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参 |
| 「ま…守人(まもりびと)って……?!」 頭の中がパニックで状況整理が出来ないながらも俺は圭咒というこの目の前に立っている少女に尋ねた。すると、圭咒はぷぅっと頬を膨らませてちょっと機嫌を悪くしながら答えた。 「何を申すのかと思えば…マスターは変なことを言うのじゃ……」 「変じゃないって。俺守人なんて聞いたことがないんだから…」 「本気でそう言っているのかや?」 と今度は目をぱちくりして俺を凝視する圭咒に俺もただ頷くことしかできなかった。すると、圭咒はしばし俺を見て深い溜め息をついた。 「そうか……。陛下はまだ告げておらぬのじゃな……。ならば妾が全てを説明せねばなぬまいのじゃ……。 マスター…。おぬしはそこにいる普通の人間とは違う存在なのじゃ。 古から今日までずっと人の魂と共に共存し、風を纏い戦い見守り続ける者なのじゃ」 「はぁ…?一体全体何が言ってるのか分からないよ〜!!」 と俺がお手上げ状態でいると、北都はふむと考え込んでぽそっと呟いた。 「もしや…洸琉は天竜王(てんりゅうおう)の生まれ変わりか?」 『なっ?!』 北都の言葉に圭咒と北都以外は驚愕の声をあげた。 天竜王って……。確かこの惑星を作った張本人であるの四人の竜王うちの一人で、四大元素である風と光を司り、その力は息を吹きかけるだけで生命が生まれ滅び、人差し指で天を指せば世界に恵みを与えることができて、逆に地を指せば世界を滅亡に導くことができる。誕生と破壊の神。他の三人よりあまりにも力があり過ぎて人との係わり合いを絶ったって聞いたけど…。 「なんで俺がその天竜王の生まれ変わりになるんだよ?!」 『器に相応しい力量だから』 俺の質問に北都と圭咒が綺麗にハモって答えた。 相応しい力量って……。 「さすがじゃのう…。普通の人間として惜しいくらいじゃ。本当にそちは普通の人間なのかえ?まるで違う匂いがするのじゃが……」 と呆れている俺をほっておいて圭咒は北都の行動に感心する。すると、北都はくすっと苦笑して答えた。 「そりゃどうも。あんたも随分やるねぇ…。さすが守人だね。人と違う匂いが嗅ぎ分けちゃうなんて……」 と意味深なことを言う北都。俺達は眉をひそめていると、圭咒はにやりと含み笑いをしたのである。 「やはり……。そちは……」 「そ。ご名答。俺も竜王の一人でね。四大元素の火と重力を司ってるんだよ」 『でぇぇぇぇぇぇぇぇっ?!』 と驚きの声をあげる俺達。 「ちょ…ちょっと…。どーゆーことなの?!洸琉ちゃんが天竜王で、あなたは火竜王ってことなの?!」 「その通りだよ。瞳姐さん。俺は火竜王。火と重力を司りこの世界を作った張本人の一人の生まれ変わりなんだ。信じられないかもしれないけど、その証拠に洸琉と同じように俺も守人を持っているんだ」 北都がそう言うと、どこからともなく圭咒と全く同じ背格好をした少女が現れた。違うと言えば、瞳の色。圭咒は金に対してこっちのは銀の瞳をしている。 「鈴咒(れいじゅ)……」 圭咒はぽそっと呟くと、その鈴咒という少女はにこりと微笑んだ。 「お久しぶりね。圭咒。そしてごめんなさいね。言うのが遅くなってしまって。何せあなたはまだ眠りつづけていたんですもの」 「いつ覚醒したのじゃ……?」 ちょっと怒りが入った声で圭咒は北都と鈴咒に問い掛けると、北都が答えた。 「7年前…。ちょうど洸琉と同じぐらいのときに修行中に死にかけたんだ。そのときに目覚めた。そう言えば納得してもらえるかな?たぶん俺が五人の竜王の中で一番最初に覚醒したんだと思うよ。