「ほへぇ〜…ここが真実の都・ヴェーリタースねぇ……
 北都は都に着くなり感嘆の声をあげて町の様子をぐるりと見渡した。
 真実の都……。そこは鏡張りの建物ばかりで目が痛くなるんだよね…。
 そして、その鏡全てが問い掛ければ真実を答えることができるらしい。その構造は未だ不明で古代の建物をそのまま使用しているという都。この都に住むものは主に俗世を離れ僧官となった者が暮らすところと呼ばれている。ここに普通の民がくれば一度いやな真実を突きつけられて精神が保たなくなるからだそうだ。
 そりゃそうだよな。毎日真実ばかり突きつけられていたら精神的に参るって……。
「ここに俺達が知らなきゃならない真実があるんだよな?」
「うん。夢の中で天竜王が言ってたから間違いないと思う」
「そりゃこっちも昨日火竜王言ってたけどさ…。こんなきらっきらしたところに入るのは嫌だなぁ…。でも、これが知らなきゃいきないこととなると嫌でも通らないといけないし……」
「そーゆーこと。さっさと行こうよ」
「ちょっと待った!」
 都の中に入ろうとしたとき、突然北都が静止したきたのである。
「どうしたの??」
 突然の静止に俺はきょとんっとなっていると、北都は真剣な目で言った。
「おまえ…。ここがどーゆー都が分かってるのか?」
「え?!そりゃ…全ての建造物についている鏡は真実を告げることができる都でしょ?」
「おまえなぁ…。根本的なことから忘れてないか?ここは竜王を奉った寺院の総本山だぞ!」
「ええ?!そうなの?!」
 北都の言葉に俺は本気で驚いた。
 まさかここが寺院の総本山だと誰が思う?ってそういやここには僧官しかいないっていうから総本山があっても可笑しくないわな……。
「ここは寺院の総本山。まともに真正面から行ったら歓迎ムードまっしぐら。それこそ遺跡探しなんて到底無理。だったら……」
 北都はそう言って近くにあった建物に触れて尋ねた。
「真実を突きつける鏡よ。我が問いに答えよ…。
 我を俗世に離れた者に触れぬため我ら竜王を導く方向は何処にある?」
[それはあっち……]
 鏡はそう言うと、太陽の光を借りて、一筋の光の線を都とは反対方向を指した。
[そこに仲間がいる……]
 そう言うと、光の線は消えた。
「天竜王は都の中に遺跡があると言った。でも、真実の鏡は逆方向を指した。一体どんなこっちゃ???」
「仲間がいると言ったけど、もしかしたら珠喬も俺達と同じ信託を受けてこっちに来ているかもしれない。行くぞ!!」
 北都はそう言うと、俺の手を掴んで高速の浮遊呪文を唱えて都とは逆方向、つまり鏡が指した光の方向へ向かったのである。
「北都ぉ…。術を使わないでスクーター使えば魔力消耗しなくても済むんじゃないのぉ?」
「……………忘れてた」
 忘れてたんかいっ!!
「ともかく先に行かないと……って!!」
 北都は言い終わる前に急ブレーキをかけて止まろうとしたが、俺はそのまま前に吹き飛ばされた。
「のわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 しかも目の前何気に湖だし!!
 
ずべべべべっ!!
 ごががががががっ!!

 俺は水面をスライディングし、そのまま森の入り口にある木に背中から衝突した。
「あたたたた………」
 あ…あんにゃろぉ〜…。人を無理矢理引きずりまわしておいて(?)最後はこれかよ?!
 俺は衝突した格好のまま北都に対しての怒りが募りに募っていた。
「洸琉、すまん〜……!!」
 遠くの方で北都が大声で謝るのが聞こえる。そこに俺の目の前が急に陰ったので、俺は見上げてみると、水色でウエーブが入ったロングヘアーにくりくりとした金目、端から見たらお子様と思えるほどのベビーフェイス。服はひらひらの白のブラウスと水色スカートでいかにもお嬢様で女の子らしさが浮き彫りになっているその人が心配そうに俺を見てるんだ。
「……大丈夫?」
 外見と比べて少しだけ大人っぽくか弱い声でその人は俺に声をかけけてきた。俺はころんっと回転して起き上がり頷くと、その人は笑顔になった。
「……よかった。北都君が君を吹き飛ばすのを見えたからちょっと心配してたんだぁ……」
 とか弱い声で言うこの人。北都の事を知っているみたいだけど、一体何者なんだ?
