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七 |
| 「どう?思い出した?」 俺は溜め息混じりレスカに尋ねたが、レスカは首を横に振るだけだった。 さてこの質問は果たして何回目なのだろう? 数えるのが失せてくるぐらい言っているぐらいしか今の段階では分からない。 レスカが肝心な部分を忘れてくれたおかげで俺達はレスカを引きずって真実の都の中や周辺を探しまくるハメになった。もちろん、都の中に入ったら正体がバレるので、入ったら全員鼻近くまで隠れるフードをかぶって走り回る。俺達は都の周辺にある遺跡を全て訪れたが、全てハズレ。都の中にあるわずかな建物も殆ど壊滅状態だった。そして、最後に都の出口横にある最も古い建物にダメもとで再度レスカに尋ねてみたのだが、結果は無惨にハズレだったので、期待に期待していた俺達は揃って脱力したのだった。 「ここもダメか〜…。もう探すところってないよぉ〜…」 俺は地面に座り込んで諦めていると、続けて珠喬も座り込んでしまった。 「そうですね…。もしかして竜王の神託はデマだったのでしょうか?」 「馬鹿言うな!!竜王がデマなど流すわけないだろう!!この地形が悪いのだ!!」 そう珠喬の言葉に切れたのはお忘れん坊君のレスカだった。その言葉に珠喬は溜め息交じりで言い返した。 「地形が悪いって、ここって遺跡をそのまま使ってるんですよ?そのままのはずなのだからデマと思うしかありませんわ」 「いや…まだ一つ手かがり候補が残ってるぞ」 『は?』 と言い合う俺達の間に割って入るかのように北都のぽそっと言うと、俺達は動きを止めて北都を見た。北都はこくんと頷き俺達に尋ねた。 「この都は何を中心にして動いている?」 「へ?そりゃあ都の中心には竜王を奉った寺院の総本山があるけど…」 「その総本山…調べたっけ?」 『……調べてない』 「だろ?あそこ中は結構秘密も多いんだ。僧官すら入ることを許されない部屋すらあるほど中は広い」 「北都。やけに内部のこと詳しいね……」 「そりゃぁ伊達に竜王やってないからね〜。この中で一番の年長さんだし、以前偵察できたこともあるし…」 「はぁ?!偵察?!なんで?!」 「いや…だから……以前納税が足りないことがあったらしくて本来大蔵省が動く立場なんだけど、もしかしたら所得税を隠し持っている場合もあるってことでさ……。刑部省の精鋭部隊が陰で動くことになったんだよ。そのとき俺もその精鋭部隊の中に入っていて何かと動いていたんだよ。もっともそれはおまえが知っていることではないけどね……」 俺は北都の言葉に驚いて、襟首を掴んで問い詰めると、北都は少々苦しそうな表情で答えた。 「ってことはある程度内部のことはご存知ということですね」 「トラップは分かる。部屋の方はあやふやだけどね…。ただ肝心な竜王の部屋っていうのは確か地下だったはず…」 俺の手を外し北都はウインクをしながら言った。その言葉に俺は眉をひそめ、オウム返しで聞き返した。 「地下??」 「そうですわ。確か竜王の部屋は地下にございましたわ!!そこに入れるのは竜王と老師のみですわ…」 と珠喬は思い出したかのように手を打ち明るい声で言った。 「ということは真正面から入らなきゃダメってこと?」 「そうでもないよ〜」 と俺の質問に北都はあっさり否定する。 「寺院は何かしら隠してるのは確かだから真正面に行くより裏から回っていった方が情報は確実だよ。と言っても隠しているといえばアレしかないけどね」 『アレ?』 北都の言葉に俺達は眉をひそめた。 「そ。アレ。って言って分かるわけないか。レスカは分かるんじゃないの?」 「ああ。『戦争』だな」 「ご名答」 「戦争を隠しているってどういうことさ?」 と俺が尋ねると北都の変わりにレスカが答えた。 「戦争を隠しているというのはな、500年前にあった『神魔(しんま)戦争』と先代の天竜王が死ぬ原因となった200年前の『紅武(こうぶ)戦争』の二つだ。 その戦争は両方とも俺も参加していたのだが、神魔のほうは謎というか残された本には明らかに隠蔽された形跡があったんだ。