ペルソナの森を離れ、森から一番近い旋風の都・アウラについた俺達は真っ先に宿を取り、森での疲れを取った。
 それから三日、俺達は都の中を散策していた。
 別に式部省の職員を見捨てたわけではない。俺達はそれなりに調査していたのだ。
 まぁ…約一名ぐーたらしている奴がいるけど、俺は都にある図書館や各省庁の別館をはしごし、北都はネットを使って他の都をあたる。
 ここ三日間で分かったことは、ここ最近起きている薬物事件や不祥事などに必ず白兎と白兎の部下3名が関与していること、刑部省に保管されている膨大な薬物資料がごっそり紛失していること、そして白兎が実験を行う際にはぐれ魔導士を実験室に呼び出して、実験をする度に悲鳴が数々あがることだけだ。
 う〜ん、この三つに何らかの解決の糸口があるのだろうか。
 俺は目の前に並べられた資料に頭を悩ませた。
 そんな俺の前でくつろぎながら資料を見ている北都が何を思ったのか資料を見ながら一言言った。
「この膨大な薬物の資料を持ち運ぶなんて白兎以外に考えられないな。」
「どうして?」
「だって、そうだろ?
 刑部省が古くから調べ上げた薬物に興味深々なのは、科学捜査班の中でも白兎しかいない。他の班員は独自の資料結果を持っている。特に棟梁の藤片さんなんて刑部省の資料を頼らないですべての薬草の効力を自分の体で実験したんだぞ。」
 言われてみれば確かにそうだ。
 前々から白兎は資料室の前で必ず足を止めて中を覗いていた。その度に管理人の朧に門前払いされて中に入ることができなかったって瞳姐さんが呆れて言っていたのを聞いたことがある。
「もしかして、今回の事件も白兎が関与している可能性があるってことだよね。」
「そうなるな。とりあえず、さっき瞳姐さんにこっちに来るように頼んでおいた。
 もしかすると、新しい情報が手に入るかもしれないな。」
「さっすが、北都。やることが早いね。」
「誉めても、何もでないからな。」
「別にご褒美をくれだなんて催促してないよ。」
「おや、珍しい。いつもなら『ご褒美頂戴〜!!』って真っ先に言うはずなのに…。
 明日には嵐が来るかな?」
「…北都。俺に喧嘩を売ってるの?」
「いんや、別に。」
「ところで、白兎はどこいった?」
「ああ…、白兎ならなんでもここに住んでいる友人に逢いに行くとか言って今朝早く出て行ったけど。」
「ここに住んでいる白兎の友人なんていたっけ?」
「さぁ?聞いたことがないな。元々あいつ友人少ないし……」
「それってさぁ、怪しくないどころかむっちゃくちゃ怪しくない?」
「…………やっぱり?」
 腕を組んだまま、北都の頬から一筋の冷や汗を垂れる。
「……と…とりあえず、外に出て白兎を探すか?」
「探すってどこか行く宛があるの?」
「適当に探す」
「あほかぁぁぁぁっ!!!」
 すぱぁぁぁぁんっ!!
 俺は自身満々に言う北都に資料ですっ叩いた。
 だぁ〜!ちょっと期待した俺が馬鹿だった。
「とにかく、瞳姐さんがこっちに来るのを待って―――」
 かっ!!
 俺と北都の間に一本の矢が通り抜け、壁に突き刺さる。
『……………………』
 俺達はびっくりしすぎて矢を横目に動くことができず固まっていた。
 よくよく矢を見てみると、矢尻に手紙がくくりつけられていた。北都は急いで矢から手紙を解くと、手紙を広げて読み始めた。
「『でぃあー 洸琉ちゃん
  式部省の薬物事件について新しい情報を入手したので急いでそっちに行きます。
                ばぁ〜い  あなたの永遠の恋人・瞳
』だってさ。」
「永遠の恋人って……」
 俺は手紙の内容に唖然となった。
 いつから俺は瞳姐さんの恋人になったんだろう。……ってそれより、手紙の内容を一つも動揺しないで読み上げた北都の方が怖いんだけど……。
 そう思っていると、手紙を見ながら北都が深いため息をした。
「瞳姐さんのショタコンぶりには凄いのを通り越して呆れるよ。
 自分好みの美少年を見つけたら手当たり次第写真に収めて堪能するしな〜…。」
 うげ?!写真〜?!