あとついこの間の事件であいつも目覚めた」 「あいつ……?あいつって誰のことなの……?」 俺は思わず割って入って北都に質問した。 「珠喬(しゅきょう)って人。おまえはまだ会ったことがない人だよ。水と時間を司った水竜王なんだ。といってもまだ時間の力のほうは目覚めてないけどね。それより今はこんなことをしている場合じゃないと思うけど……?」 「あ。あの鉱石……!」 と北都の言葉に朧はぽんっと手を打ち思い出した。 「だけど、どこに行っているのか分からないのにどうやって先に進めというのよ?」 「それに及ばないのじゃ。マスターの力を目覚めさせればよい」 と瞳姐さんの質問に圭咒はにやりと笑って答えた。そして、俺に近づき、俺の手を取った。 「マスター…。これからそちに過去をお見せするのじゃ。そして力を……天竜王の力を目覚めさせるのじゃ。そうすれば、その消えたプラウデリア鉱石も見つかるだろう……」 「プラウデリア??」 「そちらが探している鉱石の名前じゃ。空間を引っ掻き回す竜神人が作った失敗作。まさかそれがまだあったとはな……」 そう言うと、圭咒は俺の手を握る力を更に強めた。 「マスター。天竜王の記憶と魂、そして力を受け入れよ。何もかも忘れただ天竜王の導くままに進むのじゃ」 そう言われると、いきなり目の前が真っ白になって俺の頭の中に一人の男の記憶が一気に流れ込んできた。まるでビデオテープを早送りしているように次から次へと記憶が電流みたく容赦なく流れ込んでくる。体が拒否反応しているかのように痺れてくるのが分かる。 口から吐き出してしまいたい。全身に力が漲ってくる……。このままじゃ体が耐えられない……。 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 俺は耐えられなくなって悲鳴をあげたが、記憶の方は容赦なく流れ込んでくる。手を振り解こうとしても、圭咒の力のほうが強くて振りほどけない。 やめて……。これ以上こいつの記憶を見せないで……。ドロドロしていて気持ち悪い。吐き出したい!! [我を受け入れよ。俺は何もしないから……] ?! 俺の頭に直接男の声が響いてきた。なんていうのかな…。女の人とも男の人とも言える声なんだ。 君は誰……? [俺は天竜王と呼ばれている者。少年よ。俺を受け入れろ] 天竜王?!じゃあこの流れてくる記憶って君の?! [そうだ] ヤダよ。こんなドロドロとした記憶なんていらない!! [確かに残酷な記憶ばかりだ。だが、受け入れなければ前に進むことも後に戻ることなんてできないぞ] どうして……。俺じゃなくたっていいじゃないか……。 [おまえでなければならないんだ。おまえを失えばもう二度と生まれ変われないぞ] 脅しかよ……。神のくせに極悪人だな……。 [……そうだな。だが、本当なんだよ。おまえは俺という力を受け継ぐため…そして目覚めさせるために生まれたんだ、人の王の子よ。だから……] 受け入れて力を目覚めさせろってこと……?都合が良すぎるよ。 [それでも前に行かねばならないのだ] 分かったよ。受け入れてやるよ。 俺は天竜王の押しに根負けしてあえなく降参し、目を瞑り受け入れることにした。記憶の方も人という肉体の寿命と思える晩年の頃に入った。けど、それは、さっきの残忍な記憶よりも優しく穏やかだった。そして、最後を迎えると天竜王はこう言ったんだ。『ありがとう…。そしてかたじけない……』って。 体中に力が……天竜王の力が漲ってくる。 「洸琉!!」 と俺を呼ぶ声が聞こえてきたので、目を開けてみると目の前に北都……いや違う。北都の顔をした赤い髪をした男が俺のことを心配そうに見つめていた。