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To Shine
searches for the way
実際にがそうだったように、紹介されるほどのフットサル場だからだろう、ちょうど仕事帰りや学校帰りが立ち寄るにはちょうどいいこの時間、そこそこ数のあるコートは全て埋まっていた。ここの常連らしい周防たちと顔見知りのチームとの対戦が先に決まれば、後はコートが空くのを待ちながらアップということになり、が軽く着替えトレーニングシューズを履いていれば、シューズを履き終え、トン、とつま先を鳴らしたシゲがそういえば、というようにに声をかける。 「はフットサルの経験あるん?」 「まぁそこそこ。地元じゃ結構やってたけど」 きゅ、と紐を縛り終えて顔を上げたが返せば、へぇ、というような顔でシゲが頷いた。武蔵森が全寮制だということはシゲも知っているが、その内実を知っているわけではない。全寮制ならばもちろん帰るのは学校にある寮なわけで、武蔵森の寮がどれほど厳しいのかは知らないが、門限やらなんやらがありそうだというイメージはどうにも先行するもので、ならば部活後に出歩くなんてことはあるのだろうか、という興味も混ざった質問に返ってきた答えは、シゲにとっては驚くようなものではなかったけれど、武蔵森のサッカー部寮の内実を知っている風祭には、小さな驚きがあった。それは武蔵森で見ていたとは別の面を見たということから来るものだろうか。そもそも、同じ学校で過ごしていた1年よりも違う学校になってからの数ヶ月のほうが交流が増えているというのも考えてみればおかしな話かも知れないけれど、そういえば聞いたことのなかった彼の地元の話に、同じく準備を終えた風祭が口を開く。 「先輩の地元ってどこなんですか?」 「ん?飛葉。」 それに何でもないように返ってきたのは、風祭もシゲもよく知った地名だった。それに対して、2人はそれぞれに驚く。強豪な場所が地元であれば、そこにまつわる話というのは自ずと出てくるものだけれど、そうでなければ環境が変わった直後の話題だけで過ぎていってしまうもので、全寮制のように家が関係なくなればなおさらだ。の場合も、覚えていても渋沢や三上くらいだろうし、藤代などは夏に飛葉中に言ったときに初めて知ったのだろう。ただし、それが今ならば少し違ったかもしれない ――― 現に飛葉は、武蔵森と都大会の準決勝で試合をしたのだから。そして飛葉と接戦を演じたのは、桜上水も同様だった。もし、が武蔵森ではなく飛葉でサッカーをしていたら? ちらりと過ぎった過程に、風祭は顔を引き締め、シゲは楽しそうに笑う。それがわかったも、悪戯気に口元を吊り上げた。 「もしかしたら翼とスタメン争いしてたかもな」 あくまでもそれは過程であって、実際にはは武蔵森でサッカー部を引退し、それに対して後悔なんて全く持っていないわけだけれど、それもそれで楽しかっただろうな、なんていうのはまだまだサッカー少年である部分なのかもしれない。そら熾烈やなーなんて笑うシゲに、だよなあ、なんて笑いながら座っていたベンチから立ち上がれば、鳴った笛はどうやら順番待ちをしていたコートのようで、周防からかかった声に答えながらもシゲや風祭とともにフットサルコートへと入る。それを見てこのコートの周りに集まりだしたギャラリーに、その理由を知らない風祭はぱちりと瞬いた。 「チームスオーだ」 「今日はメンツが違うぞ」 コートの周囲でざわざわと交わされる会話がところどころ耳に届くのだろう、緊張した面持ちを見せる風祭とは対照的に、シゲは全く気にしていないのだろう、リラックスした様子で体を伸ばす。このギャラリーの理由を知っているはといえば、同じく体を解しながら、そりゃそうだろうな、と苦笑するしつつも、それよりも滅多にないJリーガーとのプレイに募る楽しみに口元をあげる。それぞれが位置についたところで鳴った笛に、周防がボールを蹴り出した。フットサル独特のリズムの中でまわされるボールの中で、少しタイミングの送れた風祭がボールを奪われゴールを決められても、周防はボールを持ちながらも余裕のある様子でプレイを続ける。シゲももフットサルのスピードでプレイしていても、やはり周防の速さには別なものがあった。 (速いな) ボールにはスピードも重さもあり、そして受けやすい。そんな周防のスピードに引っ張られるようにして、のスピードも上がっていく。アイコンタクトでのシュートを決めれば、その感覚に顔には笑みが浮かび、パン、とハイタッチを交わして。それはどこか、数ヶ月前にいたあの地の感覚を思い出させるものだった。 |