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十 |
| 「はあっ!!」 と空中ではいつの間にか総老師と安曇までも合流して戦っていた。 「あれ?!二人とも?!」 驚いているのは、やっぱり北都。素っ頓狂な声をあげていると、二人はにこっと微笑み叫んだ。 「竜王陛下!!ここは我ら二人にお任せを!!なあにこの老いぼれとて昔はそれなりの術者でございましたからなぁ!!」 「頼む!!」 北都は方向転換してフォルトに向かって攻撃を仕掛けようとするが、フォルトの腕が伸び、北都を捕まえる。 「う…あ……っ」 みしみしみし…っ!! フォルトの手が北都を握りつぶそうと力が入る。それと、同時に北都の骨もきしむ。 威輝さんは右手を天に向かって掲げ、念じ、叫んだ。 「我が空を切れ 運命を断ち切れ 『風神楽第八帖・歪!!』」 ヴ……ンッ 威輝さんの頭上に俺の背丈より倍ある槍状の物体がいくつも出現する。そして、フォルトに向かって落下して突き刺さる。しかし、フォルトの体からは血が一滴も出ないのである。まるで。石像のように瓦礫になるだけ…。 がんがんがんっ 歪が北都をつかむ手にも刺さり、力が緩み、北都の体の自由が効くようになった。しかし、北都は気を失っているようで、そのまま体勢を崩し、落下していく。 ボンボンボン…ッ ぐら…っ 「まずいっ!!」 威輝さんは慌てて北都の後を追っていき、地面と約5メートルといったところで、北都の足を掴み、地面との衝突は免れた。それがわかった俺と威輝さんは同時に安堵の溜め息を洩らした。 一方上では他の竜王が俺達の穴埋めをするかのように応戦し、風神楽・歪もまた発動し続けているが、どこまでもつか…。 「北都。北都!!しっかりなさい!!」 「う…っ」 威輝さんが北都の頬を叩き、意識があるか確認する。すると、北都はすぐさま目覚めた。それを見計らってシヴァさんが叫んだ。 「『歪』だけでは決定打にならない!!歪の影に隠れながら後ろに回りこみ、一気に『風神楽第十三帖・滅』を放つんだ!!」 「らじゃっ!!」 シヴァさんの指示に威輝さんは従い、歪の影に隠れてフォルトの後ろに回り込もうとするが、フォルトの髪が先に存在を察知して、髪を一気に伸ばし、威輝さんに向かって髪を振り上げ叩きのめそうとする。 しかし、威輝さんもまた読んでいたようで、避けると同時に建物の方に飛来する。そして、着地するなり、先程紙に書いた奴を取り出し、地面に広げたのである。 ま…まさか…… その行動に俺は一抹の不安を察知する。そんなことお構いナシに、威輝さんはその紙に向かって今でも流れる血を数滴滴らせた。それと同時に、威輝さんは印を組み、そして舞いだしたのである。 「???????」 俺は威輝さんの不可解な行動にただ呆気に取られてるだけだった。一方シヴァさんはやれやれといったご様子…。 一方威輝さんは舞を踊りながら呪文らしき言霊を呟いた。 「我が右手に炎 我が左手に水 因果に従い 我が助けとなるべき 我が前に姿を献じよ」 ずおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! 紙がばたばたと動き、そこから鬼炎と水鬼が現れた。 「主上。我らを呼んだか…」 「我らを呼ぶとなればそれ相応の用があるのであろう…?」 と体を威輝さんに摺り寄せながら二匹は言った。威輝さんは二匹を撫でながら言った。 「あのフォルトに向かって攻撃をして欲しいの。あいつの力分かるでしょ?」 「ああ…。神に等しいほどの凄まじい力……」 「我らは手を出してよいものか?」 と二匹はフォルトの力の前に困惑している。しかし、威輝さんは続けて言った。 「大丈夫。あれは悪しき神よ。アレを倒さねば我らは死ぬ」 「了解した。主上の頼みとあらば従わないわけにもゆかぬ」 「我らの力見せてしんぜよう」 そう言って二匹は飛び立ち、攻撃をしてくる。 「重力神!!あの力を!!」 威輝さんは時が来たと、察知したようで大声を張り上げて北都に向かって叫んだ。すると北都は待ってましたとばかりに飛び出した。 「フォルトぉ〜!!食らえぇぇぇぇぇぇぇっ!!」 