「あ、前には誘拐未遂もしたっけ!」
 ゆ…誘拐〜!!
 俺は次々に明かされる瞳姐さんの実態に驚きを隠せなかった。
 ちょうどその時―――
 どんがらがっしゃぁぁぁんっ!!
『うわぁっ!!』
 いきなりドアが吹っ飛び、部屋の中に煙が立ち込める。
 奇襲か?!でも、殺気を感じない。
「はぁ〜いっ!瞳姐さん只今参上ぉ〜!!」
『だぁぁぁっ!』
 いきなり煙の中から現れた瞳姐さんに俺と北都はその場ですっコケた。
「ひ…瞳姐さん……?!」
「いやぁ〜んっ!!洸琉ちゃぁぁぁぁんっ!!お姐さん洸琉ちゃんがいなくってすっごく淋しかったんだからぁ〜!!今日は寝させないわよ〜!!」
「く…くるひいから…やめ…て…」
 キツク締め上げるように抱きつく瞳姐さんに俺は窒息しそうになった。
「は・な・れ・ん・か!!」
 気を失いかけたとき、北都が瞳姐さんと俺の間に割って入り、俺を瞳姐さんの魔の手から無理矢理引き剥がして助けてくれた。
「ちょ……ちょっと、北都!!なんで私たちの感動の再会を台無しにするのよぉ!!」
「あんたの行動は洸琉の教育環境に悪いんだってば!!
 それより、新しい情報入手したとか言ってなかったっけ?」
「あ…そうだったわね。」
 瞳姐さんは自分の本当の目的を思い出し、軽く咳払いをすると真剣な眼差しでその情報を話し始めた。
「さっきと言っても本当についさっきの出来事よ。
 式部省の職員に取り込まれていた薬物の解毒剤がある実験室から見つかって、全員完治と言いたい所だけど、多少後遺症が残ったものの、毒からは開放されたわ。
 で、そのある実験室って言うのわね、白兎の実験室からなのよ。
 そして、白兎が言っていた毒の成分と正式に調べた成分とが全く違っていたのよ。」
「その成分って?」
「テトロドドキシン」
「て…テトロドドキシン?それって大丈夫なの?」
「あんまり大丈夫じゃないわね…。」
「でも、その話を聞いて余計白兎が犯人だと物語っているような気がする。」
「何言ってるの。犯人は白兎に決まってるじゃない。」
 う〜んと考え込んでいる北都に瞳姐さんはキッパリ言い切った。
「ど…どういう根拠でそう言い切れるの?」
「白兎の部下3名を逮捕したからに決まってるじゃない!お〜っほっほっほっほ!!」
 真剣さが消え、すっごい自信で高笑いする瞳姐さん。
「それに、もう白兎には逮捕状も出てるし、実験室も差し押さえされて戻ることはできない!あとは白兎をとっ捕まえるだけよ!お〜っほっほっほっほっほ!!
 と、いうわけで、攻撃開始ぃっ!」
「え゛?!どこに攻撃するのさ?!」
「ここよぉ〜!!の汝よ退け!
 どこぉっ!!
 瞳姐さんはなんの躊躇もなく部屋の壁をぶち抜いた。
 壊れた壁の向こう側にはなんと、出かけたはずの白兎と露玖那たちがいたのだ。
「ひ……瞳……?」
 状況が掴めない白兎は素っ頓狂な顔でいた。
「さ〜て、お縄を頂戴しましょうかね。今回の真犯人さん。」
「どこにそんな証拠があるネ!!」
「アンタの実験室がそう物語ってるわよ。」
「それだけじゃ証拠にならないアル!!」
「他にもあるわよ。あんたの部下が白状したし、犯行メモも発見したわよ。」
「く……っ。もう少しだったのに……。」
「白兎様!ここは我らに任せ、早くお逃げください!!」
 露玖那は白兎を庇うように前に出て、白兎に逃亡を促すが、その前に瞳姐さんが動いた。
「はあっ!!」
 びしっばしっぴしっ!!
