(867)小倉尚継 論述集 その38 |
2012年 5月27日(日) |
【自己表現を育てる合唱指導 その12】
◆そのA 表現力を育てる
●定期演奏会で
合唱部員が自由に動けるのがこの演奏会です。まだ回は浅いのですが、1ステージを好きなように演出させ、何曲かに振り付けをさせるのです。
表現力というよりドタバタ踊りという感じですが、実に楽しくお客さんの受けが良いのです。
第1回目はロシア民謡のステージでした。その中の「泉のほとり」に踊りがついたのです。髭ののびた兵士と娘達が、歌いながら踊るのですが、これがなかなか難しいのです。特に合唱をやっている人たちは動くのが苦手です。ですからどんどん踊って、やがて本当の表現力に通じて欲しいと思うわけです。
次は「佐渡おけさ」の踊りでした。祭り半天を着けた踊りは素人っぽいものでしたが、何もないところから自分たちで作り出すということに意味があるのです。
つづいて「かわいいあの娘」「トリッチトラッチポルカ」で、昨年は「犬のおまわりさん」でした。
何日もかけて話し合い、二転三転、ようやく本番に間に合い、お客さんを楽しませ、自分たちも充実感を味わっているのです。いくらかでも演技をすることは、必ず表現力にプラスになる筈です。
(つづく)
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(868)小倉尚継 論述集 その39 |
2012年 5月28日(月) |
【自己表現を育てる合唱指導 その13】
◆そのA 表現力を育てる
●終わりに
いつか本誌に「日本語の発音と発声」という題で述べさせて貰いましたが、その結びを引用します。
「日本語は間が持ちにくいけれども、構音時間の工夫によって美しく鮮明な合唱が歌えます。まして自国語であればどこに力を入れ、どこを控えるべきかもよく分かります。
母音が重なったときは言い直すべきだとか、フレーズの扱いや同じ言葉の繰り返しはどうするかとか、ドラマティックに歌うかリリカルに歌うか、あるいはおどけて歌うかなど、いろいろ決断すべき事があります。これらはすべて指揮者と合唱団員の詩心と歌心と勤勉さが解決してくれます」
合唱団の表現力は、どうやら指揮者の肩に掛かっているようです。そして、本テーマの探求は永遠に続くことを確認して、この稿の筆を置く事といたします。
(つづく)
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(869)小倉尚継 論述集 その40 |
2012年 5月29日(火) |
【ア・カペラの合唱にとりくむには その1】
(音楽の友社・教育音楽中高版、昭和60年6月号)
A 取り組み方のポイント
「純粋に声だけによる合唱の美しさや妙味を表現し楽しむこと」を思えば、自ずから解決することと思いますが、一番大切なことは、「音楽の進行感や躍動感を常に歌唱の中に持っていなければいけない」ということです。そのためには次の二つのことが考えられます。
@次の音へは瞬間移動する
自分ではこのことを「はじき歌い」とか「水かき唱法」とも呼んでいますが、曲の速度・強弱に関係なく、音と音の間を絶対淀ませないこと、音をはじくように素早く、しかも次の音との間に水かきをつけたように隙間なく歌唱するということです。
歌っていても生き生きとせず、手もちぶさたで音が下がって困るという場合は、大抵このことが上手くいっていないときだと思います。
(つづく)
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(870)小倉尚継 論述集 その41 |
2012年 5月30日(水) |
【ア・カペラの合唱にとりくむには その2】
(音楽の友社・教育音楽中高版、昭和60年6月号)
A 取り組み方のポイント
Aブレスをつなぐ
曲のフレーズが流れるように、あるいは力感あふれたものになるためには、かなりの息を必要とします。呼吸法に習熟していても難しいことです。
その場合、合唱のひとつのテクニックとして、ブレスをつなぐことを考えてみましょう。いくつかのグループに分け、ブレスの位置をずらし、結果的には一息で歌ったように聴こえさせるのです。
無伴奏で耳につく、こまぎれフレーズや音質低下、あるいは音下がりは、このことで殆ど無くなるでしょう。さっそく斉唱で試してみて下さい。
「はるこうろうのはなのえんー」が、一息で充実したフレーズに聞こえたら大成功です。
ついでにPPで歌ってみて下さい。
斉唱の美しさやPPは、ア・カペラ合唱曲の命です。
あとはどんな声質を選ぶかによって、合唱団の個性が決まることになります。
(つづく)
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(871)小倉尚継 論述集 その42 |
2012年 5月31日(木) |
【ア・カペラの合唱にとりくむには その3】
(音楽の友社・教育音楽中高版、昭和60年6月号)
B 選曲上の注意
@ 勢いのつけやすい曲
A 変化のある曲
B 聴かせ所のある曲
C 時間をかける価値のある曲
D 消化できそうな曲
無伴奏とは限らず、選曲のポイントを整理してみると上のようになるのではないでしょうか。
練習用無伴奏合唱曲を1曲あげるとすれば、やや古くなりますが、堀口大學作詞・清水脩作曲「秋のピエロ」をあげましょう。
冒頭の勢いのある部分からおだやかな部分に変わり、油断すると音くずれを招きます。
曲の持つ和音の美しさや言葉の美しさを表現するためには、どうしてもA項で述べた二つのことを考えなければいけません。そしてこの美しい曲を感動的に歌えたら、大抵の曲は歌えることになるでしょう。
その時は、パレストリーナやバッハ、ブラームス、コダーイ等、限りなく深く広いア・カペラ合唱の門が開かれる時でもあるのです。
(つづく)
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