To Shine
Each drives for the dream.






「礼!」
「ありがとうございました!」

疲れきった、まだ息のおさまらない体を折って礼をする。そんな彼らに、その向かいのベンチから、会場から、大きな拍手が起こる。 そんな光景が、少し離れた2つの場所で広がった。都大会の決勝戦、武蔵森と、明星。その2つの違いは、その目から零れ落ちるものと、その表情。今し方決勝戦を終え、すれ違った両者の間に言葉はなかったけれど、抱き合ったお互いの胸には、晴れやかな思いが広がっていた。

先輩っ!」
「うげっ」

明星との挨拶を終えて、武蔵森ベンチに入ると同時にガバッと抱きついた藤代の重みと勢いにがうめく。けれど、藤代の顔にもの顔にも、笑顔が浮かんでいた。

「やりましたよ、俺たち!全国ッスね!!」
「・・・あぁ、そうだな」

武蔵森は、この試合に勝ったのだ。都大会の優勝。それは、道が全国まで続くということ。つまりそれは、渋沢たち3年生が武蔵森でいられる時間が続くということ。まだ、このメンバーで試合ができるということ。自分たちは、東京で唯一この喜びを感じられているチーム。そのことを思うと、この先だって、下手な試合はできないと強く感じた。

「ばぁか。暑苦しいんだよ」

ケッと呟きながら肩にタオルをかける三上の顔が笑ってるのも、や藤代の見間違いではないだろう。そんな様子に、もニッと笑った。それは楽しそうに、嬉しそうに。

「なーんだ、混ざりたいっていえば混ぜてやったのに」
「誰もんなこと言ってね・・・どわっ!?」

三上が言い切る前に、の腕が三上の肩に伸び、そのまま藤代や、いつの間にか増えていた武蔵森のメンバーの中に紛れ込む。その中にいるメンバーは、みんな笑顔だ。そう、なんと言っても1つの目標だった、都大会優勝を果たしたのだから。



「優勝、おめでと」
「翼」

表彰式が始まる前の、少しの空き時間。決勝戦の前に3位決定戦の試合を終えて決勝戦を観戦していた翼が、に声をかけた。

「まぁ、僕たちに勝ったんだからそのくらいはしてもらわないとね」
「確かにな。ありがと」

嫌味ともとれる、けれど素直な褒め言葉でもあるその言葉に、も苦笑ではない、けれど満面ではない笑みで返した。その様子に、翼も笑みを深くする。
の実力は、この前の試合で身を持って知った。フットサルで見ただけのものとは比べ物にならないほどの、その力。DF陣だけでなく、チーム全体をまとめるその統率力に、コーチング技術。1対1の強さに、対応の早さ、そして細かいボールタッチ。
素直にすごいと感じる以外に、ある種の恐れさえ抱いた。これが、同じ年代のやつの実力なのかと。
もしが東京選抜にいたら。そう思うと同じポジションの人間としての焦りとともに、1人のサッカー少年として、一緒にやってみたかったという思いが溢れる。

「勝つ、からさ。俺たち」

ふと放たれた言葉は、その表情は、コートで見たものとはまた違う、真剣なものだった。それを感じて、翼は笑みをうかべる。

「・・・・・あぁ。がんばれよ」

彼らの力を認めたから。姿勢を認めたから。努力を認めたから。なによりも、続けていたいという彼らの気持ちが、わかるから。

ふわりと笑った椎名の顔に映るのは、悔しさでも悲しさでもなくて、今までやってきた自分を認める、やり遂げたというその充実感だった。



「優勝・・・・・武蔵森学園!」

こうして、今年の都大会は幕を閉じた。前に立ちはだかる扉の鍵を手に入れたのは、武蔵森。







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