青森県音楽資料保存協会

事務局日記バックナンバー

<2012年9月>

(897)小倉尚継 論述集 その68
(898)小倉尚継 論述集 その69
(899)小倉尚継 論述集 その70
(900)小倉尚継 論述集 その71
(901)小倉尚継 論述集 その72
 
(897)小倉尚継 論述集 その68 2012年 9月 2日(日)
【授業における発声指導 その2】
 青森県高教研音楽部会研究発表(昭和63年度)


2、授業における発声指導の実際

 音楽は時間の芸術であり、旋律は美しい起伏を持って進行している。したがって、歌唱時においては常に進行感を伴った歌唱であることを理想とする。

 日常の会話では楽に出している声も、いざ歌うとなるとどこかに詰まって出てこないものである。進行感のある歌唱となると尚更である。


 そこで発声に関する指導が必要になってくるが、授業ではどこまで指導すべきか、常に迷うところである。しかし、最低限、間違った発声法で歌っていたらすぐ直してやるべきだし、部活動でなくても、能力を高めるためにはしっかり求めていかねばならない。教師が求めない限り、生徒達の実力はそこで止まってしまう。


 音楽選択生は、書道や美術選択生より、校内における音楽の専門家である。正しい発声法を身につけていることは当然のことであり、教師はその方向で指導すべきである。

 たとえ、一回の指導でたった一人しか理解してくれないとしても、教師としては喜びではないか。もしも何人かの生徒がのどを開くことが出来、音量が豊かに美しくなるという兆候が見えただけでも、次の時間が待ち遠しくなるはずだ。


 次に指導の具体例をあげる。


 @ 口を開ける

 指3本、耳下ピョコン。特にオはO型、これが他の母音の基本となる。更にウ・イは上下の歯を離し、縦型の響きを選ぶ。すべての発音は軟口蓋を上げ(洞窟の確保)、腰から頭部にかけて垂直な煙突を立てる気持で発する。頬と唇は洞窟とメガホンを作る材料と考える。


 A 姿勢

 足安定、上体力まず自然に。胸はピアノのボディー。前述の煙突を立てると体はまっすぐ立ち、声帯は体の中心。歌おうとする心構えが目に現れればそれで決まる。


 B 呼吸

 理解させにくいが、横隔膜の存在を話す。しゃっくりを例にとっても良い。呼吸時には胸の肋骨が邪魔、したがって腹部に働いてもらう。・・・腹式呼吸

  ◎ 吸・・・水鉄砲の取っ手を引くと水が吸い込まれる原理。腹部を前方に広げてやる(横隔膜
       を下げる)ことにより肺が真空状態となり瞬時に空気が入る。

  ◎ 呼・・・息の節約保持を考えると前方に広がった腹部の力を緩めるわけにはいかない。
        固い腹筋で息を囲み保護してやると考える。この時の腹筋は外部から突かれてもび
        くともしない。その圧縮の力で歌唱する。

        ♪ 横隔膜の動きはスタッカートがわかりやすい。
           腹筋は重いものを持つときや腕立て伏せを考えると良い。


 C 共鳴のある声

 声帯で作られた声が顔・頭・体・空気を振動させて良い音となる。共鳴を伴った美しい声は風呂場や洞窟の代わりに幅広い胸・鼻・頬骨・首・頭を通過してきていると考えれば、通路をあけて、それらをフルに活用しなければならない。前述の煙突を立てることは、そのための最高の方法と考える。


 D 張りのある声

 旋律の頂点を極める歌い方を徹底する。体内の息を全部声にする。煙突・腹筋・輝き・頭部共鳴を意識。


 E 地声の矯正

 両極端な声を比較することで矯正に導く。
 前面共鳴と後部共鳴、狭い喉声とあくびの声、声帯から直接的に出る声と鼻から出る声、開けっぴろげの声と包んだ声・・・。


 F 息もれ声の矯正

 声帯接触不全・喉の開けすぎ→声帯を閉じる意識・声を集める意識・カ行活用・ロングトーン活用


 G 過ビブラートの矯正

 大揺れ・ちりめん → どちらも治りにくい。自意識過剰にならぬよう・腹部の支え・息沢山・小声やハミングで音を伸ばす・録音して自声を聴く・・・・。


(つづく)
 
(898)小倉尚継 論述集 その69 2012年 9月 9日(日)
【授業における発声指導 その3】
 青森県高教研音楽部会研究発表(昭和63年度)


3、歌唱を中心とした授業の指導語録集(重複)

 生徒が歌唱しているそのフレーズとフレーズのほんの短い間に、教師は短い言葉を発して歌唱を高めることが出来る。次の語録集は自分で考えたもののほかに、教育音楽中高版等から集めたものである。


 @ 発声に関するもの

・額から吸う・匂いをかぐように・背筋に息を・メガホン作れ・バケツをかぶれ・煙突立てろ・卵をくわえろ・洞窟作れ・音を縦に・音を釣れ・オはO型・頬を上げて・目を開けろ・体を鳴らせ・空気を鳴らせ・吠えるな・かぶせろ・魅力を出せ・色っぽく・みずみずしく・輝いて・つやを出せ・雑音をとれ・基本はハミング・体重をかけろ・まっすぐな声・安定させろ・もっと遠くへ


