To Shine
welcome the New Year






武蔵森学園サッカー部の年末年始休みは三が日までだ。高等部では初蹴りという、サッカー部OBと現役部員による新年恒例行事が行われるが、大半の出席者が被るという理由もあって、中等部では行われない。そのため、練習は四日からである。もちろん引退した3年生には練習はないのだけれど、昨年までの慣例というべきか、それともそれ以上いるとだらけてしまうためか、現役と同じ3日に寮に戻ってくる3年生の姿も多い。その一人であるも、3日の昼になって武蔵森学園の敷地へと足を踏み入れれば、見えた後ろ姿にその歩みを速めた。

「おっす渋沢、あけましておめでと」
「ああ、明けましておめでとう」

そうやって新年の挨拶をすれば、渋沢からも同じく新年の挨拶が返ってくる。年度が代わるというわけではないけれど、年越しをして、年賀状を見て、こうして挨拶をすると新たな気持ちになるものだから、この季節はなんとも特別なものだ。長い間離れていたわけでは決してないけれど、それこそ毎日会っていたものに少しの期間が空いたわけだから、話題というのもそれなりにある。家がどうだったとか、お年玉をいくらもらっただとか ―― そんな話をしているうちについた松葉寮の玄関に見えた姿もまた、お馴染の3年のものだ。

「よー三上、あけましておめでとー」
「おー、お前らも今日戻ってきたのか」
「ああ、どうせなら3年目もと思ってな」

の声に返した三上も、然程驚いた様子もなく言葉を返す。今日松葉寮へと戻る3年は多いのだが、もちろん、明日以降に戻る部員も多い。それでも予想通りというような三上の言葉に答えるように、渋沢が笑う。暗黙の了解、というものだろうか。約束をしたわけではないのだが、恐らく渋沢と三上、中西に根岸などは今日戻ってくるのだろうとも思っていた。それは、ここ2年続いている慣習のためだろう。松葉寮へと入り、自分たちの部屋へと足を進めれば、それじゃあ、とお互いに声が上がる。

「後でロビー集合な」



何時の間にやら恒例になっていたのは、武蔵森サッカー部での初詣だった。まだまだ混んでいるとは言えども、3日となれば元旦よりは参拝客も少ない。たちが1年生のときに流れで行った初詣は、気づけばこれで3年目を迎えていた。とはいっても全員でのものではなく、行きたい人だけ、という緩いメンバー構成であるから、今年も渋沢に三上にに、また去年から話に乗ってきた藤代に笠井に、なんていう、総勢10人ほどの面子であった。だらだらと歩いている内に出来た列の中で、藤代がに声をかける。

先輩、願い事って何するんすか?」
「俺?そうだな・・藤代は?」
「俺っすか?俺はー、」
「ちなみに人に言ったら叶わないらしいぜ」
「え!!」

新年から元気が有り余っているような藤代を、先輩の権限かのようにしてからかえば、面白そうに笑うに、先輩ひでぇ!と藤代が抗議する。周囲の面々に、新年早々何をやっているんだという呆れすら無いあたり、本当にいつもの光景であった。卒業というものはあるけれど、恐らく今年もこんなふうにして過ぎていくのだろう、という気持ちが漠然との中に浮かぶ。

「願掛け・・か。なんだろうな」

ぽつり、呟いた言葉は小さいもので隣にいる藤代にも届かなかったのだろう。何か言いました?と聞いてくる藤代に、いーやなんでも、と返せば、折角だからおでんでも奢ってやるよ、とが笑う。そうすれば、藤代の表情がわかりやすく明るくなった。

「まじっすか、やった!」
「おい何騒いでんだ藤代」

そうして零れた大きな声に、少し前にいた三上の声が飛ぶ。そんなやりとりに口を挟んだり苦笑を浮かべたり煽ったりしながら、武蔵森サッカー部にとっての新年初日は過ぎていった。







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