大雪山系の紅葉 2010年9月22日〜23日
眼前180度何キロにもわたって雄大に広がっている紅葉、その絶景を十数年くらい前に旭岳山頂から見た時の感動は今でも忘れる事は出来ない。全てが紅葉しているのではない。上品な淡い黄緑色の中に真っ赤に燃えた紅葉と沼が点在している。その色のコントラストの優雅さは王妃のようであると感じた。気品と壮麗さに満ちた美しさ。そこには威厳と気高さがある。旭岳の紅葉の美しさは空間の広がりと太陽の輝きによって彩られていた。壮大に広がっている、解き放たれた空間の中、紅葉の気品、気高さ、壮麗さが心に訴えかけてくる。以来、度々旭岳に来るようにしているが、その時を凌ぐ紅葉はまだ一度もない。温暖化による、地球の悲鳴が、旭岳の紅葉にも暗い影を落としているのか?
めげずに、今年も来ました、旭岳へ! 2010年9月21日午後に旭岳温泉に到着。しかし、ロープウェイの終着駅である姿見の池一帯は濃いガスに覆われ、視界は十数メートル位で、全く紅葉は見えない。残念。翌日、9月22日、午前6時15分のロープウェイで出発。予定は、旭岳−北鎮岳−黒岳石室(一泊)−北海岳−赤岳−銀泉台(第一花園)。ロープウェイから見た紅葉は微妙に時期が早過ぎたようだ。

午前6時30分過ぎに姿見の池駅を出発。旭岳山頂は初冠雪で雲の中だが、姿見の池周辺は、視界良好。


旭岳山頂に登るか、裾野に広がる裾合平から中岳、黒岳石室へとルートを変更するか迷ったが、雲行きが悪いので、山頂に着く頃に紅葉を見渡せる程雲がなくなる事はないだろうと判断。旭岳を諦め、裾合平の紅葉を楽しむことにした。


この判断は、正しいかった。姿見の池一周よりも、裾合平へ一時間位も行けば、そこは紅葉の楽園である事が分かるだろう。後で気付いたのが、どうやら道内の登山愛好家の間では、紅葉を見るならば、裾合平−当麻乗越(とうまのっこし)−沼ノ平、というルートが不文律になっているらしい。実際、裾合平を進んでいると、遥か前方から 「まるで天国のよう、これがお金では買えない幸福なのね」という女性達の大きな歓声が聞こえてきた。「えっ?そんなに綺麗なの?」と思い、急いで進んで行くと、このような景色が開けてきました。






『凄いな〜、圧巻』と感動しました。写真で紅葉の壮大な広がりを上手く表現出来ていないかもしれませんが、後方に見える安足間岳(あんたろまだけ、2200m)の裾野(大体1600m)から山頂を覆っている雲までの距離を測ると、裾合平の紅葉の広大さ感じ取れると思います。裾合平から当麻乗越まで行き、そこから見える紅葉も写真に収めてから、中岳分岐へ登るという選択肢もあったが、時間内に黒岳石室に到着できるか自信がなかったので、当麻乗越まで行かずに、裾合平から直接、中岳分岐へと登って行った。(当麻乗越からの絶景を見に行かなかったのは、大きな判断ミスだった。)
裾合平から中岳分岐への中間地点までの紅葉はピークを過ぎていたが、それなりに良かった。



中腹から中岳分岐までの風景は一変した。雪がぱらつく中、岩と川の景色が目に飛び込んできた。

岩場をのんびりと進んでいくと、登山のつわものらしき人が、私を素早く追い越して行ったが、暫らくしたら、引き返してきた。何故だろう。答えはこれ。



そこは雲の中、まるで、北極か南極のような強風の吹き荒れる氷の世界。私を追い越して行ったアメリカから来た夫婦も引き返して行った。それは正解だ。その後、出会ったのは、中岳分岐から下りてくる登山者2名だけ。
ラジオでは旭岳の初冠雪が報じられていたが、とんでもない。本当の姿はこれ。雲の中、道標はこの有様。(霧氷)




