To Shine
New daily life






ふと目を覚ましたは、ぼうっと天井を見上げた。いつものように、もう日が昇って、カーテンからは光が溢れている。なんだかさえない頭のままでいつものように目覚まし時計に目をやれば、時計はいつもの起床時間よりも15分遅い時間をさしていた。ぼうっとした頭で、しばらく時計を見る。

「・・・・・、・・っげ・・!!」

それを頭の中で理解するのと同時に飛び起きた。その時間は、稀に、本当に稀にある時間だ。習慣とは恐ろしいもので、この3年間の間に、寝過ごすとは言っても、本気でがんばれば何とか間に合う時間に自然に目が覚めるようになっていた。どうせだったらいつもの時間に目が覚めるようになりたい、なんて思うけれどもそうはいかないものなんだろう。あーくそ、と思いながらベッドを出て、いつものように武蔵森の練習着を引っ張り出し、手にしたところで、はた とは動きをとめた。そうして、しばらく間を空けてからベッドに座りなおす。

そうだ ――― もう、朝練はない。

それに気づいたは、小さく苦笑した。全く、まだ実感がないのか と。それともやはり体に染み付いた習慣だというのなら、いつになったら慣れるのだろう?あーあ とため息を着きながら、もうすっかり目が覚めてしまったは、手にもったままの練習着を見ながら、少し走ってくるか と立ち上がった。手にしていた武蔵森の練習着に着替えようかと思って、けれどやはりそれをしまいこんで私物のユニフォームに着替えて、部屋を出る。そうこうしているうちにもうサッカー部の朝練は始まっている時間で、1・2年が居ない寮内は静かだ。3年は、寝ているのだろうか、・・きっとおきているのだろうと、なんとなく思った。なんにしても、なにか、物足りないというか、すっぽりと抜けてしまったような感覚になる。着ているユニフォームが武蔵森のサッカー部のものではないことに、そう、特に意味なんて ないのだけれど。



――― 渋沢?」
「・・・か」

正面から走ってくる、見覚えのある姿にが声をかける。そうすれば、その人物 ―― 渋沢も、苦笑のように笑いながら言葉を返した。武蔵森の定番の走りこみコースであるここで、あえて逆回りから走ってきたと鉢合わせたということは、渋沢はいつものように走ってきたのだろう。まぁ、走るにしたって、結局はここになるんだよなぁ なんて思いながら、は渋沢に合わせて体の向きを変えた。ちょうど中間地点くらいなのだから、走る距離は変わらないだろう。そもそも朝の走りはそこまで本気でやるものではないのだから、このくらいでちょうどいい。そう思いながら、は隣に並んだ渋沢に声をかける。

「渋沢も目が覚めちゃったってやつ?」
「あぁ。習慣っていうのは恐ろしいな」
「だよなぁ」

今日こうなって、改めて思う。引退になった後の夏休みはそもそもあまり日にちが残っていなかったし、高等部の説明会などで予定がつまっていた。そういった予定のない日は、引退したとは言っても、後輩を鍛えるためという名目のもとサッカー部に顔を出していたのだ。
けれど、新学期が始まってみれば、引退した自分達は、朝練には出られない。これは3年生たちの一種のケジメでもあった。去年のちょうどこの時期、引退した後に、サッカーがしたいと唸っていた先輩に、練習来ないんですか と聞いた後の先輩の苦笑を思い出す。あぁ、今なら、その意味がよくわかる。

「引退したんだよな、俺たち」
「・・・・あぁ、そうだな」

隣を走りながら、ポツリと呟いた。も渋沢も、朝から残暑の陽気のために汗は掻いているけれど、息は切れていない。今までの練習の賜物だと、そう言ってしまえばそれに尽きるのだろうけれど、なんだかそれが妙に胸を擦る。

「・・・・・サッカー、してぇなー」

独り言のように出たの言葉に、渋沢はに視線をやることはなかった。足を進めるペースを変えないまま、前を向いたままで、けれど確かに、あぁ、と小さく頷く。その後に、会話はなかった。



「・・・お前ら、走ってたのかよ」

汗を掻いて寮に戻ったと渋沢に、大浴場で居合わせた三上が呆れたように呟いた。朝食にはまだ早すぎる時間、朝に弱い三上の、不機嫌な様子もなくきちんと目が覚めている様子に、は、小さく笑った。そこにある状況は、3人全員がある程度は予想していたものだったのだ。やっぱりこいつもか なんて、みんなして内心で苦笑を浮かべる。

けれどこれが、慣れなければいけないこれからの日常なのだ。







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