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六 |
| 「ご主人サマここの湖の主を怒らせたぁ〜〜〜〜〜!!」 『なにぃぃぃぃぃぃぃぃっ?!』 庵咒の言葉に俺達は叫び、湖を見た。すると、湖の水はまるで噴火する火山のマグマのようにぼこぼこと泡を吹いている。 「どーして主の怒りに触れたんだよ?!」 「あの舞に怒ったみたい〜〜〜〜〜!!」 俺の質問に庵咒は泣きながら答えた。 「なんでそんな物を踊るんだよ?!」 俺が質問を投げかけるより早く水が噴出し、そこから俺の身長の数倍も背丈がある薄水色の鱗に蒼い瞳、白銀の二本の角という特徴をもった水竜が出てきた。俺達はその竜にただ呆然と見つめていると、水竜は出てくるなり雄叫びを俺達に轟かせる。 「……あ〜あ。怒っちゃってるぅ……」 と庵咒は絶望しながら言った。 「誰ダ。我ガ眠リヲ妨ゲタノハ……」 『こいつですっ!!』 「あ。三人ともずるいっ!!」 と俺達は珠喬を指して力いっぱい込めて言うと、珠喬は焦るが、水竜は珠喬をじろりと睨みつけ顔を近づけて鼻息を荒くして言った。 「ヨクモ我ガ眠リを妨ゲタナ…!!イイ度胸ヲシテイルデハナイカ!!」 「あはははは……えへっ♪こんなプリティーな私がするわけないじゃないですかぁ……」 と笑って誤魔化す珠喬。 相手は気性が荒い水竜なんだぞ。それで通用すると思ったら…… 「ホウ……。ヤハリソウカ……」 と言って俺たちの方に矛先変えるし!! 「ヨクモ我ガ眠リを妨ゲタナ!!」 そう言って俺達に襲い掛かってくるしぃ〜〜!! 「珠喬の卑怯者ぉ〜〜!!こっちに回すなぁぁぁぁぁっ!!」 逃げながら叫ぶが向こうには届かないし、水竜の攻撃の突進が構わずやってくる。おかげで木が薙ぎ倒され鳥が逃げ始める。 「だぁ〜!!これじゃあ森林破壊になっちまう!こっちの話も聞けって!!」 そう叫びながら俺は庵咒を抱えて宙を飛ぶ。 「あ。おまえ人を置いてくなんてヒドイっ!!」 と遅れて北都も宙に飛ぶ。すると、行き先を失った水竜はそのまま目の前にあった岩に頭から突っ込んだ。 「オノレ小癪ナ真似ヲ!!」 頭から血を少し流し、俺達に睨みつける水竜。 「だぁ〜っ!!俺達の話を聞けって!!俺達はただあいつの舞を見てた見学者だっつーの!!」 「ナッ?!」 俺の言葉に水竜は驚愕の声をあげ、攻撃を止めた。 「デハ誰ガ我ガ眠リヲ妨ゲタ??」 「だからそこにいる女の人だって」 「アノヨウナカ弱い少女ガ我ヲ怒ラス舞ナドデキルハズナイダロウ……」 「いんや。ちゃんとできるよ。なんたって水竜王だもんね」 「ナニ?!水竜王ダト?!」 水竜王という言葉に反応して水竜は急に身を縮める。 「マサカモウ王ガ目覚メタノカ……?」 「うん。もう三人も目覚めたよ」 「ソウカ……。先代ノ王ガ滅ビテカラモウ200年モ経ッタノダナ……」 と感傷に浸り始めちゃった水竜。 「オ主モマタ竜王カ?」 「うん。一応天竜王の生まれ変わり。そっちは火竜王の生まれ変わりだよ」 「ナント…。イッペンニ三人モ会ウトハ……。先程ハ竜王トハ露知ラズ失礼シタ……」 そう言って水竜は長い首を下げて謝ったのである。 「いいよ。あの踊りがまさかおまえの怒りに触れたとは思わなかったんだから…。ねえあの踊りは一体なんなんだ?」 「アノ踊リハ水ノ精霊ヲ呼ビ集メ情報ヲ聴クト共ニ竜ニ喧嘩ヲ売ル踊リ……」 『………………………………』 水竜の答えに俺達は無言で冷たい視線を珠喬に向ける。すると、珠喬は知らなかったとばかりぽりぽりと頬を掻いて誤魔化していた。 