「あ……。自己紹介まだだったね。私は……」
「珠喬(しゅきょう)!!」
 と彼女が自己紹介する前に北都が遮り、俺達のところに近づいてきた。
 珠喬……?確か水竜王の生まれ変わりの人だよね?ってことはこれが三人目の竜王????こんなにか弱そうなのに???
 俺は凄く納得いかないというか想像とはかけ離れた人だったので、半分パニックなっていた。
「あ…。北都君だ……。皇子様を見たときまさかと思ったけど、君も竜王の神託でこっちに来たんだね…」
「久しぶりだな、珠喬。おまえも神託を受けたのか?」
「うん……。夢の中で急いで向かってって言われたから…。でも、場所とか明白に教えてくれないし、ヴェーリタースぐらいしか分からなくて徒歩で向かってたんだけど、そしたら皇子様が来たから……」
「そっか……。場所はこいつのほうが明白に分かってるっぽいゾ」
「ホント?さすが天竜王様だわ!!」
「あのぉ〜…二人で話し込むのは構わないけどさ、いい加減自己紹介してくれない?」
 と俺は二人の会話に申し訳なさそうに割って入ると、二人は俺の存在を忘れていたらしくぽんっと綺麗に揃って手を打った。
 をい……。おまえら……。
「初めまして、皇子様。私は珠喬=初音(しゅきょう=はつね)と申します。珠喬と呼んでくださって結構ですわ。
 そして水を司る水竜王の生まれ変わり。北都君から説明があったと思うけど、まだもう一つの力には目覚めてない未熟な竜王です。
 昨日の北都君の連絡だとあなたは一発で二つの力を同時に覚醒したとか…。さすが、天竜王の生まれ変わりですね」
 ……この人は皮肉を込めて言っているのだろうか?でも、なんでさっきから俺のこと皇子様って呼ぶんだろう??
 そう思っていると、その珠喬っていう人はにこりと微笑んで――
「今、『なんで俺のこと皇子様って呼ぶんだろう?』って思っていたでしょう?」
「?!なんでそんなことを分かるの?!」
 見透かれた?!それとも時間神としての力が目覚めかけているとか?!
「だって…。顔にそう書いてあるんですもの…、黙っていても分かるわ。
 私が何故皇子様を皇子様と呼ぶのか…。それは宮仕えをしているからですよ」
『ええええええええええええええ?!』
 珠喬の言葉に俺と北都はハモって驚いた。
 宮仕えしてた?!そんなの知らなかったよ!!ってもしかして宮仕えしてたのは東宮御所じゃなくて、宮殿だったりして…。東宮御所と宮殿って隣同士だけど、歩いても結構距離あるんだよね〜。大して人数もいないのにお互いに部屋が多いから…。
「ちなみにどっちに仕えてたの?」
「宮殿の方ですよ」
 …なるほど。見たこともないと思ったらそっちか。確かに会おうにも会えないわな…。刑部省の仕事が忙しくて滅多に宮殿に行かないから……。
「と。ここで同窓会を開く暇もないようですよ」
『?!』
 珠喬の一言に俺達は周りから出る殺気に気がついた。
「囲まれたか?」
 北都はそう言いながら腰に携えていた刀の鯉口を切る。
「そうみたいだね」
 俺もまたそう言いながら刀の鯉口を切って臨戦体制になる。
「どうやら敵は殺人人形(キラードール)数体と盗賊のようですね」
 と珠喬は溜め息をつきながら言った。
 それと同時に茂みに隠れていた盗賊の一人が俺たちめがけて襲い掛かってきた。それが合図になり、次々と盗賊と殺人人形(キラードール)が襲い掛かってくる。俺はひらりと宙を舞い、くるりと宙で回転する。それと同時に刀を引き抜き、着地するちょっと手前で一人の盗賊に切りつけると、そいつの肩から鮮血が噴出し、悲鳴をあげて崩れ落ち、それを見送る暇もなく、次の盗賊も左腕を肘から上を刀で吹き飛ばし、そこから勢いよく血が噴出し、苦痛をあげるが、それでもめげずに残った右手で持った両刃刀を振り上げ、俺に襲い掛かってくるが、俺はその右手すら軽がると切りつけ、ぼとりと右腕も地面に落ち、血が噴き出て、今度こそ再起不能となる。俺は顔についた血を拭いながら叫んだ。
「誰に命令されたんだか知らないけど、おまえらのような雑魚相手にしている暇なんてないよんだよ!!」
「んだとクソガキ!!」
 と俺の言葉に腹を立てて別の盗賊が襲い掛かってくる。俺はかわして更に別の盗賊を切りつけ倒す。すると、空中からキラードールが俺めがけて襲い掛かってくる。
 げっ!!向こうはこっちの動き計算してたのか?!
