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弐 |
| 『つ……疲れた………』 鉱石を無計画のまま探し始めてどれくらい経ったか分からないが、俺と北都、そして瞳姐さんは廊下で力尽きて座っていた。何故なら、鉱石の能力により、部屋と部屋の繋がりをめちゃくちゃしてくれているおかげで俺たちは無駄足を強いられているわけである。 「やっぱり無計画で行動したからこうなるんだよ〜」 俺はジャンクフードを口にほおばりながら言うと、瞳姐さんは無言で睨みつけたものだから、俺は慌てて視線を逸らした。 ヤバイ。まずいときに言っちゃいけないことを言ったかも……。 「………洸琉ちゃん」 「はいっ!!」 とむちゃくちゃ低音で呼ぶ瞳姐さんに思わず俺は返事をしてしまった。そして瞳姐さんは声を低くしたまま言った。 「……飲み物ある?」 「え…?スポーツドリンクならあるけど……」 「ちょーだい」 「へ?」 俺は瞳姐さんの言葉があまりにも意外なので目が点になった。そして瞳姐さんは俺に迫ってくる。 「お願いだからちょーだい」 「ぜ…全部飲まないでね」 俺は瞳姐さんの押しに負け、しぶしぶそう言いながらポシェットの中に入っているスポーツドリンクが入った500ミリリットルのペットボトルを手渡すと、瞳姐さんは一口口にした。 「ぷっは〜っ!!生き返るぅ〜!!」 そう言いながら、ペットボトルを俺に返したのである。しかし、俺はペットボトルに入っているスポーツドリンクの量を見て、驚き叫んだ。 「瞳姐さん飲み過ぎ〜〜!!もう半分しか残ってないじゃん!!」 そう。ペットボトルに残っているスポーツドリンクは最初に入っていた量から半分になってしまっていたのである。つまり、瞳姐さんは一口で半分を飲みきったのだ。 はぁ…一応二本持っててよかった。 そう本心からそう思ったそのとき、持っていたペットボトルが何もしていないのにがたがたと俺の手の中で震えだした。 な…なに……?! しかし、ペットボトルは一向に震えている。今度はペットボトルのキャップが勝手に緩みだし、外れた。そして――― 「皆さぁぁぁんっ!!重大ニュースでぇぇぇぇぇすっ!!」 『うわぁぁぁぁぁぁっ!!化け物ぉ〜〜〜〜っ!!』 とペットボトルからゲートキーパーの朧が飛び出てきたのである。俺たちは思わず大声をあげて逃げた。 「化け物とは失礼な!!空間がひっちゃかめっちゃかになっているから高等呪文を使って皆さんのところに来たんじゃないですか!!」 「だからっていきなり水の中から出てこないでよ!!風とか炎だってあるだろ!!」 「炎だったらだったで皆さん『火の玉だ〜』って叫ぶでしょ?」 「それでも水から出てくるよりかは怖くないわ!!」 と俺はツッコミをすかさず入れた。 「で、朧はいったい何の用があってここに来たわけ?」 と冷静な態度で北都が朧に尋ねると、朧はぽんっと手を打ち、 「そうでした!!刑部卿から伝言を預かりしてきたんでした!!」 『伝言?』 と朧の言葉に眉をひそめる俺達。 「そうです。刑部卿からこう言われたんです。 『朧を入れ独立部隊として鉱石破壊任務に向かえ』だそうです」 「ど…独立部隊ねぇ……。こんなときにいちいち独立部隊を作らなくてもいいじゃないの?それより鉱石の対処法を教えて欲しかったよ」 「まあ、そのへんは自分達で見つけろと言ってましたよ」 じ…自分達で見つけろってかなり酷いんじゃない? 「そーいえば、一般市民とかは大丈夫なの?」 「玄関部分の職員の話だと入り口付近は別に大して変わらないそうですよ。それより早く鉱石を破壊しないと、僕達のほうが参ってしまいますよ」 朧はそう言って立ち上がると、先にあるドアにIDカードを通して先に進もうとした。それに遅れて俺達も後を続いたが、次の通路を見て絶句した。その通路には白い壁に赤と黒と白の線が引かれている。これは対賊用の罠が仕掛けられている通路だという警告線だ。この罠には大抵人体に害を及ぼす罠が多い。ここは何階の罠通路か分からないので、対応しきれない。朧はとりあえず罠解除装置にIDカードを通し、パスワードを入力するが、エラーになってしまった。本来なら職員のカードとパスワードを入力をすればあっさり解除される筈だ。なのにエラーということは解除されてない罠を通らなければならないということか。 