一応周りを見て見ると、どうやら俺は立って浮いたままらしい…。 「……誰?」 「俺だ。北都だよ。分かるだろ?」 「え?」 その男の言葉に俺は一瞬固まったが、頭を振って再び見てみると、そこにはさっきとは違う北都がいた。 「あ……。北都だ……」 「どうやら。天竜王を受け入れたんだな」 「うん。気持ち悪い記憶ばかりで最初は受け入れたくなかったんだけど、結局最後は根負けして覚醒させてあげたというか……そんなカンジ」 俺は肩をすくませて言うと、北都も苦笑しながら言った。 「俺も似たような感じだったよ。あまりにも惨過ぎて当時の俺にとっては悪魔が降りてきたのかと思った。でも…そうでもしなければこうしていられることができないって分かったもんなぁ……。おまえも時間が経てば言っている意味が分かってくるよ」 「そうなんだ……」 「ひっかるちゃぁぁぁぁぁんっ!!」 と俺と北都の会話の中に無理矢理割って入ってきたのは瞳姐さん。思いっきり俺に飛びついてきたのである。 「ひ…瞳姐さん……」 「んもぉ〜お姐さん心配したのよ〜!!いきなり、圭咒ちゃんと手をつないだと思ったら立ったまま失神しちゃうんだものぉ〜!!」 「え?!立ったまま?!」 「そうよぉ〜!!それに耐えられなくて圭咒ちゃんも一緒に倒れそうになったんだけど、私が抑えてあげたのよぉ〜!!」 とやたら嬉しそうに言うので、俺はしばしジト目になって 「朧…。俺が倒れている間、瞳姐さんよだれとか垂らしてないよね?」 と思わず朧に尋ねてしまったのであった。 「一応…。でも、目が危なかったですけど…。今にも襲おうとしてましたから…」 「げっ!!」 朧の言葉に俺は条件反射的に瞳姐さんから離れようとしたが、びくともしなかった。 「洸琉ちゃんどーしたのぉ?」 「瞳姐さんと一緒にいるのヤダ!!」 「ああ〜。ひっど〜いっ!!洸琉ちゃんったら私のこと変態だと思ってるんでしょ〜??大丈夫よ。うなじにチューでもしようしただけだから!!」 「それが変態だって言いたいんだよ!!」 「どーでもいいけどさぁ……」 俺が瞳姐さんに突っ込んでいると、北都が割って入ってきて言い出した。 「洸琉も覚醒したことだし、早くそのプラウデリア鉱石とやらを始末しに行った方がいいと思うんだけど……」 『そうだった……』 北都の言葉に俺達はいっせいに納得した。 「じゃあここを出ようよ。いつまでも長居してたらやばいもん」 「及ばずながら妾もついていくのじゃ」 とやたらやる気満々な圭咒。そこに鈴咒も加わって二人はきゃっきゃっと楽しんでいる。それを尻目に外に出ると、空間はさっきと入ったときは全く変わっていた。照明が消え、ただ赤い絨毯があるのが分かるだけが確認できるだけである。 赤い絨毯に金色の糸で装飾されたこの通路は刑部卿の部屋に続く通路だ。照明の方は補助電源が照明までに行かなくなったか……。 「マスター。もしかしたらここにいるかもしれないのじゃ。強く念じて…。ただそいつの存在だけを…。そしたら『第四帖・繋』の完成じゃ!!」 「何それ?」 圭咒の言葉に俺は何が言いたいのかさっぱり分からなく問い返した。すると、圭咒は地団駄を踏み、答えた。 「んもぉ〜!!記憶とか継承したのに!!技の名前じゃ!!天竜王が繰り出す技は全て合わせて十五帖ある!!そのあるうちの四番目、つまり四帖には空間と空間を繋ぎ合わせることができるのじゃ!!」 「マジ?!じゃあそれを使えば鉱石も簡単に見つかるってわけ?!」 「いや……そこまで簡単にいくか分からないのじゃが……」 「おっしゃっ!!やってみようじゃないの!!」 と俺は圭咒の言葉を無視して、手を前に掲げ、鉱石のことを強く念じた。