「これ……歴代の竜王様たちですわ………」
 その言葉に俺達は言葉を失った。
 歴代の竜王が何故壁に埋め込まれているんだ?
「嘘……だろ?」
「嘘ではありませんわ!!そこをよくご覧くださいな!!天竜王の御神体像って書いてございますのよ!!」
 と半分涙目になりながら珠喬は正面の壁を指した。そこにはプレートがはまっていて、確かに“天竜王の御神体像”と書かれている。よく見渡すと入り口には“地竜王の御神体像”、入って右は“水竜王の御神体像”、左は“火竜王の御神体像”と書かれていたのである。
「これは一体……」
「死んだ後もこうやって寺院に縛り付けられるのか?!」
「違う………」
 と驚愕している俺達にぽそっと呟くレスカ。
「違うって何がだよ?」
「先代の天竜王はこんなこと望んでなんかいない……。死んだ後も寺院に縛られたいとは一つも思ってないよ!!」
「そんなこと言ってもこれが逃れられない事実なんだよ?!竜王たちは死んだあともこうやって肉体を寺院の壁に埋め込まれて縛られいるんだ!!」
 俺は自分自身をも納得させるよう言い方でレスカを説得させようとするが、レスカは拒否するかのように顔をうつむき、必死に首を横に振る。
「違う…!!こんなの竜王が望んだことじゃない!!寺院の連中が勝手にやっただけだ!!そうですよね?!竜王様!!」
 と泣きながら壁に埋め込まれる竜王たちに問い掛けるが、相手はもう魂が抜けた肉塊。答えるわけじゃない。
 俺も人生を全うしたらこんな風に寺院の壁に埋め込まれるのだろうか……。
 そう思いながら壁に触れると、固まっているはずの壁がゼリー状になり、強い力で俺の手が勝手に壁の中に引きずり込まれていく。
「な…?!ちょ……?!」
 俺は驚きのあまり言葉にならない声をあげた。しかし、その間にも俺の手はどんどん壁の中に引きずり込まれていく。ついには右半分が引きずり込まれしまった。
「洸琉!!」
 俺の異変にいち早く気づいた北都は必死に伸ばす俺の左手を掴み引き抜こうとするが、力が強すぎる。もう俺の下半身は壁の中。
「助けて……!!」
 俺は必死に足掻くが、力を緩ませる気配はない。北都に続いて珠喬やレスカ、そして守人三人も出てきて総出で引き抜こうとするが抜けない。
「痛い〜!!」
 と双方の引っ張る力が強くて俺は思わず悲鳴をあげる。その反射で北都は手を離していまい、他のみんなは後ろに吹っ飛び、俺はそのまま壁の中に引きずり込まれたのだった。


「はれれ??」
 気がつくと俺は天竜王と初めて会ったときと同じような場所に寝転がっていた。慌てて起きてみると、俺の周りに無数の光の球が漂っている。
 これは…ここは一体どこだろう……??
「ここは…異界よ」
 と俺の横にいつのまにか女の人が立っていたので、俺はしばし硬直。
 は??
「はぁぁぁぁぁぁぁっ?!」
 と驚きのあまりそのまま後ろに後ずさり。すると、その女の人はけたけたと腹を抱えて笑っていた。
「あはははははっ!!今回の子は今までの中で一番面白い反応だわ!!あはははははっ!!」
「あははははって、あんた誰だよ?!」
 と我に帰り、いつも通りのツッコミを入れると、その人もようやく笑いをやめるが、目には笑いすぎて涙を浮かべていた。
「あはは…。悪かった。初めまして、新米天竜王君。私は四代前の天竜王よ」
「……………は?」
 と俺は彼女の言葉に目が点になった。
 よ…四代前の天竜王……?
「だから、四代前の天竜王よ!!つまりあなたの先輩!!あなたが竜子(りゅうご)の部屋に入ったときにいち早く気づいてこっちの世界に呼んだのよ」
「ってことは、さっき引きずり込んだのはあんた?!」
「あんた呼ばわりしないでちょうだい!一応先輩なんだから敬語を使う!!
