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To Shine
searches for the way
「ボール、とってくれーっ」 その大きい声を発した人物は、風祭たちからは少し離れたところで、大きい体で少年のようににかっと笑って手を上げていた。おそらくは、このボールのことを言っているんだろう。 「はい」 一番ボールの近くにいた風祭が、その人物に向かってボールを蹴りだす。おっいいね、とボールを首元で受けるその人を見ながら、シゲがうまいやんけ、と笑顔を浮かべた。確かにそのボールの扱いは上手いもので、相当ボールに親しんでいるのだと思わせる。その小技に、へぇ、とが感心しながら見ていると、周りから要求の声が上がった。 「なに、観たい?」 にっと笑うその人に、ホント少年って感じだな、とが呟けば、スレずに育ったんやろ、という声が隣から聞こえる。その声の様子に、はは、とが笑いを漏らす。 「どっかの金髪はこんなにひねちゃったのになぁ?」 「そうやねん、お陰で中学生に見られなくて困ってるんやでぇ?」 お互いにわざとらしいため息をつきながらそんな会話を繋げる最中にも、この話題の原因となった人物はポンとボールを蹴り上げて、その身体能力を示すようなバネと速さを見せる。そうして、最後にはボールを片手に、綺麗に足を上げた。どっと沸きあがる周囲に笑顔で答える様子はやはり少年のようだけれど、今みせたバネも速さも柔軟性も、この辺で趣味でサッカーを、というには出来すぎなほどで。それにしても、どっかでみたことあるんだよなぁ、なんて思いながら、けったいなやっちゃなー、とぼやくシゲにが笑えば、風祭の後に、の肩へとシゲの腕が回る。 「だってなぁ、風祭」 「ですよね、先輩」 「なんやお前ら、今度はここで同盟できたん?」 顔を見合わせて笑うと風祭に、シゲちゃん仲間はずれやん、と、シゲがわざとらしく肩をすかせて溜め息を吐く。その最中にも、たちよりも上だろう年代の声が響いた。 「周防!」 「ヤス!準備体操終わったぜ。そろそろやるか?」 応える声を上げたのはさっきの人物で、それがさ、とヤスと呼ばれた男は苦笑を浮かべる。そんな2人の様子を眺める中で、あ、と、が小さく声を上げた。 (周防って・・・・バンテーラの?) もともとJリーグは毎週観るし、観る機会はJ1のほうが多いとはいえ、J2チームもストライカーなどはサッカー番組で取り上げられる。そこで観たのだろう、周防のシュートシーンがの頭に浮かんで、あぁ、そうだあの人だ、と、は納得したように周防へと視線をやった。 「なんや、どないしたん?」 「あー・・いや、なんでも」 先ほどつい漏らした小さな声が聞こえたらしいシゲに答えながら、軽く周りを見渡せば、特に妙な人だかりがあるわけでも、声が聞こえるわけでもない。なら、あくまでプライベートで来てるんだろうな、と、は周防のことを2人に告げるのをやめた。言えば、特に風祭は歓喜するのだろうけれど。そんなうちに、周防の目が場を離れたヤスから、たち3人へと向けられる。そうして、初顔だな、と、周防が先ほどと同じような明るい笑顔を浮かべた。 「メンツが足りないんだけど一緒にやるか?小学生でも大歓迎だぜ」 悪意の全くない笑顔と言葉に、があん、という音が聞こえそうなほどに風祭が固まる。そうして少しだけの間を空けてから、シゲが大口を開けて笑い出した。も、つい堪え切れないような笑い声が口から漏れる。 「ナイスボケや、あんさん!」 「シゲさん、先輩!」 「や・・悪い、風祭」 風祭が赤い顔で声をかけるけれど、笑いが止まらない様子の2人に、周防が不思議そうな表情を浮かべた。ようやく笑いの衝動を押さえ込んだらしいが、いやあの、と、周防に説明するように口を開く。 「俺たち、3人とも中学生なんで、」 「・・・え」 「こいつも中2やねん、こんなちっこいんやけど」 驚いた顔の周防に、シゲが見せるように風祭を前へ差し出す。まだうっすら顔を赤くしながら困った様子の風祭に、ちゃんと理解したらしい周防が眉を下げて片手を上げた。 「いや、悪い悪い!中学生には見えなくて・・・ごめんな」 「いえ」 「フォローになってねぇぞ」 本当に、悪意はないのだろう周防に風祭がこわばった声で返す。そうすれば、周防の隣にいたヤスから明確なツッコミが入った。その言葉に、確かに、と笑うとシゲに、風祭がじっと恨めしそうな視線を送る。それに対して、が周防と同じように片手をあげて、シゲはさらに笑った。 「3人とも、できるか?」 「俺らはオッケーやで」 「よろしくお願いします」 笑って聞いてくるヤスに、とシゲが笑顔を浮かべて答える。風祭は2人よりも少し後に、周防を見上げて口を引き締めてから、お願いします、と力強い声で頷いた。その反応に、よし、と笑う周防をみながら、はニッと笑顔を浮かべた。 (まさかこんなとこで、Jリーガーとできるなんてな) 三上のやつ、運がなかったよな、と、は今頃終わった委員会のファイルを無意味に扇いででもいるだろうチームメイトを思い出して、小さく笑った。 |