To Shine
welcome the New Year






わあっと盛り上がるブラウン管の中の映像とリンクするように、ロビーにもざわめきが起こる。最早正月の風物詩とも言える、全国高校サッカー選手権。ここで国立を目指すためにクラブではなく高校サッカーを選択する選手すらいる、高校生選手の夢舞台である。今、テレビで生中継されているのは全国での多くの試合を勝ち残ってきた最後の2校による決勝戦、先ほどのざわめきはその中で生まれた得点によるものだった。

「あれだけ振られちゃキーパーはどうしようもないだろうなー」
「でもマークついてるやつも右からとか行けたんじゃねえの?」

別段どちらかを応援しているというわけでもない武蔵森メンバー達からは、得点への感想が零れていく。そのシーンがリプレイされれば、テーブルに広げられたスナックの袋や飲み物に伸びていた手も止まり、だからこっちだって、いやでもここからだったら、そんな言葉が飛び交う。そんな中で、特に言葉を発することなく画面を見ていたに、渋沢が声をかけた。

、お前ならどうする?」
「・・・まあ、左から行くしかないだろ。中潰してくれればクロスもある程度絞れるし」

渋沢の声に、テレビから視線を外したが答える。そうして、後はシュートコース消せば渋沢の出番、とにやりと笑いながら続けられた言葉に、渋沢が虚を突かれたような顔をした。そんな様子に、周りからも、たしかに、やら、そうだそうだ、やら、の言葉に便乗する声が上がる。それらの声に、そしてに向かって、渋沢が苦笑を浮かべた。

「おいおい、もう少しGKをいたわってくれよ」
「何言ってんだ、お前だからだよ。他のキーパーなら別だけど、お前なら止めるだろ」

その言葉に、まるで自分のことのように確信を持って言うに、渋沢は一瞬面食らう。その声には、からかいや煽てではない、本当に当然のことを言うような自信がこもっていた。なんとも言いようのない、照れのようなむず痒さに、渋沢は表情を崩す。信頼されるということはとても嬉しいことで、実際に彼らとの信頼関係が築けていることも重々承知している。けれどいざ言葉に表されれば、いくら普段から大人びた渋沢とは言えども、さすがにそれを素直に笑って受け止められるほど、場慣れしているわけではない。はあ、とつかれたため息は、そんな気恥ずかしさを誤魔化すかのようなわざとらしさを伴っていた。

「全く、調子がいいな」
「素直だって言ってくれ」

そんな渋沢の様子に、が楽しそうに笑い、周りの面々もそれぞれに笑みを浮かべる。渋沢の言葉が本心でないことも、の言葉が本心なことも、その場にいる皆が分かっていた。全国中学校サッカー大会での悔しさを忘れていない武蔵森イレブン、そんな彼らによる得点シーンに対する批評が、いつの間にか、自分たち武蔵森がこの相手と戦っているかのように話が進んでいることに、誰も違和感など抱いていなかった。







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