北都はそう叫ぶと、頭上にマイクロブラックホールらしきモノを出現させた。そのとき!! 「そのまま僕を殺して!!」 とカイトの声が俺らの耳に入ったのである。その声に北都はびくっと反応し、攻撃を躊躇した。 「重力神!!何を躊躇っているの?!早く攻撃を!!」 「分かってるけど…っ!!元を正せばフォルトの体はカイトの体なんだよ!!」 「でも、今は違う!!フォルトを倒さなければカイトは救われない!!」 そう言っている間にフォルトは隙を見つけ、髪で二人を吹き飛ばした。 「ぐ…っ」 建物にぶつかり、苦痛の声を洩らす威輝さん。北都もまた苦痛の表情だった。 「だから攻撃しろって言ったのに…」 「すみません…」 と威輝さんの言葉に北都は珍しく素直に謝ったのである。 こりゃ…明日あたりにでも天変地異でも起きそうだな…。 と俺もビックリしてたりする。 っがぁぁぁぁぁぁぁんっ!! フォルトの容赦ない建物がいくつも倒壊し、建物に埋められてる人たちは苦痛をあげていることだろう。 だけど、こちらとて余裕がある戦いをしているわけじゃない。むしろ切羽詰っているという方だろう。水鬼も鬼炎も攻撃して、向こうに打撃を与えているが、息があがっている。これでは、やられるだけになってしまう。 「北都……。カイトの声を聞いてから技をあんまり出さなくなったね……」 俺は戦いを見守りながら、ふとシヴァさんに向かって言った。シヴァさんもまた溜め息をつきながら 「あの声が相当ショックだったのだろうな…。自ら殺せと言われれば誰だってビビるわ……」 「だけど、このままだとこっちがやられっぱなしだよ…」 「そうだな。だが、火竜王がやる気を出さねばあの技を出すことはできん」 「だあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!威輝さん交換して〜〜〜〜〜〜〜〜!!そしたら一発ぶん殴れるのに!!」 「だったら、強く念じて戻せばいいじゃないか」 と苛立っている俺にシヴァさんはさらっと言ったのには俺は目が点になった。 「はいぃ???」 「だ〜か〜ら〜…。あの体は元はおまえさんのモノなんだから、主が強制的に戻す事だって可能だってこと。俺たちはあくまで幽霊に近い存在だからな。強く念じれば元に戻せるって」 「そんなもんなのかなぁ……???」 「そんなもんだ」 と不思議がってる俺に対し、シヴァさんはあっさりと答えた。 俺はその言葉を信じて俺と威輝さんを元の位置に戻せと強く念じた。 そう…強く……強く……。 念じつづけていると、ふっと目の前が真っ暗になった。 「おいっ!!」 「はっ!!」 北都の声に俺ははっと我に返ると、目の前は異界ではなく、ザガルの倒壊しきった風景が映っていた。 つまり、俺と威輝さんの入れ替えは成功したのである。 「やった!!元に戻った〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!………あたたたたた」 そう喜んだのも束の間、怪我をしていることを忘れてて、手を上げた途端痛みが走る。その痛さに思わずうずくまる。 「ちょっとぉ〜!!どーゆーことよ?!入れ替わってるなんて!!」 と耳元で威輝さんが納得してないと言わんばかりに騒いでる。それをシヴァさんが冷静な言葉で返した。 「元はあいつの体なんだからしょうがないだろうが!!これが自然の摂理っていうもんだ。 洸琉。威輝のことは俺に任し、おまえは北都を正気に戻せ。後のことの作戦はこちらで任せろ」 「分かった。よろしく頼むよ」 俺はそう言って宙を飛んだ。 そのことに俺はちょっとビックリした。何故なら、呪文を唱えずに飛べたからである。 これが空間神の力なのか??? って思うのは今だけにして、それより先に北都を!! そう思ってきびすを返し、北都に向かっていく・・・。 「北都ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」 ごがしっ!! 「あ゛う゛…っ」 俺の蹴りがモロに北都の頭にメリこんだ。 なんか久々にこーゆーツッコミをしたかもしんない…。 と俺は自分の体を懐かしく感じた。一方北都はふらふらとよろめきながら俺の方を見た。 