う〜やらなきゃ先に進めないよねぇ。 そう思っていると、瞳姐さんは口元を引きつらせながら言った。 「……三つ数えたらいっせいに前に進むわよ。1、2……3!!」 と瞳姐さんの言葉に合わせて俺達はいっせいに前に出ると、警告音と共に俺達の体に物凄い重力が圧し掛かる。 「ぐぅぅ…」 あまりにも凄い重力のため俺は思わず悲鳴をあげた。装置には1.5Gと表示されていた。 凄く重い。このままだと体が砕ける………。 そう思っていると、北都が歯を食いしばりながら無理矢理立とうとするが、重力に逆らえず倒れこみそうなるが、なんとか絶える。 「や…やっぱり……罠は………強力だわ…………」 と瞳姐さんも北都と同じように圧し掛かる重力を起き上がろうとする。 「い…いい加減に……しなさいよぉっ!!」 瞳姐さんはそう言いながら一本の手裏剣を引き抜き、発動装置に向かって投げるが、重力の重さに耐え切れず、虚しくも地に落ちた。それを見た北都は重力に再び逆らい、手裏剣を取り出し、装置に叩きつけた。すると、今まで圧し掛かってきた重力が一気になくなり、自由のみを手に入れることができた。 「北都!ナイス!!」 「よくまああの重力に対抗することができたわねぇ」 と喜ぶ俺の横で瞳姐さんは感嘆の声をあげた。北都は一息つくと、答えず先に進んだ。 「ちょ…っ!!あたしの質問に答えてよぉ〜!!」 「先を急ぐんだろ。その説明は任務を終えてから説明するよ」 と北都はそう言うと、さっさと先に進んで行き、IDカードを装置に通すが、開かない。 「アレ?どうしたんだろ?さっきはちゃんと開いたのに…」 「もしかして、招かざる物がここにあったりして……」 「そんな、まさか。こんな簡単に見つかるわけないじゃないか」 と北都はそう言いながら再びIDカードを通す。すると、今度はちゃんと開いたが、目の前には見たこともない物が置いてあった。それは真っ暗な部屋に直径5メートルほどの球体が俺達の前で構えていたのである。球体の中では何かが蠢いている。俺達は警戒しながらその球体に近づくことにした。すると、急に体が浮いたのである。それに驚いた瞳姐さんは驚きの声をあげた。 「何これ!!ここだけ無重力なってる!!」 「ここは一体、何の部屋なんだ?」 「まるで、ここの省庁のコアのようですね……」 と口々に言っていると、球体がほんのり光り、しゃべりだしたのである。 「誰……。私の眠りを妨げる者は………」 『喋った?!』 と当然の如く俺達は驚いた。 そりゃ誰だって驚くだろう。いきなり喋りだすんだから驚くだろう。 俺はちょっとビビりながらその球体に向かって尋ねた。 「あ…あなたは……?」 「私は圭咒(けいじゅ)。私は待ち望む主を護る者(ガーディアン)」 は? 俺は球体の答えにただ眼が点になった。そんな俺に対して、朧は圭咒に向かって吠えた。 「ガーディアン?!そんなモンがここにあるだなんて一言も聞いたことがありませんよ!!貴方は本当に何者ですか?!きちんと正体を表しなさい!」 「私は圭咒。私は待ち望む主を護る者……」 と球体は先程と変わらぬ答えを返すだけだった。俺たちはすっかり呆れていると球体がぽそっと呟いた。 「……マスター」 『はい??』 と俺たちはその言葉に目が点になった。 マスターって誰のことだよ? 「……マスター。あなたがマスター適齢期なって迎えに来てくださることをずっとお待ちしておりました。ずっとお会いしたかった……!!」 と球体はそう言うなり、眩い光を放った。そして、その球体から俺より年下と思える少女がにゅっと出てきたのである。その少女は漆黒の髪をお団子頭にし、豪華に装飾された冠をつけ、赤を基調としたまるで古代中国皇帝…いや、女帝というべきか。そのような格好をして、目尻には紫のアイシャドウがかけられ、唇には淡い赤の紅をつけていた。その少女はゆっくり目を開くと、黄金のくりくりとしたつぶらな瞳で俺をじっと凝視した。 そして―――― 「マスター!!会いたかったのじゃ!!」 とちょっと変わった口調で勢いよく抱きついてきたのである。一方俺のほうは状況が掴めなかった。 はい? 「妾は圭咒。そちの守人(まもりびと)じゃ。ずっと会いたかったゾ」 『ええええええええええ?!』 と俺たちは少女の声に驚くのだった。 俺がこいつのマスターってどーゆーことなんだよ?! |