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To Shine
夢に近い場所で
はじかれたボールをとりにいく選手の傍らで、主審が笛を手にしたのがの目に映った。その瞬間に、の頭の中に、ひとつの言葉が浮かんだ。 俺、なんでここにいるんだっけ? その言葉に、は一方で冷静な頭で考えた。武蔵森に入学して、試合に出れるようになって、代が替わって、センターバックになって、4番をもらって、後輩が入ってきて、いつのまにか、自分たちの代になった。そうしてやってきた今年の春は地区大会からで、桜上水に勝ったことから始まった。夏はシードで都大会からで、飛葉に勝って、明星に勝って、全国にきた。それから、全国の代表校に勝って、この準決勝を戦っている。あの場面で、あの選手に対して、あのボールに対して、みんなが、本当に一生懸命に、がんばったからだ。 そうやって自分のなかでの答えが終わった瞬間、の口元が緩んだ。それと同じように、高い笛の音が響き渡る。そうして、沸き起こった拍手と、仲間のもとに駆け寄って抱き合う選手、それから、糸が切れたように崩れ落ちる選手。そんななかで、は立っていた。重力に従ってしまいそうな体はそろそろ本当に言うことを聞かなそうだけれど、ゆっくりと、顔を得点板に向ける。そこにある、1と0の数字。武蔵森学園の文字がさしているのは、0だ。 あぁ、これで、終わったんだ。 そう思ったのと同時に、頬を汗ではないものが伝った。 応援の礼をしに、スタンドの武蔵森の応援団のもとへと向かう。たどり着く前に、その場から大きな拍手が起こった。顔を上げれば、もう見慣れた、父兄たちや、OBや、友達たちの顔がある。いつもいつも、試合を観に来てくれた人たちだ。その人たちの目に、涙がある。ここに来て、本当に思うことは、自分たちがどれだけ周りに支えられていたかということだった。 「胸を張れ。お前たちは私の認める、武蔵森のサッカー部だ」 ロッカールームで、桐原が選手全員に告げた言葉は少なかった。それでも、その言葉はなによりもたちの胸に響いた。ロッカールームまで引きずってきた足は、言うことを聞かない。足だけではなくて、もう体じゅうが、自分のものではないかのように重い。けれどそれ以上に、気持ちが言うことを聞かなかった。 たしかあの試合で、俺がオウンゴールをした。あの試合は、それまで一向に点が決まらなかったのに、終了間際に点取られたら残り2分くらいでいきなり逆転して、なら最初から決めろよ なんて笑って。あのときは、三上のFKがすげぇ綺麗に決まったんだったな。そんなことが、の頭の中に、堰を切ったように溢れ出す。 正直な話、今まで、止めたいと思ったことがなかったわけじゃない。いくらサッカーが好きだって言ったって、練習はきついし、サッカー部だからといういろいろな制限もあるし、チーム内の人間関係でもめたこともある。上手くいかなかったことなんて、それこそ数え切れないくらいにあった。 でも、それでも、みんなに支えられて、励まされて、乗り切って、止められなくて、俺はこうして、今、ここにいる。 だから俺は、ここにいられたんだ。 |