 瞳姐さんの凄いムチさばきで次々と敵を倒していく。
 おー、さっすが瞳姐さん。
 俺は思わず拍手してしまった。
「洸琉ちゃん、そっちに一匹行ったわよん!!」
「?!」
 俺の目の前に現れたのはよりにもよって俺の左肩を負傷させたあの邪鬼羅であった。
 ちぃ…!なんでいっつも分が悪い相手なんだよ!
 魔法は宿を破壊する可能性がある。これは物理攻撃しかないか…。勝算があるか…。いや、考えるのはよそう。考えるだけ気が散る。
「たぁぁぁっ!!」
 先制攻撃をしたのは俺だった。右手に長剣タイプの日本刀、左手にはアラビアの三日月剣みたいな曲がった刃の短剣を持っている。その両方をうまく使い分けて奴に切りつける。
 しかし、殆どが奴に避けられてしまう。
 俺は後ろに跳び、肩で息をしながら剣を再び構えた。
 すべて奴に技を見切られている。なら、こっちが逆に待ってあっちの攻撃を見切って隙を攻撃するのみ!
「おや…今度は防御ですか?そんなことをしても無駄なのに…。」
 不敵な笑みをもらす邪鬼羅。
「無駄ってどうして言い切れるんだよ!やってみないとわか……」
「それが無駄な行為なんですよ。
 だって、私は前よりも更に強くなったんですから……。」
「こんな短期間で強くなれるもんか!ウソをつくんじゃないよ!!」
 俺はむっときて邪鬼羅にくってかかったが、邪鬼羅は動じることもなく不敵な笑みをこぼしたまま言った。
「ウソではありませんよ。
 私は白兎様の名薬によって更に強くなったんですから。」
「白兎の薬だって?!全然外見には出てないじゃん!!」
「外見は…ね。
 それが真であるかは実践で証明してあげますよ。」
 証明してあげるって白兎の薬には必ず何かしら副作用があるから信用できないんだよなぁ。
 そう思ったとき、すでに奴は俺の目の前に飛び込んできた。
「おわっ!」
 俺は反射的に剣を離してしまい、両手で剣を挟んで抑えた。
 ふい〜っ!た…助かったぁ〜!
 しかし、安心している余裕はなかった。邪鬼羅の力に押されどんどん後ろに下がっていく。ついには後ろに倒れてしまった。
「ぐ……」
 ひえ〜!絶体絶命の大ピンチ〜!!
「これで終わりですよ……う……?!」
 さっきまで余裕しゃくしゃくだった邪鬼羅が急にもがき苦しみだし首を抑え倒れた。
 ひとまず難を逃れて助かったけど、一体どうしたんだ?もしかして、薬の副作用?!
「は…白兎…さ…ま…たすけ…」
 助けを求める邪鬼羅に白目の視線を向けながらノートパソコンを打ち始める白兎。
「薬の副作用がついに出てしまったネ。この薬は失敗アル。新しいデータがとれたアル。効力は三日とな。」
「白兎、あんたの仲間なんだから助けてやれよ!!こんなに苦しんでるのに……」
「洸琉、一つ間違ってるネ。こいつらは仲間じゃなく、ただのモルモットよろし。」
『な゛…?!』
 白兎の発言にはぐれ魔導士達は驚愕の声をあげた。
「我らのことは大事な仲間だとおっしゃったことはウソだったんですか?!」
「アレは社交辞令であるし、まあ一応死なれては困るモルモットかな。」
「そんな……」
 あまりにもショックで動揺を隠せない露玖那は顔が青ざめた。
「たす…け……て………………」
 邪鬼羅は断末魔の声をあげると、二度と動くことはなかった。
 そこに孟螺がすぐさま邪鬼羅に近づき、抱きかかえると、ぼろぼろと涙を流した。
「………邪鬼羅………」
 かすれた声で邪鬼羅の名前を言う孟螺。
 俺もこの結末に孟螺に同情するよ。
 すると、白兎はおもむろに邪鬼羅の遺体に近づき、瞳孔にライトを当て溜め息をついて立ち上がり、ポツリと呟いた。
「………死んだか……役立たずめ………」
「き…貴様ぁぁぁぁっ!!」
 白兎の発言に怒り、泣き叫ぶ孟螺。
「……待ちなさい、孟螺。あなたの気持ちはわかるけど、あなたも白兎の薬を服用してるんでしょう。だったら迂闊に動かない方がいいわ。」
「かまわん!たとえこの身が滅び朽ちようともこいつに復讐してやる!!