「天竜王ニコンナニモ早ク会エルトハ思イモヨラナカッタ。先代ノ王カラ預カッタ物ガアル…ツイテコイ」 そう言うと、水竜は湖の中に入っていった。 もしかして…この湖の中に入れと?? 俺と北都は不安げに顔を見合わせるが、仕方なく潜水用の呪文を唱え水の中へ入っていく。一方珠喬のほうは水の王様だけに術を唱えなくてもちゃんと呼吸ができるというから便利だよなぁ〜…。 「コッチダ……」 水竜は首を振り、俺達をある遺跡に案内し、中に入るよう促す。俺達は素直に従い、その中に入っていくと、その遺跡の中は空気が充満していて術ナシでも呼吸ができるのだ。それに気づいた俺達はすぐさま術を解いた。 「うひゃ〜…湖の底にこんな遺跡があったなんて知らなかったよ!!」 俺は遺跡をぐるりと見渡し、感嘆の声をあげた。 この遺跡は恐らく竜神人が造った遺跡。しかし、それにしては今まで見たことがない神殿のような造りになっている。 るぉぉぉぉぉぉんっ!! 突然水竜が雄叫びをあげると、眩い光に包まれ、その光はどんどん小さくなり、なんと白銀のショートをオールバックにした髪で年は10代後半ぐらいの雰囲気をした人間に変形したのである。 驚きのあまり俺達は声にならずただその光景を黙って見ていた。 「ふぅ…やれやれ………」 とその人は深い溜め息をついて自分の姿を確認している。その人がまとう服は髪形に合うよなさっぱりとした動きやすい服。しかも、時代を合わせているかのように俺達のような若者が着る服だ。 「これのほうが動きやすかろう?」 「そうかもしれないケドなんでまたそんな格好を……??」 「ん?年に合わせたつもりなのだが?」 「え?!一体あんたいくつなの?!」 とさらりと言う水竜に俺は驚きつつ質問すると、水竜はちょっとムッとしながら俺に視線を合わせるように顔を近づけて言った。 「俺はこれでも1800年生きているんだぞ!人間の年に変えれればまだ子供じゃ!!」 「はい??まだ子供って充分大人に見えるんですけど……」 「あ。そっか。竜と人間の年感覚違うモンね」 と思い出したかのように北都は言った。それを聞いて水竜もうんうんっと頷いたのである。 「洸琉。竜族は俺達人間とは生きている幅が広い。俺達が一年と思うのは向こうにとっちゃ一日に等しい。竜族は人の年で考えると100年で年を一つとる。つまり、この水竜は竜族の年齢からしてみれば18歳ってことでまだ成人してないことになるわけ」 「ふぅ〜ん…。竜族って長生きなんだね〜…」 「人間が短すぎるのだ」 と北都の説明を受け俺が納得している横で水竜は腕を組んで文句を言う。そして、俺に指を指して更に言った。 「それと俺は『おまえ』でも『水竜』でもないゾ。俺には『レスカ』という名がある!!ちゃんと名前で呼べ!!」 「呼べと言われてもねぇ…。自己紹介されてないし……」 「う……っ」 と俺のツッコミにレスカは言葉を失ったが、一つ咳払いをしてすぐに話を切り替えた。 「とにかく…これから天竜王に渡す物がある。ついてこい!!」 そう言って俺の腕を掴み他の三人を置いてずかずかと奥に進んでいく。 「ちょ…ちょっと渡す物ってどこにあるのさ?!」 「試練の間にある」 「試練の間?」 俺はレスカの言葉にオウム返しに尋ねるが、レスカは答えてくれず、ただ話を続けるだけだった。 「先代の天竜王はそれは素晴らしい人だった。まさに生き神と相応しいお方だ。だが、それは長くは続かず魔族に殺された。死ぬ間際俺にあるものを預けたんだ」 「あるものって?それが預かり物なの?中身は一体何?」 