 そうよ。私が無理に引きずり込んでこっちの世界に呼び込んだの。それにさっきの部屋びっくりしたでしょう?」
「うん。凄くビックリした」
「あの部屋は死んだ竜王全ての魂を一つの世界に留まらせるための術が施されているのよ。私も最初こっそりあの部屋忍び込んであの光景をを見たときは腰を抜かしたわ。私も死んだらこのご神体のようになるのかと思ったら怖くなったんだけど、あとで老師に聞いてみたら、あの部屋は本来見せないんだって。見せたらきっと怖がるだろうからって配慮してくださったらしいわよ」
「ふぅん。そうなんだ」
「さっ。そろそろ別の代の天竜王も首を長く待っていらっしゃると思うから行きましょうか」
 と俺に手を差し伸べ行こうと促す四代前の天竜王に俺は素直に従い、手をつないで一緒に向かった。
「ああ。私のことは威輝(いき)と呼んでちょうだい。いい加減四代前天竜王じゃ呼びづらいでしょ。あなたの名前は?」
「洸琉」
「そう。いい名前ね。私にも子供がいればそーゆー名前を付けてあげたかったんだけど…」
「え?どうしていないの?」
 と俺が尋ねると威輝さんはとても悲しそうな笑顔で言った。
「私は…戦争中に死んだから……」
「ええ?!……ごめんなさい。辛いこと思い出させちゃって……」
「いいのよ。子供は分からないことが沢山あるし、今の君は右も左も分からないからしょうがないことよ。私は昔召喚士だったの。だけどそのとき飛び出してきた子供を庇ったらこの様よ」
 と苦笑しながら答える威輝さんに俺は申し訳なさそうに尋ねた。
「……あのさ、召喚士って何?」
「え?!」
 と俺の質問に意外とばかりに驚く威輝さん。
「あなた…召喚士って知らないの?今の世の中にもそんな職業あるでしょう?国の戦力となって戦地の最前列に立って動くのよ」
「それは剣闘士だよ。召喚士って職業は聞いたことがないし、見たことがない」
「そんな……」
 とショックを受ける威輝さん。
 ひょっとして結構前の時代では当たり前の職業だったのかな?召喚士って何を召喚して戦力になるんだろう?
「ね。あなたの職業は?今の年だと魔導士か学生さんかしら?」
「ううん。魔法騎士だよ」
「魔法騎士?」
「うん」
「知らないわ……」
 と考え込んでしまう威輝さん。
 年の差って凄いね。四代前っていってもだいたい800年か1000年くらい前に活躍したんでしょ?それなのに魔法騎士を知らないなんて…。
「魔法騎士ってどんな職業なのかしら?」
「手っ取り早く説明すれば上級魔導士と上級剣闘士を足して2で割ったようなものだよ」
「そうなの?」
「うん。ところで“召喚士”って一体何を召喚するの?」
「一体何を召喚するか…か。話したら結構いいかしら?
 血魔具(けつまぐ)と呼ばれる自分の血を混ぜた絵の具で絵を書き、それを決められた方式にのっとり呪文を唱えるとそれが浮かび上がって戦力になるのよ。それを召喚獣と呼ぶの。一体につき一本の巻物に描かれ、大きさは人の数倍。それだけにそれを実体化するのには一体だけでも、結構時間がかかるけど、出したら出したで結構な戦力になるの。能力も強い価値を出すけど、それよりもっと効果的に示すのはその持っている巻物の数なの。
 ただひたすらに書いててもそれは力にはならない。能力が有無を言うのよ。私もこれでも結構優秀な召喚士だったんだから!!」
 とえっへんと威張る威輝さん。
 へぇ〜…そんな職業が昔はあったんだ。俺も召喚士やってみたかったなぁ…。
「ねぇねぇその召喚士って職業はなくなったけど、今の人間でもできるかなぁ〜?」
「さあ?でも素質があれば誰でも出来ると思うわ。なぁに?やってみたいの??」
「やってみたい!!今度教えてよ!!」
 と俺は目を輝かせて言うと、威輝さんは嬉しそうに言った。
「よぉし、じゃあ話が終わったら早速お姉さんが教えてしんぜよう!!」
「やった〜!!」
 と俺は威輝さんの言葉に本気で喜んだ。
 だって現代では消えた古代の秘術を教えてもらえるなんて嬉しいに決まってるさ!!
