えているうちに、また眠気は襲ってきて。このまま行くと、三上に電話で言ったとおりになりそうだな なんて頭の隅で思いながら、今度は眠気に抵抗することもなく、はそのまま瞼を閉じた。







  << back    next >>