ただそれだけしか考ないようにしたのだが―――――…。 「あれ?鉱石ってどんなのだっけ???」 ずべしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 鉱石の形をすっかり忘れ、技をこなすのを中断して考え込むと、その場にいた者は思いっきりすっこけた。 「お…おまえなぁ…っ!!」 ぴきぴきと怒りマークを散らばせて起き上がり俺に迫ってくる、北都。 「あ〜…ごめん、ごめん。ちょっと忘れちゃって……」 「ちょっとぢゃねーだろ!!この馬鹿!!」 「悪かったてば!!」 俺はそう言うと、再び、集中して強く念じた。 来い、来い、来い……。この空間を暴れまくってるプラウデリア鉱石よ!!我が前に現れろ!! そう願っていると、目の前の空間がぐにゃりと捻じ曲がった。 「おおっ!!洸琉!!その調子だ!!もっと念じて奴を引きずり出せ!!」 分かってるよ!!でも、空間が捻じ曲がっただけジャン!! 「風神楽(かぜかぐら)第四帖……繋(つなぎ)ぃぃっ!!」 そう俺が叫ぶと、空間が更に捻じ曲げられ、まるでマイクロブラックホールのような空間が出来上がり、そこからあの鉱石が吐き出されるように出てきた。 「おっしゃっ!!じゃあこっちも行くか!!紅漣(ぐれん)!!」 鉱石が出てくるなり北都が前に出た。そして、神の力を借りたのか知らないが、蛇のような炎が北都の右腕に絡みつく。そして、その炎は鉱石に向かって稲妻の如く走り、鉱石を炎で包む。鉱石はまるで火を消そうとしているかのようにじたばたと絨毯にその身を叩きつける。しかし、炎は一向に消える気配はなく、逆にどんどん火力が増していく。そして、絨毯にもあっという間に火が移り燃え広がる。 「とどめだぁっ!!」 北都はそう叫ぶと、刀を引き抜き――― 「斬っ!!」 と真っ二つに切ると、鉱石は切り口から波紋のように徐々に亀裂が走り、最後にはまるでガラスのように砕け散った。 「……終わったね」 砕け散り、まるで雪のように舞う鉱石を見ながら呟いた。 「ねぇ……。竜神人はなんでこんなモノを作ったんだろうね…」 「『滅びたくなかったから……』じゃないの……?」 「そうかもね……」 と感傷に浸っていると、更に勢いを増してメラメラぼうぼうと黒い煙を噴いて燃えている絨毯が目に入った。 やばっ!!火を消さないと火事になる!! 俺はとっさに水系の術を唱えようとした。すると――。 「滝のように舞い落ちろですぅっ!!」 どっぱぁぁぁっ!! 『ぶっ?!』 大量の水が俺達を巻き込んで降り注ぎ、燃え盛る炎を消した。 「いえ〜いですっ!!」 俺達を巻き込んでおいてピースをするさっきの術を発動させた鈴咒。俺達はモロに頭からかぶったものだからぴちゃぴちゃと水滴が滴り、服も下着までぐしょぐしょに濡れている。俺達はジト目で術者の鈴咒のほうに睨みつけると、鈴咒は笑顔のままぺろっと舌を出しただけだった。 『鈴咒ぅ〜〜〜〜〜〜〜っ!!』 目が据わったまま鈴咒に迫ると、鈴咒は一歩下がりながら言った。 「だってあの炎を一気に消すには高等呪文でなければならなかったんですもの〜」 「だからってアレを使わなくてもいいだろーが!!他にもあるだろ!!」 「そうよぉ!!折角高い服を着てたのに、台無しじゃないの!!」 「もう少し考えて発動させてください!!」 と鈴咒に容赦なく責める北都たち。鈴咒はそれに耐えられずその場から逃げ出したが、それを見逃す三人じゃない。まるで地の果てまで追いかけるように追いかけていったのである。 |
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続く→ |