「っとそう言っている間に着いたわね」
「え?!」
 俺は威輝さんに言われ、目の前に見ると凄い人が俺のことをじっと見ていた。そりゃもう数え切れない人!!
「これが新しい拠り所か?」
 と一番手前にいた金髪のお兄さんが尋ねると、それが口火となり次々と色んな人が口を開いた。
「なんと…今回もまた子供ではないか……」
「こんな童で御魂が保つのか?」
「天竜王の願いは叶うのか?」
「なんとも哀れな童だ……」
 なになになに?哀れだの、子供だの興味津々の目で言いたい放題言いやがって!!俺は珍獣か?!
「洸琉。そんなに硬くならなくていいわよ。この人たち単に珍しがっているだけだから……」
「威輝よ。我らを愚弄する気か?」
 とフォローに回った威輝さんに向かって一倍最初に口開いた金髪の二十歳ぐらいのお兄さんが睨んできた。すると、威輝さんが強気で言い返した。
「はんっ!!初めて来て右も左も分からない子に哀れだの、叶うのかだの、言ったってしょうがないでしょ?!だいたい私が最初に気づかなかったら、そっちはずぅっと気づかなかったのよ!!だいたいシヴァ!!私より前に生まれてるくせに鈍感なのよ!!」
「そ…それはそうだが……」
 と吠える威輝さんに最初は威勢が良かったシヴァっていう人は威力に負けてたじろく。その後ろで笑う群集。
「そこも笑わない!!」
 と威輝さんが叫ぶと群集はぴたっと止まる。
 ふと思った。この世界の実権を握っているのって威輝さんなのかなぁ〜。
「洸琉。あっちにわんさかいるのは歴代の天竜王を襲名した人達なの。外見は最盛期、もしくは死んだ当時の姿をして出てきているのよ。
 さぁて、新人君の自己紹介といきましょうか!!ね!!300代目の天竜王君♪」
「え?あ…。はいっ。300代目天竜王を襲名しました、洸琉=新羅です。不束者ですがよろしくお願いします」
 と俺は社交辞令の言葉を並べてぺこりんっとお辞儀すると、またもやざわつく。
「なんと…!!あの新羅一門の子か?!」
「魔力に長けた一族。これは何かと期待できる!!」
「しかし、新羅一門は皆琥珀色の髪に翡翠色の瞳のはず。しかし、この童の瞳は王族特有の瑠璃色ぞ!!」
「おぬし本当に新羅一族の者か?!」
 と俺に迫ってくる歴代の天竜王様達。
 確かに新羅一族って特徴的だけどさぁ…。こんなに詰め寄ってこなくてもいいじゃないのさ〜!!
 そう思っていると、シヴァさんがぬおっと他の人以上に顔を近づけてきて俺に尋ねたので、俺はかなり驚いて引いた。シヴァさんの綺麗な金目が鋭く光る。
「一つ尋ねる。おまえの母と父の一族はどこだ?」
「え……。なんでそんなことを聞くんです?」
 と俺は引きつり笑顔で尋ねると、シヴァさんは更に近づき、俺と目線を合わし、じろ〜っと睨みつけたまま言った。
「その瑠璃色の瞳は王族生まれの者しか現れないもの。しかし、新羅一族の人間のはずのおまえが何故その瞳の色をしている?!答えろ!!」
「え……。だって母様は新羅一族だけど、俺の父様は…帝だもん!!」
「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ?!帝だとぉ?!」
「うひゃっ!!」
 といきなりデカイ声を出すシヴァさんに俺は怒られると思い、条件反射で身を縮ませた。しかし、一向に怒られない。すると、シヴァさんはいきなり俺の髪をぐしゃぐしゃと引っ掻き回し、笑いながら言った。
「そうか!!今上帝の皇子か!!ならば納得がいくな!!帝と新羅一族との間の子か!!それは将来が有望だな!!」
 そう言いながらシヴァさんは俺の背中をばしばしと強く叩くのであった。
 一体何が何なの??
