青森県音楽資料保存協会

事務局日記バックナンバー

<2012年6月(3)>

(880)小倉尚継 論述集 その51
(881)小倉尚継 論述集 その52
(882)小倉尚継 論述集 その53
(883)小倉尚継 論述集 その54
(884)小倉尚継 論述集 その55
 
(880)小倉尚継 論述集 その51 2012年 6月26日(火)
【美しい日本語の発声と発音 その1】
 (音楽の友社・教育音楽中高版原稿、昭和62年4月号)

1、四つの経験

その1


 15年も前のことですが、先輩の先生から紹介され、伊藤京子さんの歌をテープで聴きました。曲は中田喜直さんの「こどものための八つのうた」で、じつに鮮明で無理のない美しい発音で歌われていたのです。


 先輩の先生は私が合唱に取り組んで苦労していることを知って、発音の参考になればと思って録音して下さったのです。


 私は耳に快く飛び込んでくる、語りかけるような歌い方にすっかり共感してしまい、合唱部の生徒はもちろん、授業の生徒にも機会ある毎に聴かせ、日本歌曲のこんなにも美しい歌い方のあることを訴えたものでした。


(つづく)
 
(881)小倉尚継 論述集 その52 2012年 6月27日(水)
【美しい日本語の発声と発音 その2】
 (音楽の友社・教育音楽中高版原稿、昭和62年4月号)

1、四つの経験

その2


 昭和40年、全日本合唱コンクール全国大会が宮城県民会館で行われました。その前夜祭でのこと、日本女子大学合唱団が演奏した三善晃の「三つの抒情」は、いまだに記憶に新しく残っています。


 木下保先生の指揮で歌われたこの曲の、発音の明瞭さとあまりの美しさに、こんな世界もあるものかと、ただただ目をみはって聴いたものでした。


 思えば木下保先生は「大和ことばを美しく」を提唱しておられた頃でしたし、同大学合唱団も全国優勝するほどの充実した全盛時代で、柔軟で気品に満ちた演奏は、三善作品をこの上なく味わい深いものにしていたのでした。



(つづく)
 
(882)小倉尚継 論述集 その53 2012年 6月28日(木)
【美しい日本語の発声と発音 その3】
 (音楽の友社・教育音楽中高版原稿、昭和62年4月号)

1、四つの経験

その3


 青森県津軽地方で演奏される津軽三味線は、叩きつけるような野性味と、むせび泣くような繊細さで知られています。しかも、研ぎすまされたような輪郭のはっきりした音色を持っているのです。


 ところがしばしば、数十人の大斉奏を聴くことがあります。これは一層の強烈さや豪華さを狙ったものと思いますが、大勢になったことにより輪郭がぼやけ、繊細さが失われ、津軽三味線の切れ味どころか、その魅力が半減してしまうのです。


 このことは独唱が合唱になったときに発音が不明瞭になることと同じだと思うのです。


(つづく)
 
(883)小倉尚継 論述集 その54 2012年 6月29日(金)
【美しい日本語の発声と発音 その4】
 (音楽の友社・教育音楽中高版原稿、昭和62年4月号)

1、四つの経験

その4


 ハンガリーのコダーイ・ゾルターン作曲「天使と羊飼い」を練習していた時、福島県の五十嵐庸夫先生から、マジャール語の歌詞を朗読したテープを頂きました。

 ハンガリーの女性の大学生の声だということでしたが、シャ・シュ・シュンク等の子音の美しさはとても素晴らしいもので、感激してしまいました。


 私共には真似の出来るものではありませんし、日本にはない発音ですが、美しい日本語を発音するためには、大変参考になるものでした。



 (つづく)
 
(884)小倉尚継 論述集 その55 2012年 6月30日(土)
【美しい日本語の発声と発音 その5】
 (音楽の友社・教育音楽中高版原稿、昭和62年4月号)

2、指導の実際

 イ、子音について


 前項の@Aは、いずれも子音の扱いに熟達している人たちの演奏です。

 外国曲でも邦人作品でも、声そのものは変わるものではないのですから、子音の扱いが言葉を美しく鮮明に表現するための最大の要因となるものと思います。

 しかし、気をつけないと1字1字のポツポツ歌いになってしまいます。

 歌詞の内容を伝えるためだということを絶対に忘れてはいけません。


 昭和48年、東北音楽研究会で、福井文彦先生の講演を聴いたことがあります。

 「私の日本語の作曲と歌唱について」という題で、自作の「東北のおもちゃ歌」を使ってのお話でした。


 その中で先生は次のように話されました。

 「歌の中で言葉は自然な語感を生かすように作曲されなければいけませんし、歌い方もそうあるべきです。そのためには子音の扱いが大切です。発音するとき、無声音を含めて子音にかかる時間を考慮し、曲にあった固さ・柔らかさを出すべきです」

 このお話の中で特に無声音の扱い方を強調され、ことばを大切に生かすことの大切さを力説しておられました。


 合唱の場合、当然の事ながら構音時間を揃えなければいけません。

 ただ、曲の速度、リズム、曲想によって構音時間が違ってきます。これが福井先生の「構音時間の考慮」ということです。


 更にある子音については「瞬間的に、そして時間を長めに」という矛盾したことを言わなければならないこともあります。


  H・・・何気なく歌ってしまうと聞き取りにくい。ある程度の訓練が必要。

  K・・・強調しすぎると邪魔。しかし常にマークしておくべき発音。

  S・・・大変聞こえやすいので控えた方がよい。

  T・・・聞こえやすいが油断すると引っ込んでしまう。要マーク。


 このように子音そのものに特質があり、曲も千変万化するわけですから、強調する場合も控える場合も出て来ます。

 助詞や接続詞に類するものは控えるのがよいし、弱声部は効果的に子音の美しさを聴かせるチャンスである。


(つづく)


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