「洸流。起きているか?」
 深夜。俺たちの寝床として用意された部屋に紫さんが蝋燭の明かりを頼りにお供ナシで入ってきた。
「起きてますよ」
「そうか。ならば、こちらに来い。おまえには大切な話がある」
 そう言って紫さんは、打掛をすって俺を案内した。俺はパジャマ姿でその後を追った。案内された部屋は御簾、畳、屏風など古代日本の平安朝の調度品でひしめいていた。紫さんは部屋の奥の中央に設置された座る時に敷く方形または長方形の敷物の茵に座って真剣な目で改めて口を開いた。
「おまえには覚悟して聞いてもらわねばならぬことがある」
「なんでしょう?」
「おまえには古に滅びた召喚士の素質がある。それどころか、もう既に召喚士として能力が目覚め、召喚獣が2体従えているじゃないか」
「ああ。水鬼と炎鬼のこと?」
「そうだ。召喚士の資格の無い者が、そう簡単に召喚獣を作ることはできない。それなのにおまえには召喚獣がいる」
「それは……4代前の天竜王が召喚士で、俺の体を使って勝手に作ったんだよ」
「何?」
 俺の言葉に紫さんは眉をひそめた。
 も…もしかして…俺なんかマズイことを言ったかな???
「洸流。悪いがその4代目の天竜王をこちらに呼ぶことは可能か?」
「え?!あ、うん。できると思うよ」
「今すぐここに呼び出せ」
「え〜〜〜?!なんで?!」
「いいから!!」
「分かったヨぉ……」
 しぶしぶそう言いながら、俺は目を閉じ、威輝さんに呼びかけるように念じた。
「………………………………………呼んだかしら?」
 と、俺の意識と威輝さんの意識が入れ替わり、俺の意識は異界へ、本体に威輝さんの意識が乗っ取った。再び目を開けた。
「洸流に入れ替えろと言ったのは貴女かしら?」
「左様で」
 そう言って紫さんは立ち上がり、威輝さんの傍にしずしずと寄ると、伏礼した。
「?」
「覚えていますか?2200年前のことを…」
「2200年前?覚えてるわ……。貴女…もしかして紫?」
「はい。外見がまだ12であった紫です。お久しぶりです。威輝師匠」
 と伏せたまま、紫さんは涙声で言った。
「え?!師匠?!」
 紫さんの発言に俺が驚いていると、シヴァさんがやってきて説明した。
「おまえ何も知らなかったんだな。威輝は召喚士の素質がずば抜けていて、若くして弟子も二人ほど持っていた。一人は今いる黄金竜の紫。そしてもう一人は地竜族の亞茜(あせん)という少年竜だった。
 亞茜は紫と同期でな、それはそれは仲がいい二人だった。お互いライバルとして認め、励まし合い、実力をあげていった。紫も素質があって期待されていた。
 しかし、それは時は許さなかった。威輝は戦争で、二人の目の前で死んだ。子供を庇うために。そして後を追うように亞茜も敵陣に撃たれて死んでしまった。それ以来のことは音沙汰がなかったので、知らないが…」
「そうなんだ…」
 と、シヴァさんが語る過去に俺は揺れた。そして、威輝さんは、くすっと微笑みながら言った。
「ホント久しぶりね。すっかり大人になってしまってどちらが師匠なのか分からなくなってしまったわね」
「お戯れを。いくつになっても、姿形が変わってしまっても、貴女様は俺の師匠です……」
「そうね。もう……私たちがいた世とは違うのね。召喚士も廃れてしまった……。もう召喚士は必要ないのね…」
「いいえ。師匠。まだ召喚士は俺を含めて数名生き残ってます。それに新たな召喚士の卵も師匠が温めているではありませぬか」
「…………………そう。気づいたのね」
 ?
「はい。洸流には召喚士としての素質があります。いえ、その素質はもう孵化していると思えます」
 え?!
「俺が召喚士?!」
 紫さんの言葉に俺は素っ頓狂な声をあげ、耳を疑った。思わずシヴァさんを見ると、シヴァさんは静かに頷いた。
「………………う…嘘…だよね?」
「ホントだよ。威輝はおまえに触れた時点で気づいていた。古に滅びた力がおまえの中で目覚めた。
 まあ、正確には能力が先祖返りしたと言ったほうがいいのだけれど…」
「へぇ…。そうだったんだ……」
 と言ってると、威輝さんはため息をつきながら言った。
「……………確かにこの子には召喚士としての素質はある。だけど、この環境ではその孵化した幼子も羽化することなく潰れてしまうわ」
「いいえ。そんなことはさせませぬ。俺が……洸流の召喚士としての師匠となって、この子を召喚士として目覚めさせます」
「目覚めさせても…夢はいつか終わる。この子に託してもいつか消える……」
「それでも…この子に召喚獣が必要なのは、師匠も分かっているでしょう?」
「………そうね。今のこの子じゃ天竜王を使うだけじゃいささか不安だし、召喚獣をもう一体位持ってた方がいいか…。
 だけど、時間はあるの?洸流の話じゃ即位式までもう1週間もないって言うじゃない。即位が無事出来たとしても、この子には仕事がある。とても修行してられないんじゃない?」
「大丈夫です。そのための秘策は十分用意してありまする」
 と含み笑いをする紫さん。
 一体何を企んでいるんだ?

 

続く→

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