 俺は咄嗟に結界呪文を唱え、ガードするが、これは単なる一時凌ぎでしかない。相手は殺人人形(キラードール)。次は強力な術を使って襲ってくるはずだ。
 俺はそう考えつつ、結界をすぐさま解除し、宙に逃げる。すると、その殺人人形も俺を追って飛び込んでくる。しかも、目が凄く気持ち悪く笑ってるんだ。
 間に合うか?!
 俺はとりあえず場しのぎのつもりで、短時間の呪文を唱えたが、向こうの動きの方が速かった。右手の爪が伸び、まるで針のようにとがり物凄い勢いで俺に襲い掛かってくる。俺は刀を使って何とかそれを受け止めたが、力は向こうが強い。両手で抑えているのにもかかわらず、どんどん爪が近づいてくる。
 このままだと力に負けて地面に叩きつけられてやられる!!
 俺は抑えている刀を右に引倒し、よろめいた殺人人形の頭を引っ掴み、奴の腹に向かって蹴りをかまし、地面に叩きつけると、その殺人人形は頭が叩き割れ、切り口からコードやチップなどが出てきて、関節とかも衝撃で切れ、コードがはみ出ているし、体のあちこちから電撃が走っている。
 おっしゃ!!一体撃破!!
 俺はそのまま次の敵に向かって攻撃を開始するが、それを行う前にご丁寧に向こうから襲い掛かってきたのである。
「がぁっ!!」
 と勢いよく盗賊の親分らしき図体がデカイ男が襲いかかってきた。俺はひらりと攻撃をかわし、よろめいたそいつに向かって人差し指を手前に動かし、口笛を吹いて挑発する。すると、案の定その挑発に引っかかってその男の冷静さがなくなり、顔が真っ赤になり猪の如く突進してきて襲いかかってくる。俺はそのまま横に避けるつもりだったのだが、触手のようなものが後ろから俺の首に巻きつく。
「ぐえっ?!」
 いきなりのことなので、さすがの俺も慌てた。しかし、俺の首に巻きついているものを見てみると、それは触手ではなく、コードだった。そのコードを辿って後ろを見てみるとさっき俺が倒した殺人人形から伸びているものだった。
「へっへっへっ!!形勢逆転だなぁぁっ!!」
 そう言いながら俺の前でリモコンをちらかせる男。それと同時に巻きついているコードもどんどん締まるのがきつくなる。
 そうか。これは殺人人形じゃない。ただ殺人人形を似せて作った操り人形(マリオネット)だ!!
