To Shine
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「・・・え!?せ、先輩!?」

1ヶ月前に引退した3年生を前に、1・2年は驚きを隠せなかった。そんな中で、3年生の代表の1人といっていい三上が、彼特有の笑みを浮かべる。

「今日はどうぞお手柔らかに?」

それはこっちの台詞だと、笠井はそう思う。キャプテンとして、先ほど部員達よりも先にOB対現役の試合を告げられていた笠井は、まだ状況が呑み込めていない藤代たちの中、一人落ち着いて、アウェイ側のベンチへと足を向ける3年生を見た。

「あれ、お前そのレアルのユニフォーム新しくねぇ?」
「あーこれな!そうそう、この前安くなってたからさー」

そんな会話を交わす彼らに、懐かしさと、大きな安心感を覚える。彼らは、今日の対戦相手だというのに。それはわかっているけれど、口元に浮かぶ笑みは止められない。そんな笠井に、どうやら話を呑み込んだらしい藤代が声をかけた。

「やっぱ先輩達がいると雰囲気違うよな!」
「そうだね。・・・そう思う。」

藤代の言葉に、再度3年生に目を向ける。キャプテンも三上先輩も先輩も、みんな、相変わらず。 ――― あぁ、違う。今のキャプテンは俺なんだ。それを思い出して、まだ3年生が意識の中で抜けないな と、笠井は笑みを苦笑に変えた。

「でも、何でいきなり試合なんてことになったんだ?」

辰巳がソックスをあげながら、そう切り出した。確かに、今日試合をするということを伝えられたのは昨日の練習の後で、相手が3年生だと知ったのは、つい先ほどだ。あまりにも突然な、そして去年はなかったことに、実際のところ笠井にしても驚きがなかったとは決して言えない。

「藤代と間宮は聞いてねぇのか?」
「この前の練習も何も言ってなかったよな」
「あぁ」

かけられた言葉に、東京都選抜として渋沢と一緒に練習をしている藤代と間宮も、思い当たる節はないというように首を振る。それならば一体何故、と思う気持ちはあるけれど、敵チームとしてとはいえ、3年生とこうしてまた同じグラウンドに立てるということは、嬉しいことには違いない。ならまぁいいか と、そういう雰囲気が流れるに、さほど時間はかからなかった。

「集合!」

桐原の声がかかって、現役部員である笠井たちは桐原のもとへと集合に走る。3年生は、3年生で集まって円を作っているままだ。それに対してどことなく物悲しさを感じながらも、部員は意識を桐原にむける。

「今日の相手は引退した3年だ。」
「監督、何で昨日言ってくれなかったんスか?」
「言ったところで変わらんだろう」

にべもない答えを返す桐原に、藤代が、そりゃそうですけど と不満そうな顔をする。確かにそれはそうかも知れないけれど、でもこんなに驚きはしなかったと思う。そうすれば、昨日からもっともっとこの試合を楽しみにしていられたのに、とも。

「各々でサッカーはしているようだが、現役のお前達よりやっているわけがない。だが気を抜いて勝てる相手だと思うな」

桐原の言葉に、部員が頷く。相手には全国3位になった主力メンバーが揃っているのだし、何より3年生たちの実力は、自分たちが肌で感じてきたのだ。いくら1ヶ月のブランクがあるとは言えど、楽をして勝てる相手のはずがないと、そう思う。それに対して桐原がちらりと3年生に視線を送ったことに、部員たちは気づかない。そして、桐原が言った言葉の意味と、部員たちが感じた意味の違いにも。
そうしているうちにも、3年生の円陣の声が耳へと届く。その声は高らかに響いて、やはり3年生だと感じさせた。

「うっわ、すげぇ楽しみ」
「確かにな」
「負けるわけにはいかないよ」

自分達も同じように円陣を組む。そのメンバーは今までからレギュラー入りしていた2年だけではなく、当然、3年生が引退した後に入った2年、それから少数の1年も入っている。 ――― 今までとは、違うチームだ。

「行くぞ!」

おぉ!という声を響かせて、円陣をといた。笠井は自分のポジションとなったセンターバックにつく前に、相手コートに視線を送る。無意識にも、笠井のいる場所からは比較的遠い、3年生チームで、自分のポジションとなったその場所にいるへと。その姿はまさに武蔵森の4番の、自分が追ってきた姿だった。今はもう、武蔵森の4番は自分なのに、と、どこかで思うけれど、それでも、やはり彼は武蔵森の4番なんだと、そう思う。
ピピィ、というコーチの笛に、OB対現役戦が始まった。







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