「初代天竜王が来られるぞ」
 そう言われ、俺達4人は稜さんの案内で宮殿に赴いた。俺はちょっと緊張して、威輝さんの手をずっと握り締めていた。
 そして、俺達が通された大広間はとにかくでかかった。周りをいくつもの鮮やかな色合いで飾られた柱が支えており、床は赤い絨毯でありながら、真ん中は鮮やかな彩色の刺繍と共に大きくアニマ教典文字である「光」という書かれていた。天井はドームのようにアーチを描いたようになっていて、空が見渡せるように薄い青でぼかされたガラスがはめ込まれており、奥にはどこかに繋がれているように階段が続く。
「ここに初代天竜王がいるの?」
「天竜王だけじゃない。全ての竜王がここにおられる……」
 と見渡しながら尋ねる俺に重々しい口調でシヴァさんが言った。
 全ての竜王がここにいる……。ということは火竜王や水竜王、地竜王もいるってことだよね……。
 そう思っていると、突然シヴァさんと威輝さん、稜さんが日跪き、深々と礼をする。
 え?!えええ?!
「馬鹿っ!!初代天竜王が見えられるぞ!!跪かんか!!」
 とシヴァさんが小声で怒ったので、俺も慌ててシヴァさんたちと同じようにその場で跪いた。すると、それに遅れてかつんっと靴音が響いてきた。その音は次第に近づいてくる。
「シヴァ、威輝、稜、洸琉。只今御前に参上致しました」
 とシヴァさんはとても丁寧な口調で言うと、聞き覚えのある声が耳に入ってきた。
「シヴァ。そんなに畏まらなくていいよ。別に取って食おうとしているわけじゃないんだから……。
 それにね。早く300代目の俺の拠り所の顔をこの目ではっきりと会いたいんだ」
「はっ!!」
 とそれでもシヴァさんは畏まるのをやめなかった。すると、天竜王(?)は階段を降りてきて俺達に近づいてきた。
「……洸琉」
 と天竜王は俺を呼ぶので、反射的に俺は顔を上げてしまった。そこには確かに夢の中で会った、あの天竜王が立っていたのだ。
「…………初代天竜王」
「久しぶりだね。遺跡の方は見つかった?と言いたいところだけど、先に竜子の部屋に来ちゃうと思わなかったぞ」
「そりゃそうだ。ちゃんと説明してくれなかったし、レスカの記憶がはっきりしないおかげで予定外なことまで起きちゃったんだぞ」
 と俺は周りが畏まる中一人だけタメ口で天竜王と会話していた。
 なんでタメ口になれたのかは夢の中で会話をしたから、どこか信用して安心しきっていたのかもしれない……。
「そっか。やっぱり火竜王の言ったとおりあの言い方じゃ分からないか……」
「なっ?!」
 天竜王の言葉に俺はぴくっと反応し、条件反射で起き上がり、北都にいつもやるように襟首を掴み、がっくんがっくんと首を上下させた。
「ちょっと?!なにそれ?!夢のときは知らないって言ってたのに、実は知ってたの?!」
「ちょ…洸琉……。苦しひ……」
 と俺に首を締められ、あまつさえ首を振り回されれば天竜王だって降伏するが、俺はそんなもんを全く無視して更に振り続けた。
「冗談じゃないよ!!俺達はレスカの記憶の悪さに振り回され、あんたの面白半分でヒントナシにしたのに振り回され、手がかりも止めて三千里!!」
「三千里って……。そこまで行ってないでしょ……」
「じゃあかしい!!だいたいあんたがこんなややこしい説明をしなければ、こんな苦労も戦いもしなくてよかったんだよ!!それなのにあんたはぁ!!分かってるの?!」
「はい……。俺が悪かったのです……」
「だったら、遺跡の場所をはっきりと明確に目印付きで教えて!!」
「え……?今ここで……??」
 と振る手を止めて真剣に言う俺に対して天竜王は目をぱちくりさせて尋ねてきたので、更に俺はむっとなり、止めていた手を再び動かした。
「当たり前じゃ!!このボケ!!こっちだってそっちに付き合える時間はないんだよ!!さっさと終わらせて戻って残っている刑部省の仕事を片付けなきゃいけないんだから!!このまま休みつづけたら、一体何日残業しなきゃいけないんだから!分かる?!