 おまえなどに同じ時に生を受け共に生きていった片割れを失った悲しみや悔しさがわかるものか!!」
 白兎への復讐心が満ちた孟螺は極度の興奮状態に陥っている。そんな中で孟螺は刀を引き抜くなり、邪鬼羅の亡骸から心臓を抉り取り、食い始めたのだ。
 うげっ!食ったよコイツ!気持ち悪い〜!
「洸琉、見るな!」
 食べ始めてから一歩遅く、北都が慌てて俺の目を手で塞いだ。
「ふはははははっ!邪鬼羅!俺とお前は一つになった!共に白兎に復讐しようぞ!!」
「悪いわね、そうはさせないわ!」
 どすっ!
 瞳姐さんが背後にまわり、孟螺の首筋を叩いた。それと同時に北都の手が俺の手から離れる。
「お…おのれ………政府の………………」
 孟螺は悔しそうに倒れ、気を失った。
「瞳、助かったネ。感謝アル。」
「別にあんたのためにやったんじゃないわよ.。
 洸琉ちゃんの教育環境上良くないからやったのよ。それに、孟螺自身のためでもあるけど。
 あんただけは絶対この手で捕まえるわ。それが、親友としての役目だから。」
「親友なら大人しく見逃すよろし。それが自然の筋ってものアルよ。」
 瞳姐さんと白兎の間に火花が散る。
 こりゃ一荒し来るわな。
「あのね、いくらあんたが実験のデータが欲しいからって一般民まで巻き添えしないでよ。」
「その言葉、聞き捨てならないネ。どうせはぐれ魔導士は人道から反した愚か者。あたしがどう使おうとあたしの勝手ネ。瞳に言われたくないネ。」
「な…なんですってぇ……?」
「だいたい瞳は少年ばかり集めて美少年には見境がなさすぎアルよ。あたしの実験の方が、お天道様が涙を流すほど素晴らしいことアルよ。」
「どこが素晴らしいことなのよ!!
 あんたの実験の方が世の破滅よ!」
 と口喧嘩を始めた二人。二人とも五十歩百歩の小競り合いだし…。なんて低レベルな争い。
「洸琉、この隙を狙って白兎が嫌いなこれでささっと捕まえて終わらせようぜ。もちろん露玖那も手伝ってくれるよな?」
「もちろんですよ。こうなった以上敵味方も関係ありません。打倒白兎!にはぐれ魔導士総出でお手伝いします。」
 と張り切る露玖那。
 これを使ってねぇ……。
 俺は北都に手渡されたこの手の平サイズの物を見て不安に思った。
「瞳はいつも……」
「白兎ぉ〜!良いもんあげるよ〜!」
 と白兎の発言をかき消して北都がある物を放り投げ、白兎の手に見事収まった。
「ひ………ねねねねねねねねねネズミぃぃぃぃぃぃっ?!」
 手に収まった物体を見るなり、白兎は悲鳴をあげた。
 そう、白兎が嫌いなモノというのは、ネズミなのだ。
 白兎は逃げようとするが、はぐれ魔導士たちが出口と言うものを全て塞いで構えていた。
「第二波いっけぇぇぇぇっ!!」
『そおぉれぇぇ!』
 露玖那の掛け声と共にはぐれ魔導士たちがいっせいに白兎に向かってネズミを投げる。
「ひえぇぇぇぇぇぇっ!!」
『捕まえた!』
 窓側に逃げ込んできた白兎に別に構えていたはぐれ魔導士たちがいっせいに飛び込み、捕らえることに成功したのであった。
「うくぅ……」
 この連携プレイに白兎は観念した。
 こうして白兎が起こした薬物事件は幕を閉じたのであった。

 

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