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To Shine
The encounter with the rival
ちらり、とは手首の腕時計に目をやった。約束の時間までもう少しあるけれど、あいつらのことだ、多分もういるだろうなんて予測を立てて、見えてきた待ち合わせ場所の中にその姿を探す。とは言っても、特に片方はどんな人混みに居ても頭一つ以上も抜きん出た身長を持っているのだからそれほど困難なことではなく、やはりすぐに見つかったその姿に、は口元に笑みを浮かべる。彼らに会うのは久しぶりだ。なんと言っても前回の年代代表戦以来なのだから ――― そんなことを思いながら足を速め彼らに近づいたにあちらも気づいたのだろう、彼らの顔にも笑みが浮かぶ。 「!」 「うっす、スガ、ケースケ」 「久しぶりですねー、くん」 ジャージ姿が2人に、私服が1人。その2人のジャージも見るからに違っていて、なおかつ知る人には知れたクラブチームのものであるからか、もしくは単に彼らの容姿からか、こちらに集まってくる視線を気にすることもなく、久しぶりの再会の言葉を交わした3人は一番この近辺に慣れている須釜の案内で「とりあえず座って話せるところ」へと移動する。今回、この3人がこの横浜の地で集まったのは、ここで中学生対象のカップが行われたからだった。大会と言うほどに大規模なものではないが、その分、近辺の強豪中学やクラブチームを招いたその大会には、主催であるマリノスジュニアユースの須釜はもちろん、ジュビロジュニアユースの圭介も参加している。そこで、せっかくだからと呼ばれたのがであった。 「平馬も来てんだろ?」 「おう。けどエスパルスは最終試合だからな」 「あーなるほどね。お前ら終わったの?」 「早速ケースケくんとも当たりましたよー」 「へぇ、どっちが勝った?」 会話を交わしながら、トレーを手に座った場所は所謂ファーストフード店。年齢を考えれば妥当なところなのだろう、彼らの周りにも同じような年代の客は多かったが、ちょうど空いていた奥の団体席に座れたのは幸運だっただろう。荷物を置きながらのの問いに、にこりと笑った須釜と悔しそうに口を尖らせた圭介に、は容易に答えを得て笑った。ここの付き合いはもう長い。数年前、同じく年代代表に選ばれてから始まったこの関係は、武蔵森のメンバーとはまた違う。ライバルであり、お互いを高めあえる間柄であり、またいい友人である。年代代表もそろそろメンバーが固定されてきており、チーム仲もいいが、その中でもここは特別だった。そのため、こうしてサッカー以外の場所でもちょくちょく集まっているのである。とはいえ、今年は全員3年で忙しく中々集まれていなかったり、集まったところでサッカーの話が大半であったりはするのだけれど。 「そういや、知ってるか?関西にいいFWが居るって話だぜ」 「関西?」 「あぁ、金髪のハデなやつ。藤村っていうらしーけど」 ポテトをつまみながらの圭介の言葉に、はストローを挟んでいた唇を薄く開く。関西、金髪、FW。その単語から連想される相手に心当たりがある ――― むしろ確信めいたものがあるは、クラブじゃないんですか?と言う須釜や、急に出てきたんだってよ、と言う圭介の声を聞きながら、その人物を思い浮かべる。藤村という名前はしらないけれど、それが彼が言っていた事情なのかもしれない。考えるように銜えていたストローを一噛みしたは、けれど先日のヨーロッパリーグの試合へと移った話題に乗ることにした。 そんなふうにして話していれば、久しぶりの再会に話は途切れず、早いもので外は暗くなっていた。須釜と圭介は明日の休日もカップがあるということで、早めにお開きということでファーストフード店を出る。武蔵森に帰るため駅に向かうは一足先にお別れということになれば、出てくるのは次回の話。 「次会うのはトレセンになるかもな」 「あぁ、3月でしたっけ」 「しばらくは代表もないからなぁ。受験もあるし」 はあ、と頭の後ろで手を組んだ圭介と同様に、そうですねー、と須釜が苦笑する。これからの冬の時期、代表戦でなくとも試合というのは少なくなるし、サッカーで受験するとなってもある程度の手間はかかるために忙しいだろう。そのために3月に行われるナショナルトレセン ―― とは言っても今回は対抗戦形式ということだから今までと勝手は違うという話も聞く ―― が次回かと、それまでの長い空き期間につまらなそうにする彼らに、そういえば言っていなかったことを思い出し、は あー・・と気まずそうに口を開いた。 「俺さ、地域選抜入ってないんだよなー」 の言葉に、須釜と圭介は無言で視線を向ける。瞠られた目に、はは、と気まずそうに笑ったに、その言葉を呑み込んだらしい彼らは、は?と一言を返した。 「や、俺夏にドイツ行ってただろ?選抜会がそれと被っててさ」 彼らの様子に、は素直にその経緯を伝える。元々、彼らにはドイツに発つ前からバイエルンでの練習参加の話はしていたし、いいですねえ、楽しんで来いよ、なんて見送りの言葉も貰っていた。しかし、そのために選抜に入っていないという話はしていなかったし、彼らにしてみれば選抜に入ったかなんてわざわざ聞くことでもないという認識であったのだ。そのため、こちらも聞いていなかった圭介と須釜が、お互いに視線をやる。 「ケースケくんは入ってます・・よね?」 「ああ、スガも・・だよな?」 ええ、という須釜の返事に、だよな、と頷いた圭介は、改めてに向き直る。その視線にわざとらしく顔を逸らしたは、逃がしませんよー、という須釜の笑顔とそれに見合っていない力で頭を戻される。いって、というの声を意に返さず、、と真面目な顔で口を開いた圭介に、は観念したように、ん?と声を返した。 「おまえ、それじゃナショナルトレセン来れねぇじゃんか」 「代表はどうするんです?」 実際問題として浮上してくるそれに、あー・・とは何度目かの声を漏らす。代表とて、正式にそうということではないが、ナショナルトレセンのメンバーから選ばれるというのは最早暗黙の了解であった。実はそれについては既にいくつかの話というか、案というか、そんなものを貰ってはいるのだ。それをどうするかというのはこれから最終調整に入るというところで、その辺りが榊さんのすごいところだと思うわけだけれど、としてはただ流されるつもりはなく ――― けれど、代表を逃す気も、ない。 「大丈夫。ちゃんと決まったら連絡するよ」 に、と笑ったに、須釜と圭介は1つ間を開けてからため息をつくだったり苦笑をするだったりの反応を返す。けれどその言葉で十分だった。そう言うからには、どうにかするのだろう。そう思えるほどの信用を、彼らはきちんとに置いていた。そしてまた、その逆も然り。彼らならば言わずとも口外はせず、信じていてくれるだろうという確信があった。これは世界を相手に戦ってきた絆であり、信頼である。連絡忘れんなよ!という圭介の声と、いつもどおりの須釜の笑顔を受け取って、は東京行きの電車へと乗り込んだ。さて、まずは榊さんとの日程調整をしなければいけないか。 |