「天竜王の預かり物。それは俺すら見たことがない」 「なっ?!見たことがないぃ?!じゃあどうやって渡すんだよ?!」 「安心しろ。安置した部屋まではきちんと案内する」 「そう言われてもねぇ……」 そう言っている間にも俺達はどんどん奥へと進んでいく。ヨーロッパ調の赤い絨毯がどこまでも続き、壁には明かりが灯されている。出口が見えないということはかなり長い通路だろう。その中を歩いているとふと気がついた。 「あれ?この遺跡どっかで見たことがある……」 「そうか。やはり全ての天竜王の意思を継いでいるのだな」 「だぶん…。記憶が流れてきたときに見えた」 そうなのだ。この遺跡の中の風景は継承した記憶の一遍に出てきた。見たこともない男性が大きな広間に立っていて躊躇いながら祭壇を見つめていたんだ。そしたらな手にもっているものをその祭壇に置いて去ってた。その持っている物は確か……。 「着いたぞ」 思い出そうとしているとレスカが止まった。そこは大きな扉が待ち構えていた。 「ここって…」 「この扉を開ければ試練の間だ」 そう言ってレスカは手を扉にかざすと、扉は勝手に開いたのである。 「入れ」 「う…うん……」 俺はレスカに促されて戸惑いながらも言われた通り億の部屋に入っていった。奥の部屋はやはりあの記憶の映像どおりのヨーロッパ調の大きな広間で、更に奥に祭壇があった。 「……やっぱこの部屋見たことがある。記憶の中にあった。先代の記憶も受け継いだことになるのかな?」 「そうかもしれない。竜王たちが生まれたのは3億年前と遺跡には記されている。竜王は肉体が死しても尚この世界を心配して下っている。そのご意志が人に乗り移っているのだからその乗り移った人の記憶もまた共に継承されるのだろう」 「やっぱりそうなるのかな…」 「人の思いは強くて儚い…。残したいと願いのが普通だろう」 「ふぅん。そんなものなのかな?」 「おまえはまだ子供だ。大人の考えなど理解できまい」 「むっ。何それぇ〜?!考えはちっとは大人だよ!!」 レスカの言葉にちょっとムッとなり、反論するが、レスカはけたけたと笑って更に言い返した。 「そういうところがまだ子供だというのだ。子供のうちはまだいい。大人になれば理解したくないこと、辛くて嫌な出来事が嫌というほど味わう羽目になる。だから今のうちに子供にできることを精一杯楽しめ」 「そう言われると、妙に納得できるんだけど……」 「ははははは…。なんせ俺はおまえより長生きだからなぁ……。この湖にそーゆー願いを請うものが多かったからな…」 「へ?この湖ってなんかご利益あるの?」 「……おまえ。そんなことも知らないでこの湖に近づいたのか?」 とレスカは俺の言葉に半分呆れながら尋ねるが、俺は素直に頷くとがくっと脱力し、ご丁寧にここの湖のことを説明し始めた。 「…昔身分が違った者同士が恋に落ちた。そして叶わぬと思っていても願わずにいられない。恋した女がこの湖のすぐ傍にある神像の前で毎日のように来ては『あの人と結ばれますように』と願い請った。しかし、突然隣国との戦争に見舞われて二人は離れ離れになってしまった。それでも女は願い続けた。すると、戦争がはじまってから数年経ってこちらの国の勝利と終わり、恋人は帰ってきた。そして、願いどおり二人は結ばれた―――と。それからというものここにいる湖の精霊が二人を結んだということで恋人達にとっちゃ縁結びの神様もしくは願いを叶えることができる場所扱いされているのさ」 「はぁ〜…変な具合に神様なのね……」 「そうだな。