To Shine
searches for the way






「お疲れさまでした!」
「お疲れ!」

合わせて4試合を終えてから、コートの傍にあったベンチやその近くの地面にそれぞれ腰を下ろす。ヤスから缶のスポーツドリンクが渡されれば、各々が礼を言いながらプルタブを開けた。フットサルは一試合の時間は少ないが、コートが狭い分運動量は多い。ドリンクが喉を通ればその疲れが体に表れてきたようで、は1つ息をついた。やはり、部活をやっていたころに比べると体力が落ちている。自主トレはしているけれど、もう少しメニューを増やそうか ――― そんなことを考えていたの耳に、風祭の声が届く。その声に、はシューズの紐を緩めていた手を止めた。

「職業?教えられねーなー」

にか、と笑いながら答える周防に、はこっそりと苦笑する。確かに、ここで2部とはいえJリーガーだとは言わないだろう。風祭の質問が他意なく純粋な疑問のようだから尚更だ。冗談半分で口にしようとしたヤスが周防に蹴られる様子と、それにぽかんとする風祭に小さく笑い声を漏らせば、何笑っとんの、とシゲの声が隣から聞こえた。

「いや、ちょっとな」
「なんや、秘密かいな」

の答えにシゲがわざとらしく肩を竦める。これやから秘密主義者は、なんて大袈裟に呟いたシゲに、お前には言われたくないっつの、とが靴を履き替え、脱ぎ終えたシューズを仕舞いながら言う。来たころにはまだ明るさが残っていた空ももう真っ暗になり、2時間ごとの料金区分もあるためだろう、ぼちぼちと年齢層が入れ替わり始めたコートと同様に、今日限定の「チームスオー」も帰り支度となれば、一足先に支度を終えた周防とヤスがそれじゃあ、と風祭たちに声をかけた。

「楽しかったよ」
「またやろーぜ」

じゃあな、と手を挙げる周防たちに言葉を返しながら彼らを見送れば、ほう、とひとつ風祭が息をついた。それを見て、シゲとがにやりと笑って顔を見合わせる。まず声をかけたのはシゲだった。

「気になるんやろ?あいつのこと」
「シゲさん」
「けどまだ早いな、アタックはもう一回くらい会ってからがいいと思うぜ」
「・・って、な、何の話ですか先輩っ!」
「せやからあいつの話やろ?任せときポチ、俺らは応援したるさかい」
「そうそう」
「ちがっ!」

にやにやと笑いながらシゲとが話を進めれば、風祭は顔を真っ赤にして声をあげる。武蔵森の後輩たちにはないその純情さに笑い出したと、同じくケラケラと笑うシゲに風祭が眉を吊り上げたところで身長やら顔の赤さやらで全く怖くなどない。ひとしきり笑い終えれば、は悪い悪い、といい位置にある風祭の頭に手を乗せた。

「どっかでわかるよ、あの人のことは」
「だからっ、先輩!」

先ほどの話題の続きのように口にしたに、風祭が治まった顔の赤さを少し復活させながら言う。けれど、はそれに対して言葉は返さずどこか意味深な笑みを浮かべただけだった。それにピンと来たのはむしろシゲのほうで、帰り支度を終えたシゲとに続いて、支度を終えバックのチャックを閉める風祭には届かないような声量でシゲがに声をかける。

「あいつのこと知っとるん?」
「直接ってわけじゃないけどな」

シゲの言葉を笑って肯定する様に、先ほど風祭が周防の職業を聞いた際に笑っていた理由がわかったのだろう、悪いやつやなぁ、と笑ったシゲに、なんだよ人聞きの悪い、とが肩を竦める。もちろんそんなやりとりの理由はやってきた風祭にはわからず、どうかしたんですか?と問いかけてきた風祭に、いや?と曖昧に笑うと、ほな帰るか、と踵を返したシゲに、あ、はい!と返事を返した風祭を見ながら、そういえば明日はJ2も試合日か、と日程を思い出してはひとつ口元を吊り上げた。







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