To Shine
The encounter with the rival






部活を引退してから、実家へと帰る機会が多くなった。フットサルなどに頻繁に顔を出すようになってから、自主トレの量が増えた。そんな中で、ちらりちらりと目にしていた姿が今日もまた視界にとまって、はジョギングのペースを少し緩めた。声をかけようかかけまいか ―― というよりはむしろ、かけてもいいのか悪いのかと言ったほうが正しいだろう。彼のその行動は夏に彼が言っていたことの延長なのだということもわかっていたし、それが結果として表れていることも先日のフットサルで感じた。けれどそういった姿を見られたくないという気持ちはにもわかるし、それが彼ならば尚更だろう。前回まではそう思ってルートを変えていた。けれど、 ―― は今日、それをしなかった。

「そこのあんさん、もうかってまっか?」

緩めていたペースを戻して数メートル前にいる金髪に声をかければ、彼の歩が止まる。そうして振り返ったシゲの顔には、彼にしては珍しく素直に驚きが浮かんでいた。そんなうちにも追いついたは、同じく足は動かしたまま歩を止めて、よ、とシゲに片手を挙げる。数瞬の顔を見やっていたシゲは、その後に苦笑を浮かべて息を吐いた。

「あかんわ、全然なっとらん」
「えー?割かし似てね?」
「まだまだや。関西弁舐めたらあかんで」

そんな会話を交わしながら、どちらからともなく並んでジョギングを再開する。ジョギングなこともありしばらくの間は無言が続いたが、シゲがいつものジョギングコースで曲がった道を、同じくがなんの違和感もなく曲がった後に、シゲは再度、今度は諦めたような息を吐き出した。

「いつから知っとんの」
「半月前くらい」

それなりに距離を走っているため、交わされる言葉も最低限に近いものになる。けれど、その言葉にちらりとに視線を向けたシゲは、すぐに視線を前に向け、コースのゴール地点は知っとるん?とに問いかけた。いいや、と答えたに、シゲはその地点を口にした。草晴寺という、どこかの寺だろう名前 ―― は知らないけれど、シゲが居候しているその場所 ―― で、足を延ばしてジョギングコースを作っているにはわからない場所に、シゲもそれはわかっているのだろう、あと20分くらいや、と告げた。

「ついたら茶ァくらい出したる」
「・・それじゃ、ご馳走になろうかな」

その寺は単に一種の目印だろうと思っていたにとってシゲの言葉は疑問が浮かぶものであったけれど、それについて問うことはせずにその申し出を受けることにする。なにかしらの事情があるのだろうということは前々から思っていたし、そんな個人の深い事情まで暴こうなんて気はないのだ。だからこそ、それから約20分の間に口を開くことはしなかった。
一方のシゲのほうは、さてどうするかと頭をまわしていた。ここにきて隠し立てようなどという気はないし、そもそも彼は東京にいる人の中では一番シゲの今のサッカーへの気持ちを知っている人物だろう。しかもそれは、学校も違う彼が人伝に聞いたものではなく、自分の口から伝えたものなのだ。ましてシゲは夏にあの場でにあったこと、あの場でに伝えたことを後悔しているわけではない。ただなんとなく釈然としないのは ――― 自分を本気にさせた相手の一人だからこそ、ぎりぎりまで隠しておきたかった、なんていう意地だろうか。元来、人に汗水垂らしているところなど見られたくはないのだ。とは言ったところで、こうしてジョギングしているところを見られてしまっては ―― それも、今日が初めてではないと言うのだから ―― 今更だろう。そんな思考を繰り返していけば、寺の門が見えてきたころには、シゲの胸には観念したような、どこか清々しいような気持ちがあった。







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