 俺は状況が掴めないでいると、威輝さんがこっそり教えてくれた。
「シヴァさんはね、次の天竜王が橘一門だった即座に殺すって言ってたのよ」
「え?なんで?」
「昔、その橘一門に自分の子供だったかな。とにかく親族を殺されたことがあるんですって。だから嫌だったみたいよ。
 でも、良かったわね。皆あなたのことを新しい天竜王の後継ぎとして認めてくれたわよ。
 と言っても元々他のシヴァ以外は殆ど認めかけていたんだけど、それでもやっぱり不安は残るって言ってたから。もちろん、私は最初から賛成派だったけどね!!」
「ありがとうございます……」
「でも、次期の帝となる子が竜王の素質を出すなんて今までの中で初めてなのよ〜」
「そうなの?」
 と俺は小首を傾げながら尋ねると、威輝さんは頷いて言った。
「そうよ。今までの竜王はだいたいが竜族か人間ね。獣人や鳥人とかはいないのよ。器が小さすぎるらしいわ」
「へぇ〜…」
「そうそう。さっき問い詰めてきたシヴァは黄金竜族の長をやっていたんですって!!」
「お話中よろしいか?ご両人……」
 と威輝さんと俺の会話に青年よりも幼い声が割って入ってきた。反射的に声をする方に向いて見ると、そこには俺よりちょっと年上で、白を基調とした上下に薄い緑色の帯を腰に巻き、肩から同じ色の布をかけている。それは上着の裾にもされていて、頭の上には先端部分に金の装飾がされた白い布をかぶり、布の隙間から栗色の前髪が出ている。どうやら今でも残っている寺院に仕えていた僧官だったと思いうかがえる男性が優しい表情で立っていた。
「あの……どちらさま??」
「こちらの世界では初めましてかな。歴代の天竜王の所持品であるペンダントをレスカの案内で受け取ってもらっときに一応会っているんだけどね」
 そう言いながら微笑むその人。
「?もしかして……あのときの?」
 俺がふと思い出し、恐る恐る尋ねると、その人は微笑みながら頷いた。
「ってことは先代の天竜王?!あのときの姿とは全然違うじゃん!!」
「あははは…。いや〜…あのときはこちらとそっちの干渉が上手くいかなくてね。どうやらそちらでは初代天竜王の姿で映ってしまったらしい」
「はぁ……」
 と照れ笑いをする先代の天竜王に俺は呆気に取られた。
 これが先代の天竜王……。あのとき会った姿を思い描いていたからてっきり大人で根がしっかりしている人だと思っていたけど、実際はかなりのちゃらんぽらん。姿だって俺より少し上ぐらいにしか見えないし……。
「ああ。自己紹介がまだだったね。僕は稜(りょう)。生前はヴェーリタース寺院で僧官を務めていました」
「はぁ。初めまして」
「ところでさ、ちょっと君に聞きたいことがあるんだけどいいですか?」
「俺の答えられる範囲であれば……」
「よかった。あのさ、今ヴェーリタース寺院はどうなっているのでしょうか?」
「といいますと?」
「戦争の後どうなったのか気になってね。国は関係なくてもそれなりに戦争の余波は影響はあるから。死んだ者とはいえ死んだ後もそれが気がかりでしてね。
 君もレスカから戦争の話を聞いて僕の経緯も聴いたでしょう?」
「はい。敵将が放った矢に当たったそうですね」
「そうなんですよ。結構自分でも間抜けなことをしたなぁと思ったんだけど、今更悔やんでもしょうがないしね…。ただ寺院の方は気がかりでしょうがないんです。だから今の現状を教えてほしいんです!!」
 と真剣な瞳で訴えてくるので俺はちょっと引きつつも答えた。
「今も寺院は栄えていますよ。ただ寺院が所有する歴史書に疑問を抱いている者が少なからずいますが……」
「そうですか…。やはり疑問を抱く者がいるのですか……」
 と稜さんは顔をうつむきちょっとショックを受けていた。ちょっと申し訳なさそうに俺はそのあとを付け加えた。
「現代の竜王たちも皆そう思っています。歴史を隠蔽するのには訳があるんじゃないかって。今回も単独で動いたんです」
「なんですって?!」
 と稜さんは俺の言葉にさっきのショックを吹き飛ばして驚いた。そして、俺の肩を掴み上下に振りながら迫った。
「どうして?!どうしてそんな危ない行動に出たんですか?!確かに寺院は歴史を隠蔽したかもしれない!!でも、それは民のためを思ってのこと!!どうしてそんな行動に出たんですか〜?!」
「民を思ってやったのであれば尚更真実を公表するべきです!!寺院が隠蔽をすればするほど民の心は寺院から離れていきますよ!!」
 と俺は振られながらもなんとか敬語で言い返したが、稜さんは納得できないと言葉を荒くして言った。
「そうかもしれない!!でも、あまりにも酷な内容でも公表しろと言うのですか?!」
「そうですよ!!真実を打ち明けなければ疑い始めた民は真実を知るために暴走する!!そうすれば再び戦争が起こるんですよ!!