 A 歌い方に関するもの(重複)

・俳句をよむな・流せ・つなげ・時間いっぱい・はじき歌いだ・弓の矢をうて・気持を顔に・いつも新鮮に・休符で蓄積・新しい出発・向かって行け・頂点を極めろ・燃えろ・その音を成長させ・その音にエネルギー・納めて・和音を聴け・和音に埋まって・思いやりを・吐き出し唱法・しーんと静まれ・弱音に勢いを・音を走らせて・水かき唱法だ・清潔な声

(以上は「自己表現力を育てる合唱指導」というテーマの中で取り上げた語録集と重複しています)


(つづく)
 
(899)小倉尚継 論述集 その70 2012年 9月15日(土)
【授業における発声指導 その4】
 青森県高教研音楽部会研究発表(昭和63年度)


4、発声練習のあり方を考える


 発声練習は歌唱活動にプラスになるべきもので、発声練習のため疲れてしまったとか、歌が嫌になったとか、逆効果になってはいけない。また、単なる発声練習で終わってしまってももったいないことである。

 次に合理的な発声練習7箇条をあげてみる。


@目的が明確であること。(音域拡大・音色改善・筋肉脱力・声帯刺激・フォーム確立等)

A音型は単純で、進め方は変化に富むこと。(マ・サ・ハ・タ行、ハミング・強弱、指導語録活用で飽きさせないように)

B既習曲を活用すること。(移調・歌詞唱・母音唱・スタカート・スキップ唱など)

C現歌唱曲の一部を使うこと。(発声練習と実歌唱の一致)

Dグループ、個人指名で緊張感保持したり変化をつける。

E教師も生徒も根気強いこと。

F実際の歌唱に必ず役立てること。



(つづく)
 
(900)小倉尚継 論述集 その71 2012年 9月23日(日)
【授業における発声指導 その5】
 青森県高教研音楽部会研究発表(昭和63年度)


5、終わりに

 「発声法の体得は専門の歌手を志す人にとっても一生の仕事である」といわれるが、生徒に正しい発声法を身につけさせることは大変難しいことである。

 授業だからこの程度で良いだろうと妥協してしまうと、やがて教師自身の首を絞めることになる。つまり、いつまでたってもいい声が出ず、活気のある授業が出来ず、自分も生徒も不満だらけで嫌になってしまうのである。


 最近、全国的に生徒は声を出さなくなったという声が聞かれるが、自分も含めて低いところで妥協している面があるのかも知れない。

 われわれ教師は生徒の歌声を聴いて、それを鏡とし、自らを映し、常に反省をし、永遠に続く発声の指導に当たらねばならない。


 誰かが次のように言った。

 「どの学校に勤務しても、授業が上手くいかないからといって、生徒や保護者や他の人に責任をかけてはいけません。自分が授業にエネルギーをかければかけるだけ、必ず生徒を通してその熱意が形となり、効果を上げる事が出来るはずです。自分の心をさらけ出し、本気で授業を行うことで、きっと生徒に気持が通ずると確信します」


 まったくその通りで、生徒に何を求めるか、どうなって欲しいのか、そのイメージをはっきり持つと共に、自分をさらけ出すような意欲的な指導が永遠に必要であると思うのである。



(つづく)
 
(901)小倉尚継 論述集 その72 2012年 9月29日(土)
【音楽と私 〜 歌の姿さまざま その1】
木造高校稲垣分校での講演  教頭・福岡幹根先生に招かれて(平成元年頃?)


 皆さん、はじめまして。私は福岡先生の親友の小倉です。

 さて、現在はカラオケ全盛時代ですが、私の記憶ではカラオケが世に出る前に「プラス1」というレコードがあって、ステレオ録音の一方を消して自分の歌で入り込むというものでした。楽器が主役でして、ギター・ピアノ・管楽器などありましたが、今日はご挨拶代わりに、ギターを消して私が独唱で入り込むことをやってみたいと思います。

 歌1 思い出のソレンツアーラ・・・伴奏はプラス1レコードから録音したもの

 私は歌が大好きです。自分の職業が音楽教師だからではありません。小さい頃から好きだったのです。
 小学校の頃は姉たちをまねて歌謡曲をずいぶん歌いました。非常に内気で無口な子供だったので、専らトイレで歌いました。学校の唱歌も自分から進んで歌うことはしなかったけれども、指名されればどんな歌でも歌いこなせたし、どんな高い声でも出たものでした。近所の子供を誘い、二階に上がり、桃缶詰めの大きな空き缶をつるしてマイク代わりにし、何度も何度も歌ったことも楽しい思い出でした。


 中学校時代は変声期の間だけ声が不安定でしたが、それほど不自由は感じませんでした。性能の良くないラジオにかじりついて、ラジオ歌謡や歌謡番組は欠かさず聴いたものでした。

 高校時代は弘前市へ通いましたが、土手町の楽器店でラジオ歌謡の楽譜を買うのが大きな喜びでした。清純で抒情的な歌が沢山生まれた頃でした。
 あざみの歌・山のけむり・白い花の咲く頃・さびたの花・リラの花の咲く頃等です。

歌2 白い花の咲く頃


(つづく)


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