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To Shine
Each drives for the dream.
実際のところ、友達同士で試合をするっていうのは結構当たり前のことであって、たとえばそれが最後の試合になることだってある。だけどだからってそこで手を抜くとか、躊躇うとか、そういうのは違うことだ。だってどっちも精一杯やってきたわけで、っていうか、相手がかわいそうだからとかって自分が負けることを考えるような、そんな弱い気持ちでいるんだったら、極端な話、この場に立つなと俺は思う。 「」 本日の試合会場の通路。ここで声をかけた彼は、赤のユニフォームを着ていた。飛葉中の公式戦のユニフォーム。今この会場で行われている試合の次の、第二試合を行う中学の1つだ。その声に足を止めて振り返ったは、白黒ストライプの武蔵森の公式戦ユニフォーム姿。今日の試合は支障がないため、お互いに第一ユニフォームを着ることなっている。第一ユニフォームのほうが着慣れているというのもあるし、それは学校を象徴するものだからこそ、は試合のときはこのユニフォームを着るほうが好きだ。武蔵森に良く似たクラブのゲーシャツを着て練習することもあるけれど、それとはやはり気持ちが違う。頭の中でそんな違うことを思いながら、は自分よりも低い位置にある挑戦的な目に視線を合わせた。 「今日はよろしくな、翼」 準決勝第二試合は、武蔵森対飛葉の試合だ。 「強いッスよね、飛葉は」 「あぁ。難しい試合になるだろうな」 ベンチメンバーとの円陣を終えて、先に武蔵森のメンバーがピッチにあがる。まだミーティング中の飛葉を見ながら、藤代が言った言葉に渋沢が同意した。最近出てきた学校ではあるけれど、守備に強さを誇るその実力は、自分たちも他の学校も認めている。武蔵森は早くからそれを知っていたからこそ、地区予選の段階で飛葉の試合を偵察に行ったのだ。 「ま、お前らが点を決めてくれればいいわけだけどな」 小さくジャンプを繰り返して芝を踏みしめながら、が言う。もう都大会も準決勝。ここまでくると、芝での試合になっている。芝でできるのは、上位の、強豪チームだけだ。ここに上がっている時点で、強いということは明らかなことだった。勝負に運はあるとは言えど、運だけで勝ち上がってこれるほど甘いものではない。 けれど、武蔵森の目標は、芝でやること 「わかってますよ、先輩!」 「とか言ってもうリスタート忘れてたりしてな」 「な、ちょ、三上先輩!」 覚えてますよ!と言い返す藤代に、三上がどーだか と笑う。それを見て渋沢と笠井が苦笑を浮かべて、中西や根岸が笑いながら茶化す。その光景はまさにいつもの武蔵森の光景で、都大会の準決勝という大舞台の直前だということも感じさせない。けれどそこに漂っているどこか違うその雰囲気を、当人達だけは感じていた。 同じようにその光景を笑いながら見ていたは、視線を感じてふと振り返った。その先には、今日の対戦相手、飛葉のキャプテンである翼の姿があった。フットサル仲間であり、同じポジションということもあって、気の合う友達である翼も、飛葉中のメンバーも、今は倒すべき相手。そのかち合ったその目線に、は笑顔を向けた。挑発的に口元だけを上げた、余裕すら感じさせる笑み。そうしてはすぐにふいっと視線をずらして、何事もなかったかのように整列のために武蔵森メンバーの背中を叩く。行こうぜ とかけた声に、それぞれが笑顔を返した。 「・・・やってくれんじゃん」 そんな武蔵森の様子を見て、翼が小さく呟いた。それは楽しそうな声音で、顔に浮かぶのは、と同じような笑み。あの笑みが彼の挑発だということも、切り替えのスイッチということも、感覚的にわかった。 さきほど通路で声をかけたは、笑っていた。いつもフットサルで会うときのような挨拶と一緒に、気軽に、友達として。けれど、さっきのは明らかに違う。初めて見る、の顔、態度、雰囲気。それは友達に向けるものではなくて、対戦相手に向けるものだった。フットサルでは見られなかった、のサッカーの本気が見れる。そんなと戦える。そう思うと、ぞくぞくとした期待と何かが入り混じった感覚がした。一瞬身体が震えたのは、武者震いというものなのだろう。 「ほら、さっさと並ぶよ」 翼の声に、飛葉のメンバーがピッチへと入る。まだこのチームは新鋭チーム。武蔵森のように、今のこの瞬間にいつもと同じでいられるほど経験があるわけではない。けれどそれでも、自分達の力を信じて、仲間を信じて、これから熱い戦いが始まるピッチに足を踏み入れる。 「では、飛葉中学校のキックオフで始めます」 審判の言葉に、お互いが挨拶をする。の前にいるのは翼。交わした握手はすぐに解いて、2人とも自分のチームの円陣に加わった。言葉は交わさない。今の彼は、勝つべき相手なのだ。 |