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六 |
| 「はぁぁぁぁっ!!」 「洸琉!伏せるアル!」 「へ?!」 「くきゅぅっ!!」 べひっ!! 「うぐあぁ……」 いきなりデカウサギが宙を舞い、孟螺をまるで蚊を殺すように潰した。 あ……なるほど……… 「く……くる………」 孟螺はデカウサギの体重に耐えられず、そのまま失神した。 「くきゅきゅっ!」 「どうだ、参ったか!」とウサギ語で言うデカウサギはえっへんと威張る。 「くきゅ?!」 いきなり耳をぴんっと立たせ、きょろきょろと辺りを見渡し、ひくひくと鼻を何かを嗅いでいる。そして、デカウサギは俺の元にやってきて必死に何かを伝えようとしていた。 まぁ……一応動物の言葉はわかるけど………その内容って……… 「なんて言っているんだ?『獣使い・洸琉』?」 「だから、そっちの名前でも言うなってば! デカウサギがもうすぐティカリルの花粉が舞う頃だから、避難しろってさ。」 『なにぃっ?!』 俺の発言に失神をしている約一名を除いた全員が驚いた。 そりゃ驚くわな………。 ティカリルの花粉は即効性の毒で、摂取した者は一秒もたたないうちに極度の痺れと吐き気に襲われる。解毒剤はあまり造られておらず、手に入れるのもかなり難しく、摂取した者は最低でも一ヶ月ベッドの上で苦しむ羽目になる。 「はぁ〜…これも危険地帯の性だよなぁ〜……」 「しみじみ言うな!洸琉、おまえ獣使いだろ?何か足が速い奴を召喚しろよ。」 「そんなこといったってなぁ……」 北都の注文に俺は言葉を濁した。 確かに俺は刑部省では数少ない獣使いだけど、それはぺらぺらと人に言いふらすほどでもない。俺はただ動物と仲が良いのと彼らの言葉を理解できるだけだし……。 そもそも獣使いに志願したのだって……いや、ここで話すのはよそう。それより、花粉からどう逃げるかの方が先決だ。 足が速い動物……一応あいつを召喚してみるか……。デカウサギに火花散らしそうだけど…。でもあいつ嫉妬深いからなぁ……。 俺は前に出て、印を組みボソボソとある呪文を唱えると、俺の周りに召喚用の魔法陣が描かれた。 「我と契約を交わせし風の眷族 疾風の如く翔けめぐり 迅雷の如く破壊する 我と汝の盟約の元 我が前に汝の姿を現せ! いでよ、葵園!」 ズズズズズ…… 力のある言葉を言うと、魔法陣が光りだし、一匹の天狼が現れた。 「ぐるるるるるる………」 ってやっぱりデカウサギに威嚇しているよ、コイツは………。 あ〜…やっぱりもう一匹の天狼の方を召喚すればよかったかも。でも、あいつは随分と前におつかいにいかせちゃったし……。 「フーッ!!」 デカウサギもまた負けじと葵園に威嚇する。 オイオイ……… 「はいはいっ!そこ二匹威嚇し合わないの! 葵園、おまえの足で俺と北都とおまけの一匹をこの森から出してくれ。」 「?! させませんよ!!あのお方のため、何が何でも足止めさせていただきます!!」 復活した露玖那は俺たちに向かって刺客を放つ。 あのお方?主犯がいるってことか!! 「明かりよ!!」 「ぎゃっ!!」 露玖那に向かって赤子の頭ぐらいの大きさの明かりを出すと、目を抑えて苦しむ。 「も一つおまけだ!」 俺はそう叫ぶびながら露玖那を蹴り飛ばすと、露玖那は大きく弧を描いて地面に叩きつけられた。 「く………っ」 腹を抑え、肩で息をする露玖那。 この場で感心したのはこんなに吹き飛ばされてもフードがずり落ちないこと。どういう仕掛けしてあるんだ? まぁ……それはさておき……止めをさすか………。 「加勢致します、露玖那様」 露玖那の前に新手が登場する。こいつも露玖那と同じくフードをかぶっている。しかし、こいつかなりでかい……。 2対1はちときついかもしれない…。 「いきますよ。」 「?!」 ぶしゅっ 目にもとまらぬ速さで俺の横を何かがかすめていく。その時に俺の左肩を切りつけ、傷口から鮮血がほとばしる。 「く……っ。」 俺は肩を抑えて膝をついた。 形勢逆転ってところか……。 「まだまだ…倒れさせませんよ。」 冷静な口調のまま再び奴は俺に攻撃してくる。 ぎいぃぃぃんっ 今度は何とか、傷を庇いながらも刀で受け止めた。 傷のせいか、肩が重い。 俺はそう思いつつ、刀の方に目をやった。 これは……月刀?! 俺は奴が使う武器に驚愕した。 