っつがぁぁぁぁぁぁんっ!!
 静まり返った廃墟の中に爆音が響き渡る。
「マズイわね…。もう始まっちゃった……」
 と威輝さんは舌打ちをして、速度を上げて、爆音がする方に向かって突き進む。
 爆音のする先には髪が伸びたレスカと目の色が変わっているカイトが交戦中の姿があった。
「もしかして…カイトの肉体はもうフォルトに乗っ取られたの?!」
「その可能性がでかいな。さっきからその火竜族の少女からの生気がまるで感じない。どうやら地竜王の権利を受け継いだのはあの水竜族の若造か…」
 若造って……。あ。そっか…。シヴァさんは黄金竜族だから若造に見えなくもないか…。
「烈滅風月(れつめつふうげつ)!!」
 といきなり威輝さんは印を組み、術を放つ。その術はカマイタチのような風の刃がいくつも現れ、フォルトに乗っ取られたカイトに向かって襲い掛かる。しかし、その殆どは避けられてしまったが、2つほどカイトの体を切り裂き、切り口から鮮血がほとばしる。
「ふふふ…。この……魔力………天竜王か…………」
 と口にもとについた血をふき取りながら、カイトの声は別の女性の声に変わり、呟いた。
「久しぶりね、フォルト。誰かの体を乗っ取ることでしか存在を保てない哀れな神よ」
 と不敵な笑みを浮かべ吐き捨てる威輝さん。ここでお互いにらみ合いを始めたのである。