 あなたは一体何のために僧官になり、僧官になったんですか?!僧官は俗世を離れ、神に仕えるんじゃなかったんですか?!それなのに今は歴史を隠蔽する寺院に荷担している犯罪者だ!!」
 と俺はついつい余計なことまで言ってしまった。しかし、それは後の祭り。稜さんはショックのあまりその場に座り込んでしまった。それを見て威輝さんは溜め息をつきながら言った。
「稜…。私の言ったとおりだったでしょ。やっぱり過去の歴史に疑い始めた民が動いているじゃない。寺院が真実の歴史を隠蔽するなんて犯罪なのよ。ねえ洸琉。今のところ隠蔽されていることが分かっているモノって何かしら?」
「えっと…。『神魔戦争』と『紅武戦争』が一番疑われています」
「なるほど。やっぱ神魔は疑われるわよねぇ〜…」
「あの…。神魔戦争のこと威輝さん知っているんですか?」
「うん。もう死んでたけど、当時その戦争に参加していた柳(りゅう)って名前の天竜王のとき他の竜王が力を貸さないからシヴァとかと協力して私も少なからずとも力を貸してたからね。あのときの凄まじさは今でも覚えているわ。
 でも、そのあとに襲名した晶(あきら)という竜王が死んできたときにはすでに隠蔽されていたから驚いていたのよ。でも、まさかそれが今も続いているとはね〜…。こりゃまたあとで異界にいる竜王のなかで揺れるわね」
 と溜め息をつく威輝さん。
「あのさ。異界って天竜王だけがいるんじゃないの?」
「え?異界は全ての竜王がいるわよ?異界は竜王のみ住むことができる特別な世界なの。一般民は死海宮(しかいきゅう)っていう世界で裁判の神とされる竜王・闇竜王(やみりゅうおう)が審判を下し、それから天国と言われる天宮(あまみや)と地獄とも言われる闇宮(やみきゅう)のどちらかにいくの。そして、そのあともどちらの世界でも別の審判が待っている。天宮も闇宮も七つの階層に分かれているのよ。それに配分されていくの」
 と威輝さんは稜さんをほったらかしで俺に丁寧にこの世界のこととかを教えてくれた。
「だからこの世界には考え方が様々な竜王がいるのよ。例えばこんな考えの奴とかね」
 とう言ってまだショック受けている稜さんを指す。
「稜さん、まだショックですか?」
 俺はかがんで稜さんの顔を覗き込むと、涙をぽろぽろと流していたので、ちょっとぎょっとなった。
「え…?!りょ…稜さん?!」
「大丈夫ですよ。ちょっと悲しかっただけですから……。やはり真実は公表しなければなりませんね。寺院の考えに染まりきっていた自分が悪いんです」
「そういうわけじゃ……」
「いいえ。あなたのおかげで目が覚めました。寺院の考えばかり真実だと思ってはいけないんです。僕は5つに僧官になりましたが、こんなふうに叱ってくれる人は死んだ後にしかいなかったので嬉しいんですよ。
 あなたのように真実を追い求め、受け入れる人なら僕の願いを託せますね」
 涙を拭いながら稜さんはそう言った。
「そういえば、あのときも言ってましたね。自分の願いを叶えてくれってあの馬鹿レスカが伝言の内容忘れてくれたおかげで分からないんですよ」
「え?レスカ忘れちゃったんですか?」
 と意外そうな顔で稜さんは尋ねてきた。
「はい。綺麗さっぱりと!!」
「あははは……!!レスカらしい。寝すぎて忘れたんだね、きっと。じゃあ教えてあげる僕の願い事。
 僕の願い…。それはねとある人に伝言して欲しいんだ」
「伝言ですか?」
「そう。『生前あなたに舐められるように愛された……」
「お断りします」
 と頼みきる前に俺はきっぱり断った。
「まだ言い切ってないですよ?」
