To Shine
夢に近い場所で






「・・・三上、
「・・・ん」
「・・あぁ、」

渋沢の声に、と三上が短く返した。もう試合が ――― この代の、最後の公式戦が終わってから、随分と時間は経って、やっと気持ちは落ち着きを見せていた。
今日やるべきことは、終わっていない。たち3年がやらなければいけない、大事なことが残っている。今日で、渋沢が率いた武蔵森サッカー部に区切りがついた。明日からは、新チームとなる。だからこそ、代替わりを、すませなければならない。

「みんな、聞いてくれ」

渋沢が落ち着いた声で切り出した。その言葉に、落ち着いてきているものも、未だ涙が止まらないものも、顔を上げて渋沢に視線をやる。そんな部員を見回してから、渋沢が口を開いた。

――― 今日で、俺達は引退だ。」

静かな声が、静かなその場に響いた。その言葉に反応したのは、3年よりも、むしろ2年のほうだった。落ち着いていたものも、またタオルに顔を埋める。

「藤代、泣くなって」
「・・だって、っ・・」
「辰巳。オイ、笠井もだ」
「ッ・・・」
「・・先輩・・・」

声をかけてみても、逆にぼろぼろと涙をこぼす後輩の姿に苦笑して、けれどどこかで嬉しく思う。

そして思った。去年のこのとき、いっそ清々しいように笑った先輩たちも、こんなふうに感じていたんだろうか と。 ――― きっとそうだったのだろう と。

「お前たちのスタートは、ここからだろ?」

そう言って、が笑う。この試合が、終わったから。俺たちの試合が、終わったから。明日からは、藤代や笠井たち、2年生の代になる。

「無様なことしやがったら、ただじゃおかねぇぞ」
「ま、そういうことだな」

ニヤリと、三上が笑う。その隣で、にっとが笑う。それは数え切れないほど見てきたものだ。武蔵森サッカー部に、いつもあったもの。無意識に安心できたもの。これからは、試合中に見ることがなくなってしまうもの。そう思うと、とても不安になった。先輩たちがいなくなって、それでも、今のサッカーができるのだろうか。今まで支えてくれていた、いつも後ろにいてくれた先輩たちがいなくなって、それでも自分は、今のようにプレーできるのだろうか。先輩たちがいなくなった武蔵森を、引っ張っていけるのだろうか。そんな不安が、一気に心を駆け巡る。

「全国制覇の夢は、おまえたちに託すぞ」
「・・・・ ――― っはい・・・!!」

けれども、渋沢の言葉に、笑顔に、まっすぐに前を見て、誓った。先輩から、その先輩から、そのまた先輩から。そうやって引き継がれてきた目標が、名実ともに自分たちに渡された。無様なことなど出来るはずがない。 絶対に、絶対に。
そう強く目に宿す後輩たちに、引退する3年は、笑った。満足感だけではない、悔しいと思う気持ちも悲しいと思う気持ちもあるけれど。でも、今まで自分たちがやってきたことには、胸を張れる。ここまでやってきた自分を、褒めてやろうと思う。

心から思う。
武蔵森のサッカー部で、よかった。







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