To Shine
Each drives for the dream.






都大会、トーナメントの4回戦。4回戦もきっちりと勝った武蔵森は、準決勝への進出を決めて会場を出る。勝ったせいもあって、チームの雰囲気はいつもと変わらないか、それよりも少し気持ちが高ぶっているくらいだ。武蔵森からあまり遠い位置ではないこの会場に、私立中学らしく武蔵森の所有しているバスで来ていた彼らはそれぞれ駐車場に止めてあったバスに乗り込む。けれど乗り込むための列の途中にいたは、ふいに あれ と声を漏らした。そして、すぐに視線の先に笑顔を送る。その様子に、彼の後ろにいた三上は怪訝そうに眉を寄せての視線を追った。そうすれば、三上は怪訝という感情よりももっとあからさまに眉を寄せた。そこにいたのは、桜上水の      風祭、小島、そして水野の面々だった。

「悪い、俺 自力で帰るわ」

が三上を振り返って言う。ぺこり と風祭が頭を下げたのがわかったが、三上はそちらを一瞥しただけで特に行動はおこさなかった。そんな三上には苦笑する。けれど、三上の気持ちもわからないでもない。桜上水がどうとか風祭がどうとかではなくて、三上はただ単に水野に対しての対応をもてあましているのだろう。それが隣にいる風祭に対してすることだって、水野に見られているからしたくない。そう思っているのがわかるからこそ、は苦笑しただけで、渋沢に言っといてな と告げて列を外れていった。そのの姿に、武蔵森のメンバーから不思議そうな声がかかる。三上は、全く とため息をつくだけにとどめて、さっさとバスに乗り込んだ。



「よ、桜上水」
「こ、こんにちは、先輩!」
「・・どうも」
「こんにちは。バスはいいんですか?」
「あぁ、大丈夫大丈夫。」

がにこやかに挨拶をすれば、それぞれから反応が返ってくる。その中で、バスへと視線をやりながら言った小島の言葉に、はひらひらと手を振って笑った。実際ここから遠いわけでもないし、少し歩けば武蔵森に着く路線のバスだってあるから、帰りづらいということもない。そんなに、すみません と風祭が慌てたように頭を下げた。大丈夫だって とが苦笑する。

「俺が話したかったから来たんだし。そっちは3人?」
「あぁ・・シゲも来るって言ってたんだけど」
「寝坊したらしいんで」
「・・・そりゃあいつらしいな」

呆れたように言う水野と小島に、も倣うように笑う。4回戦を勝ち上がり準決勝への進出を決めた武蔵森とは違い、桜上水は3回戦で明星に1−0で敗れていた。そのため、4回戦が行われた今日 試合がなかった桜上水では、こうして観に来ている風祭と水野、小島と、シゲも来るはずだったのだ。けれど第一試合で行われたこの試合に、シゲは寝坊したらしい。一昨日行われた3回戦の疲れもあったのかもしれない。シゲは、試合でもいい動きを見せていた。

「そういや、見たぜ。明星との試合」

思い出したように言ったの言葉に、桜上水の面々は目を見開いた。その反応に些か疑問を持ちながらも、ビデオでだけどさ とが言葉を続ける。明星の試合ということもあって、サッカー部の関係者が撮ってきたビデオを、は昨日見ていた。そのため、前半20分くらいの攻撃パターンとか、よかったよな と感想を述べていくに、風祭は顔をゆがめて、感極まったかのようにバッと頭を下げる。それに驚いたのは、いきなりそんなことをされただった。

「どーした、風祭?」
「・・・すみません!」
「いや、なにが・・」
「待ってるって、言ってくれたのに・・!」

言葉にしながら、風祭は耐えるようにぐっと拳を握った。武蔵森と戦うことを目指してきたのに、叶わなかった悔しさ。待っているといってくれたのに、そこまでたどり着けなかった不甲斐なさ。こうやってを前にして、その気持ちがますます自分の中に溢れてくる。
自分たちには次がある。次の大会も、来年の大会も、今と変わらないメンバーで挑むことが出来る。けれど、武蔵森は違う。今のメンバーなのは今年だけで、来年には多くのメンバーがいなくなる。今の武蔵森とやる機会は、もうない。自分たちの目標である武蔵森の、渋沢も三上も、そして今 目の前にいるも、次にはもういないのだ。これが、最後の大会なんだから。そう思えば思うほどに襲ってくる悲しさと苦しさに、風祭はますます深く頭を下げる。そんな風祭に、は苦笑しながら息を吐いた。

「・・なーに言ってんだ」

その声に、風祭と、そしていつの間にか俯いていた水野と小島は頭を上げた。そうすれば、そこには笑っているがいて、風祭は思わず でも と口を開く。けれど、は風祭の言葉を遮るように言葉をかぶせた。

「んじゃ聞くけどな、おまえたちは、手ェ抜いてでもいたのか?」
「そんなわけ・・!」
「だろ?」

の言葉に反応したのは、水野だった。心外だとでも言わんばかりの様子に、は笑う。そんなこと、はじめからわかっていた。都大会に出てくるようなレベルなら、いや、地区大会だって、みんなが一生懸命にやっているのだ。そんなことは、十分にわかっている。だからこそ、は彼らに伝えるために口を開いた。責める気なんて、これっぽっちもないのだから。

「だったら、謝るな。精一杯やったやつらを貶せる奴なんて、誰もいねぇよ」

そもそも、強いとか弱いとか、そういうこと以前の話だ。精一杯努力して、勝とうとして、それでも勝てなくて泣いたやつらを貶せる奴なんて誰もいない。全国の優勝チームだって、都大会でそれだけの努力をして負けたチームのことをひどく言える権利なんて持っていないはずだ。
桜上水が勝とうとしてがんばってきたことを、もちろん全部ではないが、は知っている。むしろ、チームが結成してからこの短期間でここまで成長したことを褒めてやりたいくらいだった。相手が明星じゃなかったら、もっと勝ちあがれたのかもしれない。そんなこと言ったところで変わるわけではないし、そんなことを言い出したらキリがないけれど、桜上水は都大会で勝ち上がるだけの力は持っていたとは思っている。だから、謝る理由なんて全くないのだ。の言葉に、風祭が泣きそうな顔をして、はい と小さく返事をした。小島がこくりと頷く。そうして、水野がにまっすぐな視線を向けた。

「・・負けないで、ください」

水野の言葉は、本心だった。自分たちが、負けたチーム。自分たちが、戦うことを目標としてきたチーム。自分たちが目標とするチーム。その実力を、自分たちは肌で感じた。彼らは勝てるチームだ。強いチームだ。それだけの実力を持っているチームだ。だからこそ、勝ってほしい。上までいってほしい。そうすれば、自分たちの思いも少しは報われる気がする。なんて、そんなのは押し付けがましいけれど。そんな水野の言葉に、は受け入れるかのようにふわりと笑った。

「・・・あぁ」

それが、自分たちが勝ってきたチームに対する責任だとは思う。他のチームに勝って、他のチームを引退させて、自分たちは今ここにいるのだ。だったら自分たちに出来ることは、そのチームの気持ちを全て背負って、少しでも長くやることだ。少しでも、勝ち上がることだ。そう、彼らの思いの分まで。







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