「言い切るも何も、今の伝言はどっからともなく変態じゃないですか!!絶対嫌です!!冗談にも程があります!!」
「冗談ですよ」
 がく…っ
 本気で嫌がる俺を見て稜さんはにこっと笑い、けろっと冗談だと言うので俺はその場で脱力した。
 この人変なところで冗談使うからやりづらいなぁ〜…。
 と俺は本気で思った。
「冗談はさておき。本当の伝言は他でもないんですよ。べべリア山脈に行って欲しいんだ」
「行った後どうするんですか?」
「肉体を貸して欲しい」
「何でですか?」
「墓参りをしたいのです」
 稜さんは真剣な目で言った。
「墓参り?誰の?」
「べべリア山脈に僕の母が住んでいました。先に逝ってしまったこと、無謀なことをしてしまったことを詫びたいのです。恐らくもう亡くなっているでしょうからせめて墓前で謝りたいのです。哀れと思いましょうが、それが僕が唯一心残りなのです。
 親の反対を振り切って憧れの僧官になったのに戦争で仲介に入ろうとしたらこのざまです。親の死に目を見ることも出来ず先に亡くなったことがくやしくて…。だからお願いです!!肉体を貸してください!!」
 といきなり土下座して懇願する稜さんに俺は驚きのあまりわたわたと右往左往することしかできなかった。
 親の死に目に会えないことにこんなにも悔やんでいたなんて、稜さんって親思いなんだね。あのペンダントにまで干渉させてまで詫びたいと思っていたんだ。
「……分かりました。そういうことなら協力します」
「本当ですか?!ありがとうございます!!」
 と心底嬉しそうに言って俺の手を握り上下にぶんぶんっと振る。しかし、その一方で何故か威輝さんは溜め息をついた。
 威輝さん??
「…稜。シヴァが呼んでるよ」
「あ。はいっ!!只今!!じゃあ洸琉君またあとで!!」
 そう言って稜さんはどっかに行ってしまった。
「あ〜あ。洸琉って結構他人の押しには弱いのね」
 と威輝さんは溜め息をついて言った。
「どういうことですか?」
「未練のが残る人間に協力してあげることよ。あの稜って奴は竜王の中で一番未練がたくさん残っている奴なのよ。そいつの願いをよりにもよってかなえてあげるとは…。苦労するわよ。最後には肉体をくれって言い出したりしてね」
「え〜?!最初から事情を知っているんだったら止めてくださいよぉ!!どーするんですか?!!」
「大丈夫よ。そこのところはシヴァと私が止めてあげるから」
「ってよくシヴァさんとダックを組んでいるんですね」
「そりゃね…。私とシヴァは初代を除いたら一番力が長けているからよく協力して拠り所の人間に力を貸すのよ。ただし、気に入った者だけに限るけど…。稜だって私達協力してないし、それに向こうも鬱陶しい存在だったみたいからね」
「へ〜…結構力って人間関係に左右されやすいんだね」
「そうね。歴代の天竜王の協力が多いほど自分の魔力より数倍の力を出すことができるわよ。
 あら?そろそろ初代がいらっしゃるころだわ。じゃあ気を引き締めて会いに行きましょうか」
「うん」
 と俺は威輝さんの後をついて行こうとしたとき急に大地が揺れた。
「何?!」
 俺は思わず辺りを見渡すが、それより威輝さんは俺を守るように抱きしめた。
「ヤバイわね……。アレが気がついた」
「アレって?」
「十代目天竜王・雅哉(まさや)」
 え?!さっきの自己紹介のとき初代以外みんな揃ってたんじゃないのぉぉぉ〜?!

 

     続く→

前の章に戻ります。

メインメニューに戻ります。

ちびガキメニューに戻ります。

次の章に進みます。