To Shine
Each drives for the dream.






ガラリ と自動ドアが開く。途端に身体は涼しさを感じて、ひやりと冷たさを感じた設楽は小さく息を吐いた。普段、彼はあまり涼しすぎるところにはいない。あまりに外と差のある気温になれてしまうと、いざサッカーをしようとしたときに身体に負担がかかるため、注意するように監督に言われている。だから、ここまで涼しい場所は、こういったコンビニなどの場所でしか感じない。それにしたって温度下げすぎだよなぁ なんて思いながら目的であるアイスのコーナーへと足を進める。いくらこの場所が寒いくらいだとはいえ、外は暑い。今こそまさに、アイスが売れる時期だろう。と、そんな設楽に、聞き覚えのある声がかかった。

「あれ、設楽?」

それは自分の苗字であって、しかも、あまり多いものではない。ということは自分を呼んでいるんだろう。いくら夕方とはいえまだまだ暑い外を、自分の家よりも少し遠いこのコンビニまで歩いてきたためにどこかぼんやりした頭でそう思いながら、設楽は声の主を振り返る。そうすれば、先ほどまでのダルさはどこへやら、設楽はパチリと目が覚めた。

「・・・、おまえ何してんの?」
「何って、アイス買ってんだよ。つか、久しぶりだな」
「おまえ選抜来なかったもんな」

よ と笑うに、設楽はさらりと言い放つ。その言葉にはそれだけの意味だけでなく、なんで来なかったんだよ という意味がありありと含まれていて、あー とが口を濁した。最近では、サッカー関係の友人に会うたびにそんなことを聞かれている気がする。まぁいろいろと とが言えば、設楽はあっそ と引き下がった。理由を問いただす気はないらしい。こういうあっさりとした設楽の性格を知っているは、こいつらしいなぁと笑う。
設楽は、武蔵森のライバル校である明星のレギュラーFWだ。長年の宿敵と言われる武蔵森と明星は、大会があるたびに顔を合わせる。ここ数年、東京の中学はこの二強時代が続いている。そのために同じ学年であるメンバー同士は当たり前のように顔見知りで、さらに選抜などでも顔を合わせるために、偶然顔を合わせたときには一緒に飯でも食うか なんて話になることもざらにある。だからこそ、この2人がコンビニで出会ったのなら、こうしてアイス売り場の前で立ち話なんてことになっても違和などはないのだ。

「最近どーだよ、明星?」

二 と笑ってが言う。日に焼けたその肌は相当に黒くなっていて、けれどそれは設楽も同じだ。武蔵森も明星も、他のチームだって、今は猛練習の真っ只中だろう。夏の都大会は、もう間近にせまっている。こんな時期にどうだと聞いてくるライバル校のセンターバックに、設楽は笑い返す。

「ま、普通だな」
「普通?」
「イエス。ふつー」

言葉を聞き返すに、設楽は口元をあげて肩をすかせる。実際、普通などではない。夏のこの時期だ。先日終えた合宿なんかは、毎年終れば思うことだけれど、よく乗り切ったものだと思う。だけどそんなこと、武蔵森のレギュラーに話すことではないし、なんとなく、言いたくない。そうして、ふーん と返したに、そっちは?と設楽が問いかけた。

「んー、俺らも普通?」
「嘘つけ」
「明星は普通なんだろ?じゃ、武蔵森も普通だ」

含みを持たせるように言ったに視線をやって、設楽はもう一度肩をすかせた。明星が相当な練習をやっているのくらいわかってる。だけど、自分たちだって負けないくらいにやっている。そんな意味の言葉に、設楽は口元が上がるのを感じた。
とのこういう会話は、嫌いじゃない と設楽は思う。彼は守備に定評のある強豪校 武蔵森の要だ。全国区でトップDFと有名なを抜き、さらに世代ナンバー1GKと言われる渋沢を抜かなければ、武蔵森のゴールネットを揺らすことは出来ない。言葉だけでも重くのしかかるそれは、実際に対戦してみればもっと難関なことだ。藤代や三上があれほど自由にプレイできる後ろには、彼らがいる。もちろん自分だって、明星のDFのことを信頼してはいるけれど、それとこれとはまた違うと設楽は思う。客観的に観たって、三上たちがたちを信頼してプレイしているのはよくわかるのだ。

「さて、俺はそろそろ戻んなきゃ」

あいつら待ってるだろうし と、が壁にかかった時計を見上げる。買出しか?と設楽が聞けば、不本意ながら罰ゲームだからさ とが苦笑した。なるほど と設楽は思う。武蔵森は寮であるため、よくそういったことを賭けてゲームをする と設楽が聞いたのは、たしかからだった。そしてそのときに、藤代が格ゲーにとても強いということも聞いた。ポンポンと手にもったカゴにアイスを入れていくに、そりゃお疲れ と声をかけて、設楽はひとつアイスを手にしてレジへと向かう。テープでもよろしいですか?と聞く店員に はい と返しているうちにもは設楽の隣のレジへと並んで、会計を終えた設楽はそのアイスの量にうわ と呟いた。

「多・・」
「しょーがねぇだろ、うちは大所帯なんですー」
「どこの母親だよおまえ」

わざとらしい口ぶりに即行でツッコんだ設楽に、ナイスツッコミ とが笑う。同じく会計を終えてコンビニのドアの前へと立てば、開いた扉はコンビニに慣れた身体に眉を寄せるほどの熱を送る。ため息をついた設楽と、うげーと呟いたは、けれど足を進めて、コンビニの扉は彼らの後ろで閉まる。買ったアイスの袋を開けながら、設楽はじゃぁ とに声をかけた。

「がんばって帰れよ」
「・・つーかコレ溶けるだろ普通に」
「走ればいけるんじゃね?」

アイスを口にして余裕そうに言う設楽に、はは・・とが嫌そうに笑う。ま、善処してみるか と呟いて、もじゃぁ と設楽に声をかけた。その目は、先ほどまでのものとは少し違う。強気に自分を見てくるに、設楽も視線を返した。

「試合で、また会おうぜ」
「・・・あぁ、そうだな。試合で」

の言葉に、設楽が笑う。もう都大会の抽選は終っていて、トーナメントは決定済み。東京の二強である武蔵森の明星は、シードによって両端に位置づけられている。つまり、      決勝までは、あたらない。もう3年目の夏を迎えた今、試合をするためには、決勝までいかなければならないのだ。お互い、もちろんそのことを知っている。知ったうえで、三年間の最大のライバルに敬意をこめて。

試合で、また会おう。







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