月刀というのは剣を円形にしたもので手裏剣やブーメランのように敵に投げつける武器で、殺傷能力が手裏剣よりも高く、主に戦争や処刑に用いられている武器でもある。 月刀は三つの大きさがあって、約一m強の直径を持つのが大型の武月刀、約50cmの直径が中型・錐月刀、両手持ちで二つ一組の直径20cmの小型・小月刀に分けられている。 奴が使っているのは中型の錐月刀である。 この型を使う相手はこいつが初めてだ。勝算はあまり考えたくないな。 俺は右手で奴の武器を受け止め、痛めた左で腰についているポーチに手をすべらせた。中には手裏剣の部類の一つ、長針を手にとった。 「くらえっ!!」 俺は奴に向かって長針を投げつけると、奴は後ろに跳んだ。 「ぐぁ……」 初めて奴から苦痛の声が漏れる。 ほとんどの長針が避けられてしまったが、偶然にも一本だけが奴の腕に刺さっていた。 奴は刺さった長針を無理矢理引き抜くと、フードも一緒にずり落ち、フードの下から現れたのは―――…… 「孟螺?!」 いや、違う!!孟螺と顔は一緒だが、髪の色が全く違う。孟螺は金髪に対し、コイツは銀髪だ。第一、孟螺はそこで伸びている。 確か前に露玖那が名乗ったときにこう言った筈だ。 「邪鬼羅」 そう呟いた時、奴の顔がにたぁっと不気味に笑う。そりゃもう、全身に鳥肌が立つほど不気味な笑顔!! 「邪鬼羅!早くその人の動きを止めてください!」 「御意」 再び冷静に応答すると、瞬間移動をして俺の前に現れるなり、錐月刀で俺を切りつけてきた。俺は宙を舞い上がり、木の枝に着地した。 これで少しは作戦時間が稼げる。 さて、どうやって倒すか―――… バキッ 「へ?」 いきなり何かが折れる音がしたと思ったら、足場が急に傾き始めた。 うわわわわわっ!た…倒れるぅぅぅっ!! 俺は慌てて別の木に乗り移るが、またもや折れ、また別の木に移った。下では、足場を無くそうと邪鬼羅が次々に切り倒していく。 こんにゃろ〜!!逃げ場をなくすつもりか!! 俺は邪鬼羅からかなり離れた木の枝に着地すると、びしぃっと邪鬼羅に指を指して叫んだ。 「こんの自然破壊ヤローッ!!!!」 「んなこといっているヒマないだろーが!!」 ポーズをとっているところで、北都がツッコミを入れながらひっつかみ、葵園の上に飛び乗る。白兎はすでに葵園の上に乗っていて、北都が乗ったのを確認すると、葵園を走らせ、その場から離れていった。 「いきなりどうしたのさ?!」 北都の横に抱えられたまま、俺は北都に尋ねた。 「さっきから花粉が飛ぶから時間がないと口にしてただろ。」 そうだった。すっかり忘れていた。 早くこの森から出ないと、一ヶ月も苦しむ羽目になる。もし、早く出れたのなら邪鬼羅を倒す手段を考えられるかも……。 そう思いつつ左肩に目をやった。まだ治療を施していない左肩からは血が流れつづけ、左腕が血の色に染まっている。 俺は右手を傷口にあて呪文を唱え始めた。 「我が癒すべくは痛々しい傷痕なり」 呪文を口にするなり、血はとまり、みるみるうちに傷口が塞ぐ。 とりあえず、応急処置はできた。都に行ったら専門医に―― 「うほ―――?!」 俺は傷口を見ていたら、たまたま視野の中に飛び込んできた光景に思わず中断させて叫んでしまった。 なんて言ったってあの邪鬼羅が物凄いスピードで俺たちに追いつこうとしている。 「ほほほほほ…ほ…北都ぉ〜!お…おおお追いかけてくるよぉ〜!!」 「わかってる! 白兎、攻撃は俺たちで何とかするからおまえは前に集中しろ!!」 北都はそう言うと、空間を捻じ曲げるというか、空間自体から十数本の刀を出現させた。そのうち一本はゆうに2メートルを軽く超えている。 すご…っ!!いつ見ても北都の能力には感嘆する。 北都の能力は魔術士の中では珍しい先天的な能力で物の『存在』の意味を変えることが出来る。 例えば、腹を空かせた北都の目の前にミカンがあったとしよう。北都はその時たまたまリンゴが食べたいと思っていても、目の前にはミカンしかない。その時にミカンに触れて、リンゴをミカンに変えてしまうことが出来る。他にも何もないところに色々なモノを出現させることが出来るのだ。 最近では物を掏りかえる術も開発させているが、あまり役に立たない。 「十二の刃よ!我が前の敵を討て!!」 北都が叫ぶと、一斉に刀たちは邪鬼羅に突進していき、邪鬼羅の足や腹や手を突き刺した。 俺達は邪鬼羅が動かなくなったのを確認しないでその場から離れていった。 |