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To Shine
Each drives for the dream.
ピピィという試合開始の合図と共に、辰巳がボールを蹴った。そのボールは三上へと下げられて、ボールを受けた三上はそのままボールを前線へと送る。その先には、さっそく走りこんでいた藤代がいた。けれどそんなにあっさりとは行くわけもなく、ボールはしっかりと飛葉のDFにクリアされる。 「チェ」 藤代が言葉を漏らすけれど、その顔に浮かぶのは笑顔だった。そもそも、こんなに簡単に取れると思っていたわけではない。言ってみれば今のプレイは、この試合における自分たちの攻撃性を示すようなものだった。そんな藤代に、近くにいた翼が声をかける。 「随分と好戦的で」 「そりゃ、当たり前っしょ」 その言葉に藤代は無邪気に笑って、自陣のほうへと下がっていく。藤代が並々の巧さではないことは、翼をはじめとした都選抜メンバーも、そうでないメンバーも十分にわかっている。藤代だけでなく、選抜の渋沢や間宮、今大会大活躍の三上、そして。タレントが揃うこのチームに、どんなふうに試合を進めるか。にっと翼は笑みを浮かべた。 守備に定評のあるチーム同士のこの試合は、それでも、攻撃力に勝る武蔵森のほうが飛葉のゴールへと攻めていた。そんな中、武蔵森の攻撃を防いだボールが、そのまま武蔵森のエンド側へと放り込まれる。しかし、そのボールに飛葉のFWが触れる前に白と黒のストライプの4番が立ちはだかった。がっと体をぶつけてはみたものの、小柄な飛葉の9番、千葉ではどうしてもを崩すことはできない。 「くそっ・・」 とは言っても、この人が中学トップレベルのDFということはとうに知っている。翼もそれを十分理解しているからこそ、FW陣にはそれなりのことを教えていた。そのうちの1つを思い返して、千葉がと間合いをあけた。それを感じて、が小さく後ろを振り向く。その瞬間を見てか偶然にか、そのタイミングで千葉が再び体をぶつけた。一瞬不意を突かれたものの、緊張を解いていたわけではないの体はしっかりと千葉を防いで、そのままボールはゴールラインを割って、武蔵森のゴールキック。 悔しそうに踵を返す千葉を見て、が小さく眉を寄せた。少し、気を抜いた。そんな自分を叱咤して、さっきの性質悪いの教えたのは翼だろうななどと考えてから、そのままちらりと時計を見る。時間は後半20分。互いの守備力を考えれば予想範疇といえる双方無得点のままで迎えたこの時間。は相手のゴールを見た。あそこにボールをねじ込まなければ、勝てない。 「笠井!」 渋沢がゴールキックのためにボールをセットしたのを見て、が笠井に声をかけた。笠井はに向かって頷く。それだけで充分だった。意図を理解した渋沢は、フリーのにボールを蹴りだす。ボールを受けたに千葉がプレスをしてくるが、距離はあるし、この状況だ。本気で走っているわけでもない。それを確認して、はボールを持ってスピードを上げて、今日初めて前へ出た。その行動に驚いたのは千葉と飛葉のもう1人のFWの堀江で、彼らは急いでボールへと向かう。2人が向かってきた状態ではボールをこねて、間を作ってから、笠井へとパスを出した。いつの間にか高い位置へと上がってきていた笠井は、ダイレクトでそのボールをはたく。そのボールを飛葉が目で追っている間に、は2人の間をすり抜けた。気づいた2人が慌てて走り出したところで、50mを6秒前半で走るの足には追いつかない。 が右サイドを駆け上がったところで、寄せてきたのは翼だった。まだ随分の高い位置にあるその姿に、ニッとが笑みを浮かべる。 「マッチアップは初めてだな、翼」 「まぁね」 同じく笑い返した翼に笑みを深めて、は一気に勢いをとめた。ぐっと足を踏ん張って、バランスを保つ。ちっと舌打ちして、翼が開いた間を狭めてくるのを目に留めて、弾んだボールを左足の裏でトラップした。は右利きだが、左も使えるというのはの大きな強みだった。翼が足を出してきたのに対してボールを引き寄せて、自分の股下を通させ、右足に持ち替える。 「なっ・・」 瞬時の動きに、翼が一瞬戸惑った。それを目の端で捕らえながら、右足の外側で、ボールをはたく。そのボールに、三上が走りこみ、ペナルティエリアへダイレクトでセンタリングをあげた。藤代はそのボールを右足でトラップしながら、ボールの弾みと共に五助を抜き、六助を背にした状態で右足でボールを流してすばやく反転し、そのまま左足でボールをゴールネットへと突き刺した。 「ゴ 「っしゃ!!」 歓声があがる。鳴り響く笛の音。グッと拳を握った藤代に、武蔵森の選手が駆け寄った。も三上と手を叩きあってから、同じくゴール前まで走っていく。 結果、この1点が決勝点となり、飛葉と武蔵森の試合は武蔵森の勝利となった。 |