「この蹴りのタイミングは……おまえ洸琉か?!」 「どーゆータイミングかは知らんが、北都の言う通り今この体を使ってるのは洸琉(俺)だ」 と不敵の笑みを浮かべながら言うと、北都は喜んだ。 「そうか!!体は男なのに口調が女だったからオカマはイヤでイヤでしょうがなかったんだ〜〜〜〜〜〜…。助かったよ」 ぴしっ 北都の一言に威輝さんがぶち切れた音が聞こえた気がした…。その後の行動が目に浮かぶな…。 「とりあえず…。今はフォルトをどーにかしないと…。北都が技を使ってくれないと、こっちが先にへばっちゃうよ」 「だけど…。あの体は……」 「もうカイトじゃない。カイトの体を書き換えた魔物だ。だから倒さなくちゃならない。 カイトも言ってたジャン。『このまま僕を殺して』って。向こうも消えることを望んでいる。だから楽にさせてあげようよ」 「うん……」 としぶしぶ納得したように北都は返事をした。 「鬼炎、水鬼。もういい!!戻れ!!」 俺はそう叫ぶと鬼炎と水鬼は一礼をして光と共に消え、紙に戻った。 「さあて…じゃあ頼むよ。北都!!」 「おうっ」 北都はそう言うと、再び頭上にマイクロブラックホール並のものを出現させた。 「フォルトぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」 ぐおぉぉぉぉぉぉっ 「虞煉冥却(ぐれんめいきゃく)!!」 ごあぁぁぁぁぁぁっ!! 北都の重力術がフォルトの…カイトの体を無残に吹っ飛ばした。俺達の周りには残骸と思える瓦礫が降り注ぐ。 それと、同時にフォルトの体から光の玉が抜け出しふよふよと旋回している。地面にはカイトの魂が抜けきった抜け殻の体が倒れ伏せていた。それにいち早く動いたのは水竜王だった。 「か…勝った……???」 「カイト!!」 「天竜王、火竜王!!まだです!!先にフォルト本体を!!」 と地竜王が叫んだ。はっと俺達は上を見上げると、フォルトの魂らしきものが俺たちに向かって襲い掛かる。 ヤバイ!! 俺は避けきれないと覚悟して、目をつぶり顔を腕で隠した。しかし、攻撃はしてこない。 「?」 俺は恐る恐る目を開けると、フォルトの魂はあの少年が捕まえてどこから持ってきたのか知らないが、ナイフでその魂を刺して、消し去った。 「あ…っ!!」 「ゴメン…。君たちが頑張ってくれたのに……。最後の最後で僕がとどめを刺しちゃった……」 と悲しそうな顔をしたのである。俺は何も言わず首を横に振った。 「とどめは苦しめられた人たちが刺すものだ。だから気にしないで」 「ありがとう…。これで僕達の悪夢も終わる。君たちのおかげで僕達は悪夢から目覚めることができる」 「そうだね。随分と長い間頑張ったもんね」 「うん…。だから僕らも消えなくちゃ…。僕らは生きてる人間じゃない。本来ならもういない人間だから…」 その子はそう言うと、周りの建物が何もしてないのに音を立てて崩れ始めたのである。 「僕らは旅立つよ。君たちが生まれた世界に大地に…」 そう言うと、安曇とその子は薄っすらと存在が薄くなっていったのである。 「皆様。短い間だったけど、お世話になりました…」 と安曇はぺこりと一礼する。顔を上げたときはうっすらと涙を浮かべていた。 「最初は敵だと思っていたけど……あなた方を仲間と呼びたい……」 「いいよ。っていうか、一緒に戦っていた時点で仲間だと思うけど?」 と北都が笑顔で言うと、安曇も笑顔になる。 建物からは無数の光の玉が空に飛んでいく。きっと、住民の魂だろう。 そして、建物もまた崩れて消えていく。 「人は繋がってるからまた会えるよ。だから…さよならなんて言わない……」 「うん…。またいつか会おう」 「うん…」 そう言うと、二人は消えていった。それを見送って、カイトの体を抱えたままの水竜王が溜め息混じりに言った。 「さてと、じゃあ私たちも元の人格に戻そうかしら?」 「ダメですよ。今は先に元の世界に戻らなければ…。この世界はもうすぐ消えます。いつまでも我らがここにいては元の世界に戻れなくなりますよ」 と地竜王が水竜王を制した。 結局、俺たちは下の世界に戻るというのを先決にして、以前出てきた門を探して、元の世界に戻ったのであった。 |
| 続く→ |