上二枚は中岳分岐の道標。下二枚は北鎮岳の道標。この間、出会った登山者はいない。そこは想像を絶する氷の世界。厳寒の中、台風並みの横殴りの風で何度も飛ばされそうになり、一度飛ばされたが、登山道のロープにつかまり、何とか凌げた。こんな中、縦走する人は殆どいないと思った。私は、厳冬の寒さの中でも、ダウンを着て30分も歩けば、体がほてり汗をかくので、ゴアテックスのレインウェアを着ていただけだが、この様な凍てつく状況も対処出来るのは当然と思っていたし、実際、寒いとは思わなかったが、猛烈な風だ。ラジオでは初冠雪としか報じられていないが、真実を報告できる人がいなかったのが原因なので、私がここに証拠写真と共に報告する。黒岳石室に1時30分過ぎに到着した時、石室の管理人が、私が旭岳から来たと聞いて、『よく、こんな中、来たね』と驚いて言った。後に、ノルウェーから来た3人組も、同じコースを縦走してきたが、そのうちの一人は、石室に泊まらず下山して行った。ノルウェーには2000mを超える山はないが、大雪山の寒さは大丈夫。しかし、この強風は駄目だと言っていた。でも大雪山系の紅葉は本当に美しい、と感銘を受けたようだ。北欧の人でも参ってしまう、氷の世界の中での強風、これが真実です!
北鎮岳の裾野を下ると、雲と強風からの脱出となり、あまり寒いとは感じなかった。黒岳石室近辺がこれ程、広範にわたって紅葉しているのを実際に見た事がなかった。多くの場所で、かなりの時間、立ち止まって、夢中で草紅葉(くさもみじ)の写真を撮っていましたが、その為、今まで経験した事のない事態に陥るとは、想像もしていませんでした。






黒岳石室近傍で、数多くの写真を立ち止まって撮っていると、体の芯から冷えてきて、体が微かに震えてきているのに気付いた。こんな場合は、たとえ100mでも走れば、体が熱ってくるのだが、私は6〜7時間以上歩くと、情けない事に、足にあまり力が残らないことがあるという弱点があるし、もう石室にも着いてしまった。それで石室で、ダマールの南極でも大丈夫な下着に着替えた。震えが少し小さくなったが、下着自体は体温を外に逃がさないためのものであり、自動的に体を温めるものではない。石室の中はかなり寒い。それで、温かい紅茶を飲み、エネルギー補充の為、少し食べたが、効果がない。(低体温症には、アルコールやカフェインの入ったものは駄目。紅茶は良くなかった、反省。チョコレートも駄目。)ストレッチングをしたら、少し温かくなった。それから、シュラフ(寝袋)の中で休んでいたが、一向に寒さによる震えが無くならない。その後、温かいラーメンなどの夕食を取り、寝ることにしたが、シュラフの中でも、体の芯からの冷えで、体温が低いままでいるのが分かる。寒くて不快だ。このまま寝て、より一層体温が下がるのが心配だ。困った。考えた。少しストレッチングをしたら体が温かくなった事を思い出した。シュラフから出てストレッチする事は寒過ぎて出来ないが、シュラフの中で膝を曲げて、30秒以上、体を少し起こしたままにしていると、腹筋に力が加わり、エネルギーを消費でき、体が温まるのではないかと考えて実行した。(エネルギー不足の場合、こんなことをすると、エネルギーが枯渇し、死んでしまう)素晴らしい。何回か繰り返したら、体が熱ってきて、体の芯から温まってきた。良かった! しかし、もう寒いのはご免だ。予定をまた変更して、翌日、黒岳の紅葉を見ながら下山し、黒岳の湯で、のんびり過ごした後、バスで銀泉台まで行き、予定通り第一花園の紅葉を見ることにした。その方がより一層紅葉を楽しめる。体を使い、運動不足を解消する為に来たのに、体でなく、頭を使ってしまった。黒岳の紅葉は、ピークを過ぎていたようだが、それなりに良かった。










銀泉台、第一花園(だいいちかえん)の紅葉も綺麗だった。以前は花苑と呼ばれていたそうだ。


確かに今回私は、大雪山系における紅葉の2大スポットである、高原温泉沼と沼ノ平へは行かなかった。それでも、大雪山系の紅葉は、奥が深く、スケールが大きい、そう感じずにはいられなかった。気品と壮麗さに満ち溢れた大雪山系の紅葉は心の琴線に触れる何かがある。それは人の心を惹きつけ、私の心は、その奥深い所で、感動し安らいだ。
大雪山系の貴重な情報源と美しい写真は以下のサイトがお勧め(私の知る範囲では)
北の楽園大雪山日記
大雪山 山だより
大雪山旭岳ロープウェイ
大雪山黒岳ロープウェイ
大雪山旭岳ビジターセンター
大雪山黒岳ロープウェイ、以前のブログ
大雪山・高原温泉沼の美しい紅葉の写真はこちらのサイトもお勧め
日本一早い紅葉『大雪山』を歩く
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