隠蔽されたのは戦争の原因。そもそもの戦争が勃発した最大の原因は国と国との意見摩擦と貿易摩擦。そして魔族の長が片方の国に協力と竜王さえもその国とは別の国二つに二手に分かれて戦ったことだった。なのに、戦争の記述されたことは魔族と竜王の衝突となり、参加したのも魔族と竜族と神族のみしか書かれていなかったんだよ」 「え?!国同士の衝突なのに神と悪魔の戦いになっちゃったの?!」 と俺が驚いていると、レスカは溜め息をついて言った。 「そうだよ。だから『神魔戦争』って呼ばれているんじゃないか。由来すら知らないってことはその衝突しあった国すら知らないってことになるな」 「そうなるね」 「じゃあついでに教えてやるよ。そのぶつかり合った三国を。天竜王と水竜王、水竜族と火竜族と闇竜族と黄金竜族が協力したのが、おまえの父が治める現在でも最大級の軍事力と財政力を誇る神威(かむい)大帝国。もう一つは地竜王と火竜王、地竜族が協力し、今は神威大帝国と貿易関係にあるレギールング共和国。そして魔族が協力された国は450年前にある事故で滅亡したフィルドルフィ王国の三つだ。帝国軍と共和国軍と同盟を組み魔族を打ち滅ぼし、そのあとこの二つがぶつかり合い、帝国軍の圧勝勝利に収まった。だが、残された本にはそんなことも書かれていなかった。それは共和国の方も同じ。まるで計画されていたかのように隠されていたんだ」 「ザリア王国やクルスウェイ連邦の歴史にすら?」 「そうだ。どの国の歴史書には隠蔽された出来事しか書かれていない。フィルドルフィ王国の滅亡の仕方も嘘だしな」 「へ?嘘?フィルドルフィ王国って確か疫病で滅んだんじゃ…」 「違うって。フィルドルフィ王国は実験に失敗して滅んだんだ」 「実験?何の実験?」 「あ。それ俺も知らない」 と北都も俺の質問に便乗する。すると、レスカは一つ咳払いをして話してくれた。 「今でもその実験は禁術とされている不老不死の実験だよ。 王が不老不死という欲望に目がくらみ後先考えずに国民を実験台に使った。確か自分の王妃や子供も実験台に使ったという話だ。それが原因になり、国民は蜂起。滅亡する結果となったのさ。 おまえも分かるよな。不老不死の実験で成功しているか成功していないか手っ取り早く知る方法を…」 「被験者に致命傷を与えることでしょ?」 「そうだ。国民全てにその術をかけたおかげで国中どこを見ても死体だらけだ。王が自ら出向き、それらしそうな者を次々に通りすがり切っていく。まさに殺戮の世界を再現したかのように国の建物全てに血塗れさ」 『うげ……』 レスカの話を聞いて俺達はその光景を想像してしまい、吐き気がした。 「そしてもう一方の紅武戦争も似たような感じだったがな」 「え?!紅武戦争って竜王のと勝手に名乗った男を筆頭にした蜂起じゃないの?」 俺が言うと、レスカも北都も目が点になった。そして、ふと我に返ったレスカは肩をすくめて言った。 「ダメだこりゃ…。完璧偽の歴史に染まってるな…。 紅武戦争はそもそも火竜族とレギールング共和国とのいがみ合いだよ。それなのに歴史書のほうは火竜族と水竜族との喧嘩みたいなことを書かれて!!確かに火竜と水竜は属性が正反対だけに仲が悪いさ! だけどな、この戦争のときは協力してやったんだぞぉ!!それになぁだいたいあいつらはなぁみょうちくりんに熱血馬鹿なんだぁ!!」 と途中からレスカの愚痴が入ってしまったので、俺達は宥めたが、治まる気配せず…。 「人間と竜族が戦うのなんて最初から馬鹿げてるんだ!!それなのに人間は領地拡大だの、配下に付けだの自分達の都合のいいようにしようとしてるんだし!!それに心を痛めた天竜王が前に出て呼びかけたら今度は反逆者扱いだぜ!!矢を放たれてかなりの致命傷となってさぁ…俺に…俺に…遺言だっていったんだよぉぉ〜!!」 と最初は怒り爆発モードだったのに、天竜王の話になってから一気に泣き上戸へ。面白い奴……。 「まあまあ、レスカ。思い出に浸るのはそこらへんにしておいてさ…。そのあとその戦いはどうなったの?」 「う…っう…っ。