「そんなの……俺が知ったことじゃ……」
「知ったことじゃない!!理解しろ!!」
「はい…………」
 と俺は相手に言い返せないように言うと、初代であっても言い返せずただ素直に従った。その光景に他の三人は唖然となって見ていた。
「つーわけで、第30回青空教室をよろしく!」
「いつから第30回になったの……?」
「回数は気にすんな!!」
 とツッコミを入れる天竜王に俺はきっぱり切り捨てた。

 というわけで、大広間で俺達は遺跡に関する教室をシヴァさん達を巻き込んで、無理矢理開いた。
「つーわけで、第30回青空教室を開くぞ〜。今回の議題は『遺跡』についてだ」
「しつも〜んっ!」
 と俺は乗り気で手を上げると、素早く天竜王は反応した。
「はい。洸琉君なんだね?」
「その遺跡って現世にいくつあるの?」
 その質問に答えたのは教授役の天竜王ではなく、俺にとって先代の稜さんだった。
「僕がまだ現世にいたときに確認できたのは2万個でしたね」
「に…2万ん〜〜〜〜?!」
 俺は稜さんの言葉に我が耳を疑った。俺が予測していたのはせいぜい千個ぐらいだと思っていたが、まさかそこまであったとは思わなかった。
「それ全て竜神の遺跡?」
「そうですよ。他の遺跡と合わせたらもう少し数が増えますよ」
「ひえ〜…。そんなにあるのぉ?」
「そりゃ。あれはあんまり朽ちることがないからなぁ…」
 と天竜王も腕を組んで、うんうんと頷く。
「朽ちることがないの?あれって鉄で出来ているんでしょう?」
 と俺が素朴な疑問を投げかけると、天竜王は「おや?」という表情になって言った。
「鉄?あの遺跡らはそんな柔らかい素材では出来ていないぞ」
「へ?じゃあ何で出来ているの?コンクリート?」
「違うよ。遺跡の殆どが今は未知の鉱物となったスカイメフィアっていうやつで造られたモノばかりなんだ」
「じゃあ魔天具とかもそれで出来ているの?」
「いや……。アレは別の鉱物でも出来ているのもある。今の人間は古の使い古しを使っているようだ。そうおまえのように……」
 そう言って天竜王は鋭いというか見下す視線で俺を指した。
「え……?どういうこと?」
「おまえが使っている武器の三つに魔天具がある」
 そう言うと、天竜王は静かに目をつむると、俺の腰に携えていたポシェットがかたかたと小刻みに震えだし、勝手に袋が開き、そこから手の甲から手首より少し上にかけてはめる『風神』と呼んでいる武器といつも愛用している長針と似ているが、先端部分が長針以上に鋭く、手で持つところは金や宝石などで装飾されている『魔針(ましん)』と呼ばれている武器と紫色の宝珠だった。『風神』は手の甲が何かをはめ込むように凹んでいて、その凹み部分に竜天文字で風神と書かれているので、そう呼ばれている。『魔針』は一直線にしか攻撃できない長針と違って俺の意思の通りに動き、曲がりも平気なので、くねくねした動きも可能だから『魔法の針』という意味合いを込めて俺が考えた。そして最後の宝珠は中に竜天文字で『力』と書かれているのだが、いまいち使い方が分からないし、何かの役立つかと思って一緒に入れている。とりあえず宝珠と呼ぶにしては大量にあるから俺は『力珠(ちからだま)』と呼んでいる。しかしこの三つの武器は滅多に使わない。理由は厄介だから。『風神』はたまに俺の言うことを聞かないで暴走する。『魔針』は味方も攻撃する場合もある。『力珠』使い方が分からない。だから使わない。
 その三つが魔天具?まあ最初の二つはそうかもしれないと思っていたけど、最後の『力珠』はどう見ても魔天具じゃないだろ…。
「これが……魔天具なの……?」
「は……?おまえこれが魔天具だって気づかないで使ってたのか?!」
 と凄い意外そうな顔で天竜王は尋ねてきたので俺は大きく頷いた。すると、天竜王は右手で頭を抱えて深い溜め息をつき、威輝さんやシヴァさん達は空笑いしていた。
「まさか新しい器がここまで鈍感だとは思わなかった……」
「あのな…。一応『風神』と『魔針』のほうは薄々気づいていたわ!!」
「でも鈍感だ。他の奴らは魔天具くらい一目瞭然だったぞ」
「う………っ」
 と俺は天竜王の言葉に言い返すことが出来なかった。
「まあそれはさておき。この魔天具のうち『風神』は核を失っているようだな」
「核??」
「ほれ…。この凹んでいる部分だよ。ここには核となる風と書かれた宝珠がはめ込まれていたはずなんだが……」
「見つけたときにはそんなもんなかったよ」
「なにぃ?!なかった?!ということはおまえ核ナシでこれを使っていたのか?!」
「使ってたけど、あまりにも暴走することが多いから最近は全然使ってないよ」
「そりゃそうだ。この『風神』はその名のとおり風の神と言われてもおかしくない精霊を無理矢理封じ込めて武器にしたのだからな。核はその精霊の暴走を止めるストッパーの役目を持つ。それさえあれば他の宝珠も活用することができるんだよ」
 はいぃ??神様にも近い精霊を封じ込めた武器?!
