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To Shine
For YOU
「あー・・やっべ、もう体力落ちてんし!」 「な!俺もヤバいんだけど」 何人かが言いながら、笑ってコートを出る。それは響いた笛によって、前半が終わってからだった。自陣のベンチへと戻り、作ってあった ―― きっとこれも、3軍の1年生が作ってくれたのだろう ―― ドリンクを1人1人がとって、それぞれがベンチに腰掛ける。先ほどの言葉の通り、個人によって差はあるが、やはり体力が落ちていることのは否めない。はー とそれぞれが息を整えて、そうして、そのうちの1人が口を開いた。 「後半どうする?」 「体力だと勝てるか微妙だしなぁ」 ドリンクを口に含みながら、会話が進んでいく。前半の折り返しは、1−0。3年も、この点差で、確実に勝てる相手だとは思っていない。相手は現役の後輩たち。今まで一緒にやっていたからこそ、力があるのは知っていた。 「それなら、やっぱり戦術しかねぇだろ」 「だな。だったら・・・」 言いながら、三上が置かれたホワイトボードについていたマグネットを動かす。それを目で追いながら、は思っていた。監督が、わざわざ現役の強いチームではなく、自分たちを呼んだ理由を。さっき勘付いた、今改めてわかった理由に、ちらりと監督に目を向けてから、もう1口ドリンクを口に含む。 「ってオイ、見てんのか?」 「あー、見てるよ。・・・ってか、あのさ」 根岸の言葉に、苦笑して返してから、どうしようかな、なんて思いながら、けれど3年を見回して、これはきっと全員で共有するべき話だと、は口を開いた。 「監督が俺たちを呼んだ理由、なんだけど。」 その言葉に、マグネットに向いていた全員の視線が集まる。誰だって、多かれ少なかれ、思っていたことだった。引退していた自分たちと試合をするよりも、どこかの現役の、これから当たる可能性のあるチームのほうがいいんじゃないか、と。 「あいつら、 ――― 俺たちに対して、どっかで依存してんじゃねぇかな」 「・・・依存?」 「あくまで、俺の意見だけど。」 の言葉に、3年がそれぞれ顔を見合わせる。依存。この言葉の意味自体はわかるけれど、今、この言葉の示す意味はいったい?そんなことを思って視線をよこす彼らに、は自分の中でも考えをまとめるようにしながら口を開く。 「たぶん、あいつらは俺たちをある種の目標にしてて、追い越そうとしてんだと思う。けど、どっかで、追いつけないとか、そんなふうに思い込んでんだよ」 「・・・それは確かに、あるかもしれないが・・・どうして依存だと?」 「あぁ、うん・・・言い方が悪かったな。なんていうか ――― うん、俺たちがいたからとか、俺たちがいないからとか」 そういう気持ちが、結構大きくあるんだと思う。そう言ってから、上手く説明できないんだけど、と付け足して、は傍に置かれていたドリンクを、再度、口に含んだ。そう、あくまで、自分が感覚的に感じたことであったからだ。 「・・・・・あーでも、確かに・・・・」 「それは、あるかもな」 近藤が唸りながら言った言葉を、納得したような顔の三上が引き継ぐ。そうすれば、渋沢は思い込むような顔をして、根岸は頭を掻いた。他の者も、それに思い当たるものがあるような仕草を見せる。それはつまり、おそらくはそれが真相なのだろうことを示していた。 「・・・つまり、それを払わせるために」 監督は、俺たちを呼んだということか。渋沢の言葉に、がたぶん、と答えて、三上がだろうな、と賛同した。けれどそうだとすれば、逆に浮かんでくる疑問がある。 「・・・・っつーことは?俺らはどうすりゃいいの?」 1人がタオルを片手に言った言葉に、その場の全員がその彼に視線を集める。確かに、その通りだった。今まではあくまでも「喝を入れろ」という名目のもと、普通にサッカーをして、試合をして、勝とうとしていた。けれどこれが、自分たちの影を振り払わせるための試合なのだとしたら、自分たちはいったい何をすればいいのか。 「・・・え、じゃぁ負けろってことか?」 「えぇ!?嫌だぜ俺!」 「けど俺らが勝ったらどうなんだよ!?」 次々にぎゃーぎゃーと論議の声が上がる。確かにどの意見だって間違っているものではなくて、だからこそどの意見が一番いいものなのかがわからない。後輩たちに育って欲しいのは本当で、けれど負けたくないって気持ちは絶対なものなのだ。これは必要最低限の言葉しか言わない桐原のもとで3年間やってきた彼らにとっても、やすやすと意図を理解できるものではなかった。 「・・・勝てば、いいんじゃねぇの?」 そんな喧騒のなかで、ポツリ、と三上が呟いた言葉は、思った以上の効力を持った。ぱたりと止んだ声の中、みんながみんな、それぞれの意見を込めて三上に視線を送る。そうすれば三上は、あー、だから、と付け足した。 「俺たちがしっかり勝って、もう同じチームじゃないってこと、わからせれば」 そうすれば、あいつらだってもう必要以上に執着はしないだろ。そう言い切った三上の顔には迷いも何も浮かんでいなくて、こいつは一番、武蔵森のこと考えてたやつの1人だもんな、なんて思いながら、は三上に続くように、笑った。 「ま、確かにな。」 「・・・あぁ。」 「俺たちは俺たちのやり方でさ」 勝ちきって、あいつらを前に進ませようぜ、なんて、それぞれの声が響く。結局はみんな後輩たちに頑張ってほしい、後輩を応援してる、3年であることには変わりない。気づけば3年はチーム全体でそんな空気になっていた。その空気にちょうどよく、後半に向けて選手を呼ぶための笛が聞こえる。よし、と誰かが声をかけて、再度、円陣を作った。 今度響かせた声たちは、可愛い後輩へ向けてのものだった。 |