「今までの恨み晴らしてやる!!」
 と口火を切ったのはフォルトだった。両手に魔法弾を込め、一気に威輝さん達に攻撃してくる。
「地竜王!!援護を!!」
「分かりました
!!」
 …………………………………………はい???
 分かりましたぁ〜??????
 俺はレスカの口から発せられた言葉に目が点になった。
 え…。レスカは男だけど、今の口調はどー見ても女口調だよね…。
 今までの会話の中でもあんな最後に「〜〜〜〜わ」なんてお嬢様言葉聞いたことないぞ…。おまけに微妙に声も女っぽいし…。
 てかあったら気持ち悪いわいっ!!
「ってシヴァさん!!」
「ん???」
 俺がシヴァさんに話を問いかけようとしたところ、シヴァさんはきょとんっとしながらこっちを見た。俺は一回息を飲み、一呼吸間を置いてシヴァさんに問い詰めた。
「もしかして、地竜王の初代って女?!」
「あ???知らなかったのか???」
「知らなかったよ!!」
 と俺はすかさず言った。すると、シヴァさんは仕方がなさそうに説明し始めた。
「竜王は水竜王と地竜王が女性、天竜王と火竜王は男性となっている。そこまでは分かるか?」
「うん」
「数というのは存在のバランスを左右させる。男神が多くなってしまえば、地上は荒れてしまうだろう。かといって、女神が多くなってしまえば大地は水の下に沈み、そこから生えた植物や水の生物しか生きれなくなってしまう。
 どっちが多すぎても、我らが住む世界にとって見れば、困ることになる。だからバランスがいいように2対2の割合になっているわけだ」
「へぇ…」
 と俺はシヴァさんの分かりやすいような、全然分かりやすくないような説明を聞いて感嘆の声をあげた。
 そう言ってる間に、向こうでは戦闘が始まっている。
「全てを滅する業火の贖罪!!」
 ごぉうっ!!
 と威輝さんは普通の魔法(と言ってもかなりの高等魔法)を放つ。
 その術は贖罪って言う割には人体に害はない。完璧ないとう言うわけではないが、あるとしてもその食らった人の疲れとか体力消耗しきった部分を回復するぐらいだ。
 その代わり、害があるのはその食らった人間にとり憑く霊魂(殆ど悪霊)か、精神攻撃を主体とする魔物や魔族。
 おまけにこの術は相手の位が低いほど命中率がむちゃくちゃ高い。もし相手が高い奴でも外れるわけではない。
 むしろ、この術はこの世に存在する百発百中の部類に入る珍しい術でもある。まあ、その分術者の負担も相当なわけで、場合によってはしっぺ返しを食らう可能性もあるおっかない術でもあったりする。ま、用は使いようである。
 その術を食らったフォルトは悲鳴をあげるが、その術が消える頃には息を荒くなりながらも、戦闘体勢は変わらない。
 その姿を見て、威輝さんも舌を出して呆れる。
「この術を食らっても尚、戦うつもりか…。そういえばあのときもそうだったわね……」
 と昔を振り返るのである。
「地竜王。拠り所の魔力所有量(キャパシティ)を考えて攻撃できるときはぶっ放していいからね。そのときは私が援護する」
「分かりましたわ。では……」
 そう言うなり、地竜王は目を閉じ、何か術を発動するらしく、胸の前で手を軽く組む。その組み手を見て、威輝さんは何かを察知したのか、威輝さんもまた印を組み、術を発動しようとする。
 一方フォルトは今がチャンスだとカイトの腰に携えてあった剣を引き、抜き攻撃を仕掛け、一気に二人に向かって飛んでいく。フォルトが二人の間隔とあと1メートル切ろうとしたところで、威輝さんの術が先に完成した!!
「我は纏う旋風の鎧!!」
 ぶひゅおぉぉぉぉっ!!
 と威輝さんと地竜王の周りに結界が張られ、フォルトの剣も届かずに終わる。
「ちぃ…っ」
 と舌打ちするフォルトの頭上から甲高い声が響いてくる。はっと上を見上げると、グルグ宮殿から逃げた(らしい)フォーティタが重力魔法を手の平に溜めて威輝さん達三人を巻き込んで消そうとする!!
 まずい!!
「みんな死んじゃえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
 と狂気に満ちた声でフォーティタは叫び、ザガルテルト(かもしれない)を威輝さん達に向かって放つ!!
 しかし――――――
「重滅愚問(じゅうめつぐもん)……」
 とまるで攻撃を予測していたかのように地竜王は呟き、フォーティタの放つザガルテルトを一瞬で消し去った。その場にいた誰もがその行動に驚いた。それに構わず地竜王は目をつぶったまま静かに口を開いた。
「死者の思いを弄ぶ愚かな者よ。あなたは死者をいつまで苦しめるつもりですか?あなたはここにいてはならないものなのです。だからお消えなさい」
 という問いに、フォーティタは馬鹿にするように笑い
「苦しめるだってぇ?そもそも僕を産んだのはその死者じゃないか!!愚かな市民の思いがある限り僕は不滅だ!!」
「そうですか…。では交渉決裂ですね…」
 と目を開き、覚悟を決めたかのようにぐっと真剣な表情になった。そして、目線を上にやり―――――
「だそうですよ、水竜王。この愚か者を消してくださいな」
 と柔らかな口調で言ったのである。そして、威輝さんもまた最初から気づいていたかのようにくすっと笑った。
 すると、フォーティタから少し離れたところで、いきなり心臓だけがにゅっと現れ、それをきっかけで次々に骨や細胞、臓器などが集まり、服を纏い……。そして…出てきたのは行方不明だった珠喬だった。
 しかし、どこか雰囲気が違う。なんていうのかな。いつもより目が攻撃的…。
「どうやら向こうも4代前の水竜王・静鏡(せいきょう)と入れ替わったようだな……」
 と懐かしそうにシヴァさんが言ったのである。
 静鏡…………???
「シヴァさん。静鏡って???」
「ん???ああ。おまえは知らないんだったな。今珠喬という少女の体を使っているのは威輝と同じ代を継ぎ、珠喬と共にここに来たことがある人物。大人しめといっても、切れたらおっかない水竜王の初代様と違って、最初から静鏡は名前とは逆で、一番のおてんばだったな…。あの代はちょうど全員女という珍しいケースだったんだよ…」
 と過去を振り返りながらシヴァさんが語ってくれたのである。
 へぇ…。4代前は皆竜王は女だったんだぁ…。
 …………………………ん???てことは火竜王も天竜王も男なのに器は女!!ってことあの口調で言うとなると…かなりの男装麗人じゃないですか!!
 と俺の中でかなり面白いことになっていたりする。おいおい…。
「フォーティタね…」
 と珠喬改め静鏡さんは静かにフォーティタに目をやり、目を細める。まるで、獲物を見定めたように…。
「あのときはまだ未熟だったから見逃してやったけど、まぁだナルシスト風情はたらたらに残っているのね〜…」
 そう言いながら静鏡さんはフォーティタの前に手をかざす。そして、ぎゅっと手を握ると、声も出ぬ間にフォーティタの時間経過がみるみる逆戻りになり、フォーティタの体が縮んでいく。そして最後には肉体すら残らず消えてしまった。
「ほう…。時巻(ときまき)か……」
 とシヴァさんは静鏡さんがやった術の名前を懐かしそうに呟いた。
 時巻……???
「なるほど。時を巻き戻してフォーティタの存在を“なかったこと”にしたのだな…」
「え?!時を戻すって…?!」
 シヴァさんの懐かしむ言葉に俺は飛びつき、シヴァさんに問い掛けた。すると、シヴァさんはちょっと考えて
「おまえ…そうなんでもかんでも人に聞く癖を直せ。まあ他の竜王が放つ術は分かるが…ちったぁ頭を使え」
 とごもっともなご意見が返ってきたのである。
 でも、これであの男の子が言っていたダックを組むことはないだろうね。
 そう思っていた矢先、フォルトが急に高笑いし始めたのである。
「はははははははっ!!水竜王!!おまえには感謝するよ!!余計な邪魔者を殺してくれたおかげで私の力が更に強くなった!!」
『?!』
 フォルトの言葉に俺たちは耳を疑った。しかし、そんな暇もなく、フォルトの体が…というか元はカイトの体なんだけど…。その体が黒く光りだした。
 一体フォルトの体はどーなるんだ?!

 

続く→

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