To Shine
夢に近い場所で






「あれ、三上じゃん」

とんとんと階段を下りてきたが、ソファに座る姿を見つけて声をかけた。そうすれば、振り返った三上は、か と声を返す。部屋にいないと思ったら、こんなとこにいたのかよ と笑いながら、は三上との間に1人分のスペースを空けて、ソファに腰掛けた。そうして、はー と息を吐いて腕の伸ばす。

「なんか来ただけなのに疲れたよなー」
「お前が遅刻ギリギリに来たからだろーが」

持っていたペットボトルを開けて、がスポーツドリンクに口を付ける。そうして、三上が呆れたように言った言葉に、あはは と苦笑を返した。そんなに、三上がため息をはく。

「こんな日に限って、マジ馬鹿だろ」
「まぁしょうがねぇじゃん、今更だって」

三上の言葉は全くその通りで弁解の余地もないことに、は手を上げてお手上げのポースをとった。確かに悪かったと思うし、馬鹿だなぁとも思うけれど、シゲと話せたことが自分のモチベーションを上げさせたことは事実で、あいつに向かってガンバレと思うのと同時に、自分も頑張らなければいけないと思う。

上に行きたいとシゲは言った。それは、自分も同じだ。上に行きたい。もっともっと。誰にも負けたくない。

シゲとの会話を思い出しながら、はポケットからチョコを取り出した。折った一欠けらを食べて、三上も食う?というようにチョコを見せれば、三上は眉を寄せて、チョコの代わりとばかりにのペットボトルを奪う。そうしてそれを口にしてから、三上は落ち着いた声音で口を開いた。

「・・明後日から、か」
「・・・ん」

三上がそれは独り言のようなもので、けれどもそれに頷いた。明後日から。そう、明後日からだ。

「・・3回目、だからな。コレが最後だ」

高校に行っても、もっと大きな規模になって、全国高校選手権がある。けれど、この全国中学校大会は、今年が最後。これが、武蔵森学園中等部として出られる、最後の大会。 最後の挑戦になる。これからの試合、全部がいつ負けてもおかしくない試合だ。それを思って、の手に力が篭った。負けるつもりなど少しのないのに、負けたらそれで終わりだと頭のどこかで考える。自信はあるのに、自負もあるのに、けれど不安は付きまとう。
すると突然。

「ばーか」

ごんっという音と同時に、重い拳がの頭を打った。

「・・〜〜っ!?」

少し遅れてやっていた痛みに、が頭を抱える。そんなを横目に、いつの間にか一人分の隙間を埋めていた三上が眉を寄せながら、握っていた拳を開いてひらひらと振った。

「お前、意外と石頭だな」
「っつーか何だよお前は!」

ずきずきと響いてくるような痛みに、ギッとが三上を睨みつけると、心外だとでも言うように三上はに目を向ける。そうして、恨みがましい視線をすっぱりと切るように口を開いた。

「お前が無駄に考えすぎてるからだろ」

言われた言葉に、が目を見開いた。そんなを見ながら、三上はそのままの口調で続ける。

「今から余計なこと考えてどうすんだよ。」

いっそ藤代みてぇに遠足気取りでいとけ と言って片手に持っていたペットボトルを置く三上に、きょとんとしていたままのはだんだんと笑みを浮かべる。なんだかんだ言って、やっぱりこいつは頼りになんだからなぁ、と思う。3年間サッカー部でやってきて得た、信頼できるやつ。大切な、仲間。それを感じて、は笑った。

「じゃあお前にはこれやるよ、はいチョコ」
「誰がいるか」
「遠足にお菓子はつき物だろ?はいはい、あーん」
「いらねぇっつーの!」

そうして騒ぎ出した2人の心の中あるのは、1つの思い。口に出してやろうかとも思ったけれど、やっぱりそれはやめておく。それは、本当に本当に、最後になったときまで、とっておこう。今はまだ、そのときじゃないと思うから。

開幕する、全国大会。思いは、1つ。







  << back    next >>