2009年9月20日から9月22日まで大雪山系黒岳から高根が原へ紅葉狩り登山に行ってきた。右膝が腫れて痛い状態で登山することとなり、かなり危機的な状況に陥る可能性もあったが、
状況に応じて5通りのコース設定をし、状況に適した判断をすれば対処できると確信していた。しかし、層雲峡に着き見上げると、黒岳は雲の中、全く見えない。
膝を痛めているのに登山に来る者を自然は容赦しないのか。「スタートから最悪」と覚悟を決めて勇気を奮い立たせて登山開始。心は重かったが、登り始めて20分位で、
黒岳中腹の紅葉が見えるほどに雲が一部途切れてきた(写真13,15,1,2,3)。山頂は雲に覆われていたが、「これで十分紅葉が楽しめた」と感謝した。しかし、黒岳山頂にあと数分で着くという時に、
山頂の雲も跡形も無く消え去った。諦めていたのに、凄い!!! (写真4,5)
一日目は黒岳石室に泊まった。アメリカ・カナダなど英語圏の登山ツアー・グループも後から来た。男女おおよそ半分ぐらいの大勢の若者のグループだ。
前回(2006年)果たせなかった山での星空を堪能できた。まるで星に手が届くと思えるほど、星を近くに感じた。無数のダイヤモンドのような星が様々な輝きを放っていた。
これほど贅沢な装飾をどんな人も施すことは出来ない。感動しながら一時間近く山小屋の外で堪能していた。
二日目は朝早くに出発、霜が降りていた。(後で知ったのだが、その日の朝は今年一番の寒さ)。平均の水深は多分10数センチ位の川を石伝いに渡り始めた時、信じられない事が起きた!
膝を痛めている右足を川面の下に沈んでいる石の上に置いた瞬間、石に透明な氷が張っているのが分かった。「そんなバカな」と思ったが、時既に遅し。前のめりに滑って、川面へとダイビングしていた。
幸い寒かったので、ゴアテックスのレインウエアーを着ていたため、ゴアテックスの完全防水に救われ体と服は全く濡れなかった。しかし、首からぶら下げていたデジカメは水の中へ。
「ああ…やってしまった。これが、無謀にも膝を痛めて登山する代償か。カメラは安くはないし、せっかく来たのに、紅葉の写真も撮れない。」と落胆しながら、デジカメをケースから取り出したが、
殆ど水滴が付いていない。慌てて、必死にカメラを拭いたが、きっとダメだろうとも思い、悲しかった。川の水は、手を1〜2秒以上入れておくと危険と感じるほど、瞬間冷凍のように冷たかった。
しかし、この転倒が後で大きな意味を持つとは露知らず。
午前中に二日目の宿泊地である白雲岳避難小屋に到着。どうやら、デジカメは大丈夫そう。不安ながらも、広大な高原地帯の高根が原から、眼下に広がる高原温泉沼の紅葉を写真に収めた。(写真6〜10,14,16〜20)
高根が原では、私一人ぼっちで、登山者は極端に少ない。(写真11,12) 中高年登山者は殆どいなかった。今年の、大雪山系縦走で多くの犠牲者が出たせいなのかも知れない。高根が原縦走路では、
男女比おおよそ60%対40%の英語圏の登山者が一番多く、途中例の外国人グループに追い抜かれたり、別の外国の登山者グループに出会ったりで、まさに紅葉の中にブロンド美女達が花を咲かせているようだった。
その他は、日本の若者たち(男女比率も大体同じ)。それ以外は登山経験豊富な中年が極僅かにいただけ。その日、白雲避難小屋には日本の中高年登山ツアー客は来なかった。夜は雨が降っていた。
三日目が心配になった。雨で滑る登山道は、悪い膝には過酷だ。
三日目は、天候が悪化するとの予報に基づき、黒岳へ戻って下山するのが最善と判断した。雨は降っていなかった。黒岳へ戻る途中、早朝の白雲岳の雪渓に差し掛かった時、
同じ早朝に川の中の氷の上で転倒したことを思い出した。昨日10時過ぎ頃は、この雪渓はある程度湿って柔らかく歩きやすかったが、油断してはいけない。滑落の危険があり、
下を見ると斜面の先の方は多分崖か急斜面になっているのか見えない。雪渓を横切る道は平らになっていないので、一歩一歩慎重に進んだ。雪渓は湿っていて柔らかく歩きやすかったが
中間地点に来て左足を一歩前に進めた瞬間、その箇所だけが凍っているのに気付いた。警戒することなく素早く進んでいたなら、バランスを失い滑って滑落していただろう。恐ろしい罠だ。
凍っている部分の端の方は幾分柔らかいので、そこを登山靴で砕き平らにしてそこへ左足を置いて進むことが出来たが、もう一箇所同じように凍っていた。
危ない、危ない。あれほど惨めに思えた川での転倒が、こんなに役に立つとは!
今回の登山の反省は、とにかく準備不足とトレーニング不足で、足がまだ十分強くなく、到底トムラウシへの縦走は無理と分かって、落ち込んだこと。言い訳としては、右ひざが悪過ぎた。
次回はもっと足を鍛えてから、来なければならないことを痛いほど思い知った。達成感もそれ程あった訳でなく、あれこれと頭の中で分析していたが、下山してリフトで降りていく時、
胸に強くこみ上げて来るものがあった。私の心は、私の冷静な思いの知らない所で、感動しているのだ! 何故私の心が感動しているのか私には分からない。これが登山というものか。
私の心を私は取り戻し、私が私でいられる平穏さ。広大な自然の中、見渡す限り私一人ぼっちでいる、非日常的な経験の喜びと感動。大自然に温かく包み込まれた、心地良さ…
という訳で、無事下山できた…?いや、まだ分からない。右の膝は、相変わらずだ!
写真の番号は上段左から右へ、そして同様に下段へとなっています。



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