いつもはぎゃいぎゃい騒がしいくらい五月蝿いが、今日はやけに静かでぐっすり眠れると寝ていたらおまえらに叩きおおされたというわけさ」 「あれは何度も言うように俺じゃなくて水竜王のせいだからね」 「分かっている。それよりあの祭壇に行け。あそこに先代の預かり物がある」 俺はレスカに言われたとおり祭壇に近づくと、そこには小さく水晶みたいな物が安置されていた。それはぽうっとほのかな光を発していた。俺はそれに触れるとその石の光は失われ、ぽろりと落ちて俺の手の中に収まった。しかし、それを良く見てみて眉をひそめた。 「ペンダント?」 そうなのだ。水晶だけだと思っていたのだが、俺の手の中に収まっているのは水晶の周りにプラチナで縁取られ、同じ材質のネックチェーンがつけられいた。そして、俺の手に収まってから水晶はどんどん色が変わり、鮮やかな薄い青になった。 「これが……先代の預かり物?……わあっ?!」 急に石が光りだし、俺は思わず目をつぶった。目を再び開けたときにはまるで別世界だった。俺が戸惑っていると、天竜王とそっくりな人が現れて悲しそうに笑って言った。 「私の次に天竜王の意思を受け継いだ者よ……。私の願いを叶えておくれ。叶えたときには私の愚考を許しておくれ…。でも嘆かないでおくれ……。でも怒らないでおくれ……。私とて、元は人だから……。夢を見ずにられない……」 その人はそう言うと、再び光に包まれたときには元の場所に戻っていた。 「あ…あれ……???」 「どうした?ぼーっとして」 「あれ?レスカ???」 と俺は状況がいまいち掴めなかった。さっきの人はどこに行ったんだろうときょろきょろと辺りを探すが、そこにはレスカ以外誰もいなかった。 「どうしたのだ?」 「さっきここに人がいなかった??」 「人?いや、ここには俺とおまえしかいないが?」 「そうなの?さっきこれが光ってそしたら男の人が悲しそうに『私の願いを叶えてくれ。叶えたときは私の愚考を許して欲しい』って言ったんだ」 「そうなのか?俺にはただおまえがぼーっと突っ立っているようにしか見えなかったのだが? もしかしたら、それが先代の預かり物かもしれぬ。先代は確か叶わない願いがあったと仰っていた。もしやそれを示しているのではないか?」 「ねえ。その叶わない願い事覚えてる?!」 俺はレスカの言葉に詰め寄った。すると、レスカは少々戸惑いながらも答えた。 「確か『真実の都に埋め込まれた自分の…』とか言っていたような……」 「『自分の……』?そっから先は??」 「いやなにせ200年も前のことだし、あんまり覚えてないなぁ〜…」 「あほかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 ぼげきょっ!! 「うげっ?!」 レスカの一言に俺は容赦なくレスカの頭に飛び蹴りのツッコミを入れた。 「なんで肝心なところを覚えてないのかなぁ〜!!それでもこの預かり物を守っていた番人(?)なの?!」 「………かたじけない」 と素直に謝るレスカ。 「こうなったら都全てを探そうな。それだったらなんかしら手がかりも掴めるかもしれないし、俺の記憶も思い出すかもしれないし…。ね♪」 「『ね♪』じゃない!!それこそ今日中に探せるのかよ?!」 「それはこれからの努力次第だな」 だぁぁぁぁっ!!肝心な部分を忘れて一から探すことになるなんてぇぇぇぇぇぇぇ〜!! 一体これからどうするつもりなんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! |
| 続く→ |