To Shine
「―Never mind,」






「いたいた、スガ!」
くん」

周囲よりも頭ひとつ抜け出した身長に帽子を目深にかぶる姿に、が足を向ける。そうすれば、その人物 ――― 須釜もに声をかけ、かぶっていた帽子を脱いだ。神奈川にもほど近い、都内のフットサル場。ここでと須釜は待ち合わせをしていた。トレセンへの参加が決まったという連絡を入れた際に、せっかくならばフットサルでもしないかという話になったのだ。は部活を引退した身であるし、須釜も正式な引退という形ではないにしろ、主要大会は終わっている。そんな状況下では当然とさえ思える成り行きで決まった今日の集合だった。

「おー、帽子姿久々に見た」
「ああ、これ。可愛いでしょー?」
「その身長で可愛いとか言われてもなー」

この2人が会うときは、そのほとんどが所属するチームのジャージ姿である。それ故の軽口を叩きながら、は須釜の座るベンチにバッグを置いた。同じく須釜も、一度外した帽子をかぶり直す。そうすると余計に中学生には見えなくなる友人の姿に、はくつりと笑った。そうして、自らもベンチに腰をおろしてトレーニングシューズに履きかえる。その様子を見ながら、須釜が立ち上がって伸びをした。そうすれば余計に大きく見えるその姿を見上げながら、そういえば、とは口を開く。

「お前、フットサルよくやんの?」
「んー、そうだね。最近はわりとやってるかなー」

相変わらずの調子で答える須釜に、ふーん、とが返したところで、スガさん!という声が2人の耳に届く。から見て須釜の背中の向こう側から聞こえた声に、須釜が振りかえり、あれー、と声を漏らした。ここは須釜の地元にも近い、そういった知り合いだろうか。そう思って、はシューズへと視線を落とし、シューズの紐を締めた。そうして、履いてきたシューズを袋へと詰め込む。その間にも、勿論須釜たちの会話は展開されているし、その声は小さくではあってもの耳に届いていた。

「偶然だねー、もう帰るところ?」
「はい、スガさんは、・・・先輩!?」

その届いていた声の中で、自分の名前が出たことに、は顔をあげる。そうすれば、そこにいた見知った姿に、あれ、風祭?と言葉を零した。驚いた様子の風祭に、おっす、と声をかければ、ぺこりとお辞儀が返ってくる。だからそんなに畏まらなくてもいいのに、という思いが浮かべば、そういえば以前もそんなことを思ったな、とは苦笑した。そんなと風祭の様子に、須釜が双方を見やる。

「知り合いですか?」
「おー、っていうかスガこそ」
「僕はフットサルで」

あぁ、よく行くって言ってたもんな、とが納得したように返せば、そうなんですよー、と須釜が笑う。そんな2人が知り合いだということの方が風祭にとっては不思議であった。それについて聞いてもいいのか否かと考えている間に、風祭はそれよりも彼に伝えたいと思っていたことを思い出した。

「あ、あの、先輩!実は、この前の周防さんがJ2の選手だったんです!」

知ったときと、そして再度彼に会いに行ったときの興奮を思い出したように言った風祭に、はぱちりと瞬いてから、悪戯っぽく笑う。そうして、ああ、わかったんだ?と口にした。いつかわかるだろうとは思っていたけれど、割と早かったなと、そんなことを思いながら。そんなの様子に、一方の風祭は虚をつかれたように、え、と声を零す。

「せ、先輩、知ってたんですか?」
「一応な。言ったろ?そのうちわかるって」

そう言うに、どうして教えてくれなかったんですか、と風祭がつめよれば、悪い悪い、とが苦笑する。そんな2人のやりとりに、くんは人が悪いねー、と須釜が笑ったままで口にした。その言葉に、おいスガ、とが返している間に、カザくん、と風祭に声がかかる。そちらに視線をやれば、そこには風祭が一緒にフットサルに来た杉原と小岩がいた。彼らの様子と手を振る須釜を見るに、おそらく風祭と同じでフットサル関連の知り合いなのだろうと思いながら、は風祭に視線を向けた。

「えっと、それじゃあすみません、僕はこれで」
「うん、じゃあまたー」
「お疲れ、水野たちにもよろしく」

声をかける須釜とに、はい!と返して、風祭は自身を待っていたのだろう杉原と小岩の方へと駆けていく。そんな風祭を見送りながら、部活関連の知り合いですか?と問う須釜に、ああ、風祭が転校したから元後輩、とが答えた。そうすれば、へえ、彼武蔵森だったんだ、と須釜が意外そうに笑う。須釜もを含め、渋沢や藤代など、武蔵森に所属する知人は何人かいる。そのメンバーに風祭が結び付かなかったのだろう須釜に、その気持ちはわからなくもない、とは思った。だからこそ転校したのだと言えばそれまでだけれど。

「そういえば彼ら、東京選抜なんでしょう?トレセンで当たるかもしれないねー」
「そうだな。ま、俺は当たんないけど。」

そういうに、残念だな、と須釜がつぶやく。それは東京選抜に関してのことではなく、単純にと当たれないということについてだ。トレセンに行くといっても特別措置であって、選抜には属さないという話は既に聞いている。トレセンに来られるだけでも十分とは言え、普段は部活とクラブユースで土俵が違い、滅多に試合ができないからこそ、どうしても残念な気持ちが須釜に残る。そんな須釜に、が笑った。

「がっつり紅白戦でも組もうぜ。ケースケとか平馬とかにも声かけてさ」

絶対乗ってくるだろうから、と笑うに、確かに、と須釜も笑う。声をかければすぐにでも、それこそ所属選抜など関係なしのチームが形成されるだろうことは容易に想像が出来た。なるほど、それはそれで面白いかもしれない。そうやってトレセンに向けて新たな楽しみを見つけた須釜に、それに、とが言葉を重ねる。

「まずは今日これからだろ?どんだけうまくなったか見せてもらうぜ」
「おっと。それはこっちのセリフですよー?」

そんなことを言い合いながら笑いあう。お互いのプレーを見るのは久しぶりである。友人として、同じく代表候補として、そしてライバルとして。様々な面での楽しみを持ちながら、2人はメンバーを探す声に答えて足を進めた。







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