To Shine
searches for the way






「よ、。ホームシック治ったかー?」
「おー、。おかげさまでバッチリな。」

教室に入るなりかけられた声に、笑ってそう返す。それは、ある意味本音だな、とは思った。そうして自分の席で鞄を開ければ、朝のSHRで回収になるだろう進路希望調査用紙を取り出す。それには、の名前と父の名前、保護者印と、それからひとつの丸がついていた。ちらりとそれに目をやってから、は周りに視線を走らせる。そうして見つけた姿に、そのまま席を立って彼の方へと向かう。

「『高等部への進学希望』・・・」
「・・って、おまえ盗み見してんじゃねぇよ」
「なら机の上においとくなって」

見てくださいっていってんじゃん、なんて言って、がいつものようにの席に腰を下ろし、三上の机にあった調査用紙を手にとってひらりと揺らす。ったく、とため息をついた三上も、もともと見られることに関しての拒絶はなかったらしく、逆にが逆の手に持っていた調査用紙をするりと抜き取った。そうして、同じように丸がつけられている部分を読み上げる。

「・・・・・『高等部への進学希望』」
「だな、とりあえず」
「まぁ、一番無難だろうな」

三上の言葉に、だろ?と聞き返しながら、は三上の調査用紙を机の上に戻した。そして、三上が手渡してきた調査票を受け取る。そこに記された、『高等部への進学希望』の文字。本当に、無難なところだと2人は思う。

「外部進学っつーやつ、どんくらいいんだかな」
「さぁ。いてもクラスに2・3人じゃねぇの?」

三上の言葉に返しながら、は自分のクラスメートたちを見渡した。この中でだって、誰かが今回の調査で外部希望、と書いてるのかすらわからない。いろいろな考えがあるわりに、の頭は落ち着いていた。それは、先日弟に話したことで、自分の考えが少しまとまったからかもしれない。弟の意見を聞いて、気持ちが落ち着いたからかもしれない。そんなことを考えながら、自分の調査用紙を三上の机の上においてから、はふと思いついて、机をはさんだ奥にいる三上に口を開いた。

「そーいやさ、お前今日ヒマ?」
「あ?・・・あー、委員会だな」

の言葉に、三上が少し考える様子を見せてから、黒板に書かれた文字を目にしてめんどくさそうに呟いた。滅多に集まりなどない委員会なためにわざわざ召集が黒板に書かれたそれは、確かに委員である三上を対象にされたものであり、三上と同じく委員をやっているもう1人のクラスメートは欠席だった。

「アイツいねぇし、ここにきてサボるわけにもいかねーしな」

今までの集まりも、部活でほぼ出られなかった分をもう1人に任せていたため、さすがに今日は無理だ、と、だるそうに言葉を吐き出してから何か用事か、と問いかけれる三上に、そんな大したことじゃない、とが返す。

「この前、この辺にもいいフットサル場があるって聞いただろ?」

だからさ、と続けるに、あぁ、と三上が納得したように声を零す。先週の金曜日に三上とが連れ立って行ったフットサル場で、2人はチームを組んだ高校生に、いくつかのフットサル場を教えてもらっていた。それは、広いところだったり、強い人が多いところだったり、有名なところだったり。はその中の1つに行こうかと考えて、こうして三上を誘ったわけだったのだ。

「まぁいーや、ちょっと今日行って来るな」
「あー・・くっそ、マジ間が悪ィな」

ち、と小さく舌打ちする三上も、今日行くと言い出したと同じように、先日久しぶりに触れたゲームの感覚に、またもサッカーがしたいという念が強くなっていたところだったのだ。そんな三上に、たまには委員会もいいんじゃねぇ?なんて笑うは、いかにも不機嫌そうな三上の視線に軽く笑ってから、教室へと入ってきた担任の声に、の席を立つ。そのSHRの最後に、進路希望調査用紙は、の分も含めて、あっさりと回収された。




やん」

耳に届いた独特のイントネーションに、はコートへと向けていた視線をずらした。誰か、わかっていなかったわけではない。の知り合いでこの東京で関西弁を話すのは、本の数人だ。

「シゲ・・・に、風祭?」

振り返ったは、笑って手を上げる金髪と、その後ろにいる風祭にあれ、と声をかける。そうすれば、風祭は驚いたように目を見張ってから、こんにちは、と頭を下げた。いつものその礼儀正しさにが小さく苦笑しながら返せば、シゲがのもとへと足を進める。

「何しとんの?」
「フットサルでもやろうかと思ってな。そっちも?」
「せや。ちゅーても男は俺ら2人やけどな」

あっちにはおるけど、と言って視線をずらしたシゲの目の先を追えば、そこには小島を初めとする桜上水女子サッカー部の姿。はそれが女子サッカー部という団体だとは知らないのだけれど、けれど楽しそうなサッカー少女たちに、へぇ、と顔に笑顔を浮かべた。そんなを横目で見てから、ところでちゃん、と、シゲが声をかける。

「今日はもちろん、俺に付き合うてくれるんやろ?」
「えー。どうしよっかなぁ」
「なんや、いけずやなぁ。俺傷ついてまうで?」

目の前でわざとらしく繰り広げられる2人の会話に、どうにも免疫がない風祭が、赤くなってシゲさん!と叫ぶ。そうすれば、シゲがニヤリと笑っての肩を組んだ。2人がこうして並べば、のほうが背が高い。

「なんやポチ、お前も混ざりたいん?残念やけどそら無理やなぁ」
「そうだな、風祭ももうちょい大人になってからな」
先輩までっ!」

楽しそうに笑うシゲとに、風祭の顔はいっそう赤くなる。そうすれば、そんな風祭の様子に、がごめんごめん、と笑った。同じように、まだまだやな、と笑うシゲに口を開いた風祭の足元へ、ポン、とボールが触れる。そのボールに風祭があれ、と思うと同時に、大きい声が響き渡る。

「うおーい!」

3人の視線が、その人物へと注がれた。







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