(894)小倉尚継 論述集 その65 |
2012年 8月11日(土) |
【音楽による人づくり (歌詞に見るさまざまな世界) その1】
青森ロータリークラブ卓話要旨(1967年4月)
音楽を聴いて心が洗われる思いをしたという経験をお持ちの方はかなり多いことでしょう。芸術の究極は人間の心を洗うことだと思います。高校の音楽教育に携わっている自分ですが、このことを常に頭に置き、歌も理論もすべてそのための準備、大きな感動を迎え入れる心の準備と考えております。
さて、歌の歌詞に見る世界を覗いてみましょう。これは大変直接的に人の心に語りかける強力な分野です。かなり前のことですが、前任校の生徒が音楽部卒業送別会の席で次の歌を歌いました。
(藤田敏雄作詞・前田憲男作曲「約束」)
♪ その日僕が石蹴りしてると パパが家から出てきて言った
「坊や、急いで帰って来るんだ、ママがお前に会いたいそうだよ」
僕はパパに小声で尋ねた「そいじゃママは、もう死んじゃうの」
するとパパは静かに言った「そうだ坊や、ママは死ぬんだ」・・・略
これは男の子が母を失うときの悲しみに耐えかね、神にすがり、そして強くなっていく姿を歌った「約束」という歌です。生徒達は泣き、私も泣きました。歌詞の裏に見える子供心の動きを想像すると、どうしてもこらえる事ができなかったのです。
音楽は想像の世界を無限に、しかも一人一人が自由に違った世界を考える事が出来るというところに芸術の一分野として生き続ける力があるのでしょう。
(つづく)
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(895)小倉尚継 論述集 その66 |
2012年 8月14日(火) |
【音楽による人づくり (歌詞に見るさまざまな世界) その2】
青森ロータリークラブ卓話要旨(1967年4月)
自分の肉親を失うことの次に、あるいはそれに並ぶくらい悲しいことは失恋することでしょう。
自作の歌「四季の中の弘前」をお聴き下さい。
♪ 初めて愛があなたに芽生えた そんな気がする弘前の春
わずかな風にも花びら散らす そんな不安な私への愛
鍛治町通りの灯が揺れて リンゴの花の匂いのする春・・・略
皆さんも初恋とか失恋とか思い当たることがおありでしょう。失恋をしたことがないという幸せな人は、大変不幸な人かも知れません。
イタリア歌曲でもカンツォーネでもシャンソンでも演歌でも、その内容はなんと失恋の多いことでしょう。結婚式で歌える歌がなかなか見つからないほどです。
歌のユーモアに笑ってしまうということは割に少ないものです。この歌はいかがでしょうか。
♪ かちゃくちゃ かちゃくちゃね言葉は東京ことば
「あなたどちらまで」「私お風呂まで」
津軽の言葉はもっともっと簡単さ
「な、どさ」「わ、湯さ」
棟方志功さんが上京するときに東京弁を練習されたことからヒントを得て作った自作の「東京弁ポルカ」です。
こらえるべき時はこらえるけれども、泣くべきときは泣き、笑うべき時は笑う。喜怒哀楽を感じ取れる人間であることは、心身共に健康であることの重要な条件になることでしょう。
美しいものに感動し心が洗われ、新鮮な活力を蓄えることが出来る。音楽にはこのような偉大な力があることを信じつつ、毎日の教壇に立っております。
(つづく)
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(896)小倉尚継 論述集 その67 |
2012年 8月26日(日) |
【授業における発声指導 その1】
青森県高教研音楽部会研究発表(昭和63年度)
発声法については合唱部も授業クラスも何ら変わることはない。
強いて違いを挙げるとすれば、合唱部では常に発声指導を意欲的に望んでいるが、授業クラスではそうでない生徒がいるということである。
正しい発声法の体得を必要としないか、あるいは意欲的でない生徒に行う発声指導は非常に効果が薄い。したがって、授業ではこの点に留意して発声指導を行わなければならない。
理想とするものは、クラス全体が良い発声法により、美しく力強い声で生き生きと積極的に歌う姿であり、それが音楽的にも素晴らしい表現であることである。発声の技術的なことは部活動と同じであるとすれば、あとはいかにして意欲を持たせるかという事にかかってくる。
1、良い声になりたいという意欲を持たせるにはどうしたらよいか。
@ 特に最初の時間に、やればできるという可能性の実感を持たせる。やさしい教材で満足感・充実感を経験させる。(和音・輝き・躍動感・・・)
A 教師や友人にほめられるチャンスを作ってやる。
B 難しいところが歌えた・大きい声が出た・美しい和音が鳴った等、進歩の様子が分かるようにしてやる。
C 課題を明確にし、出来そうだとか出来たとか、成就感を味わわせる。
D 全体の中に自分が生かされていることを感じさせる。
E 教師が手本となり、積極性・情熱・迫力を見せてやる。
F 良い意味での競争心を湧かせたり、音楽の美しさに共感させたりして、歌いたい気持にさせる。
G グループ唱で他グループと比較演奏をし、良い演奏をする責任感を湧かせる。
(つづく)
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