そのあとは……竜族が勝った。ただし、戦場が共和国内だっただけに共和国側の犠牲者は数知れず、まあそれに便乗して暗殺とかも数多くあったみたいだけど…死者の流す血で国の中は血の海さ」 「へー…。真実の歴史にはそんなことがあったんだ。でも、なんでまた国中揃ってその歴史を隠蔽なんかしたんだろう…?」 と俺達は歴史の隠蔽ということに道路のど真ん中で首を傾げた。そして、珠喬が思い切ったように言った。 「行きましょう」 「行くってどこに?」 「もちろん、寺院の地下に潜入ですわ。隠蔽の事実の真相と先代の天竜王様のお願い事を叶えに行きましょう!」 「やっぱそうなるのね…」 と俺は思いっきり脱力した。 はてさて一体どうなることやら……。 竜王の教えを守り、竜王の魂を授かった人間を生き神と崇める宗派をアニマと呼ぶ。他国にある言葉で“霊魂”という意味がある。名づけた者は竜王の御魂が未来永劫存在するようにと願いを込めてつけたらしい。 俺達が住んでいる国の殆どの民がこの宗派に属しており、国の守り神とも扱われているほど浸透されている宗派である。他にも流派は一応あるが、だいたいが最後がアニマと繋がっているため、殆ど同じとも言っても可笑しくない。 そのアニマの寺院の総本山ヴェーリタース寺院。総本山だけど、表向きは自由に入ることができるが、裏では僧兵や罠などきっちり配備して厳重な警戒態勢になっている。その中に俺達は進入することになった。俺は普段着に戻り、北都や珠喬もまた俺と似たような服を着替えた。そして、レスカはそのまま。寺院の中に潜り込むのは簡単だった。だって、参拝している人に混じって中に入るだけだしね。そして、そのあとが問題。僧兵の目を盗んで、北都が案内する抜け道を通って奥に進む。それが結構骨が折れる作業で、それが成功するまで結構時間がかかった。それでもなんとか奥に入り、地下に通じるリフターに乗り、地下へと移動した。すると、地下はさすがに警備が薄かった。どうやら地下への行く間の警備だけが厳しく、地下は手薄らしいな。そりゃ竜王しか行けない部屋とかもあるし薄くなってもしょうがないよなぁ〜…。 「こっちだ」 しみじみ思っていると北都が案内し、俺達はついていく。そして入った部屋には竜王を象ったレリーフが正面の壁に飾られ、目の前には眩い宝珠が二つあった。 「あれは?」 「あれは竜王が代々受け継いだ武器が入っている宝珠なんだって。武器と言っても力が増幅されるだけだけど…。あれはまだ取らなくていい…。あれを取ったら大騒動になるからな」 「ふぅん」 「この部屋には用がないな。じゃあ次の部屋に行こうか」 と流してさっさと部屋から出て次の部屋に入るが、そこの部屋は本人にとってみれば初めて入るような部屋だった。 「北都どうしたの?」 「あれ?こんな部屋なんてあったっけ???」 と北都は驚きながら首を傾げる。 その部屋は大体8畳ほどの広さで天井がとても高く、部屋の中心には宝珠が淡い黄色で輝いていた。明かりがうっすらしかついていないので、何があるのかさっぱり分からない。 「他の部屋は明々としているのになんでこの部屋だけ暗いんだ?」 「じゃあちょっと明かりでもつけてみる?」 「そうだな」 そう言って俺と北都は呪文を唱えた。 『明かりよ!!』 ぽう…… 俺達によって生み出された明かりは二つ。二つとも赤ちゃんの頭ぐらいの大きさである。しかし、それよりもその明かりによって灯された部屋を見て俺達は驚愕したのである。 「な……っ?!」 驚きのあまり北都は後ろに数歩後退する。 俺だって驚いたさ。なんせ全ての壁に人間が埋め込まれているんだもの。それも一体だけじゃない。無数に折り重なるように埋め込まれ、顔すら見れない。それは天井にもされていて怖いの一言。 「一体これは何なんだ?!」 「人……だよね?なんでこんなところに無数にも埋め込まれているんだろう?」 そう俺達が口々で言っていると、珠喬は何か気づいたらしく、壁に近づくが、それを見るなり、驚愕し、口を抑えて後退する。 「これ………歴代の竜王様たちですわ……」 |
| 続く→ |