「じゃあなっ!!」
 男はそう言って大刀を振り上げ、俺に切りかかるが、俺はそいつの胸板を足場にして、顎を蹴り上げ、それと共に宙に舞い、緩まったコードを刀で切るつけ着地した。そして、顎を抑え苦しむ男の前に落ちたリモコンに近づき思いっきり踏み壊すと、その場にいた人形達は機能を停止し、まるで紐で操る操り人形の如く、関節がかくかくと曲がり倒れる。これで動ける盗賊は目の前にいるこいつのみ。
 俺はそいつに近づき、刀の刃を喉元に突きつけると、男は観念したのか、両手を上げて降伏の合図を送った。だけど、そんなんで見過ごす魔法騎士ではない。俺はそいつを縄で木に貼り付け、刑部省に連絡して検非違使の派遣を依頼したのである。
「さて、こいつらもやらなくちゃなぁ…」
 と北都は溜め息混じりで言うと、近くに転がる雑魚を引き上げた。
「おまえ…外見子供のくせに残忍だよなぁ……」
「うるせー。襲ってきたそっちが悪い!それに、俺は殺してないもんね。そーゆー北都だって雑魚を殺してるじゃん」
 そうなのだ。北都は襲い掛かってきた雑魚を炎や刀で何人も殺している。その証拠に何体か原型を留めないほど真っ黒焦げになって転がっているのだ。
「しょうがないじゃん。正当防衛なんだから…」
「まあそれはさておき。今は肝心の遺跡を探す方が先決はありません?」
 と言い合う俺達に木の上にちょんっと座り、割って入る珠喬に俺達は目が点になった。
 おいおい…。それはさておきで片付けるなよ……。
「ほら…。そんなにいがみ合うから水の精霊たちもすっかり怯えてしまってますよ」
 と微笑んで言うんだよね。
 この人には逆らってはいけないと体がシグナルを出す。この人は只者じゃない。だって俺達が戦っている中ああいうふうに木の上に座っては呪文を唱えて攻撃していた。恐らく魔導士…もしくは魔法騎士のどっちか。女房というのは名目で隠れ宮廷魔導士あたりだろう。
 そう思っていると、珠喬は何かをひらめいたらしく、手をぽんっと打って爽やかな笑顔で言った。
「そうですわ。ちょうど湖もあることですし、水の精霊さんに尋ねてみませんか?」
「え?尋ねてるって何を??」
「もちろん。遺跡のことですわ」
 と自信満々言う珠喬。そして、俺達が有無を言わない間に颯爽と湖に近づき、靴を脱いで湖の水面を歩いていったのである。彼女が普通の人間なら術を使わない限り歩けない水の上を術ナシで歩けるのは水の精霊の長である水竜王だからであろう。
 あの人はこれから一体何をするつもりなんだ??
 俺達は彼女の目論見を掴めぬままその光景をただ黙って見ていたのだが―――
「あ〜あ。ご主人サマったらまたやってるよ……」
『?!』
 聞きなれない少年の言葉に俺達は固まった。そして、ゆっくり横に向いてみると、そこには俺より小さい少年が頭の上で手を組んで溜め息をついてた。そいつは黒髪のショートでぼさぼさ。赤い瞳で、服は動きやすく作られたチャイナ服を着ていた。
「…………誰?」
 俺は思わずその子に声をかけると、その子は肩をすくませて答えた。
「俺は庵咒(あんじゅ)。あそこで踊っている水竜王の配下の守人。初めまして、天竜王サマ、火竜王サマ」
「はぁ……」
「そんでもって俺は守人の中で最年長なんでそこのところヨロシク」
 とマイペースに言ってく庵咒に俺達はただぽかんとしていることぐらいしかできなかった。そんななか珠喬は一人黙々と水面で踊っている。それが何か懐かしくて優しい舞。彼女が舞う中水の精霊たちも加勢して水飛沫が舞い上がる。
「あ……」
 珠喬はふと何かに気がついて踊りを突然やめた。すると、横で庵咒が「げっ!」と呟いたのである。
「どうしたんだ?珠喬」
 理由がわからない北都は珠喬に尋ねるが、答える気配ナシ。一方庵咒は顔が強張り、冷や汗をだらだらとかいている。
「庵咒までどうしたの?そんなに汗をかくなんて…。別にそんなに暑くないだろ?」
「……ヤバイ」
 と尋ねる俺に対して声を押し殺してぼそりと呟く庵咒。
「?一体どうし………」
 ごごごごごごごごごごっ!!
 と俺の言葉を遮って湖を中心に突然地響きが起きる。
 この揺れはかなりデカイ!!
「ヤバイヤバイヤバイ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
 とこの地響きで更に顔が引きつる。
「一体何がヤバイんだよ?!」
 俺は庵咒の襟首を引っ掴み、強引に尋ねると庵咒は強張った表情のまま言った。
「湖の主を怒らせた〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
『なにぃぃぃぃぃぃぃっ?!』

 

   続く→

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