「じゃあこれがしょっちゅう暴走してるのって……」
「そこから出ようとしているんだよ。まあ飛び出てもおまえがいるし、なんとか止められるだろう」
「止められるだろうって…。他人任せにしないでよ!!」
「他人任せにしているのはおまえだろ!おまえはもう俺の力を受け継いだ。その力で何とかしろ!!」
 と逆に天竜王からお叱りを受けてしまった。
 確かに…。この神に等しい精霊を抑えられなかったら末代の天竜王にも大恥をかかせることになるだよね。それをやったら威輝さんやシヴァさん達にも後ろ指指されそうだよなぁ…。
「……分かったよ。やればいいんでしょ。やれば」
「よくぞ言ったぞ。若造よ!!」
「悪かったな!!」
 と盛り上げる天竜王にすかさず突っ込みを入れたのだった。
 ったく、人が折角認めているって言うのに…。
 そう思っていると、天竜王は俺の手を取り少し申し訳なさそうな表情で言った。
「すまないと思っている。おまえ達の肉体を借りて自分の夢を叶えようとしているからな。
 夢は所詮夢。だけど、俺は叶えたいとしか思うことが出来ない。哀れだと思うだろうけど、今はこれしか言えないんだ」
「いいよ。俺が生きている限りあんたに夢を見させてあげるよ」
「……ありがとう」
 と天竜王は俺の手を握りながら一筋の涙を流した。
「天竜王……。あんたが行きたいっていう遺跡の場所を教えて。そこには一体何があるの?」
「………古の遺跡。月へと帰ろうとした街。でも、それは叶わぬ願いの街の思い出」
「どういうこと?」
「昔……俺がまだ生きている頃……だったかな?優れた召喚士でありながら、街の支配者だったファルドって奴が市民を使って俺達に反旗を翻しこの世界を支配しようとした。
 でも、ここは俺達が作った星。だから俺達も必死になって反抗したさ。そして、窮地に立たされた奴らは月へと逃げようとした。月に逃げればこの星を攻撃するなんて容易いこと。だから街ごと飛ばそうとしたんだ。
 だけど……。失敗したんだ。街は装置に耐えられなくて……。市民は皆壁の中に埋もれていった。その街の住民は皆…みんな昇華してない。時を越えて自分を恨み支配者を恨み……恨みの力が魔物を呼び出し、自分達も魔物となった。」
「い…っ?!魔物ぉ??!」
「そう。別の意味で魔物を召喚している街だな。でも、街全体がどうなっているか分からない。ただ最近負の力がより一層強くなってきたみたいで…。もし、これ以上強くなってしまうのは困るから、あの街にはびこる魔物を退治し、哀れな死者となった住民を昇華させてあげて欲しい」
「しょ…昇華なんて無理だよ!!そんなことしたことない!!」
 と俺が首を横に振って断るが、天竜王はくすっと微笑して言った。
「…大丈夫。おまえには俺達と違って無限の可能性を秘めてる。そして、現世の心と死人の心の挟間を良く知ってるから出来る!!」
「そんな無茶苦茶な!!」
「大丈夫……」
 ぐにゃぁ……っ!!
「?!」
 突然世界が歪み始め、俺は驚いた。だが、それはそれだけで済まされるものではなかった。天竜王も威輝さんもみんなみんな原型を留めなくなり始めていたんだ。留めているのは……俺だけ。
「……俺達は所詮死人。これ以上ここにおまえを留めさせるのはまずいからな」
「天竜王!!」
「ごめんね。ホントは召喚術を教えてあげたかったんだけど、もう無理みたい……」
「なぁに永遠の別れなんかじゃないだから…。鏡や夢の世界でいつでも会うことができる。今はもう時間がないんだ。任せたぞ、洸琉」
「威輝さん!!シヴァさん!!」
「幼い身体で僕達の無理のお願いを押し付けちゃってゴメンね。後は頼んだよ……」
「稜さん!!」
 俺は呼び叫ぶが、世界はどんどん歪んでいく…。まるで俺が異物のようにされて吐き出されているように……。

 

続く→

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