「あ〜ら〜。早いですわね〜〜」
 メインシステム室の前で待っていたのは猫耳と尻尾があり、褐色の肌に金髪、緑の瞳に白衣姿の女性・狭霧=桜ノ宮さんだった。
「狭霧も早いね。」
「そりゃぁ〜私達が〜失敗してしまったことですもの〜〜。早く来て〜当たり前のことですわ〜〜。」
 狭霧はめちゃくちゃゆっくりとした口調で答えた。
 ………相変わらずだなぁ〜。
「本来なら〜〜私達が〜〜責任を持って〜〜処理しなくては〜〜ならないんですけどね〜〜。なにせ〜〜量が半端ではないので〜〜そちらさんにぃ〜〜応援を〜〜頼んでしまいました〜〜。すいません〜〜。」
 ゆっくりとした口調を変えないまま狭霧はぺこんと謝罪した。
「そうそう〜〜。藤片棟梁は〜〜ちょっと棟梁会議でぇ〜〜遅くなるそうなので〜〜先に〜〜処理を始めてて欲しいとの〜〜ことです〜〜。」
 棟梁会議?何か問題でも発生したのかな?
「もしかして、今回の処理で最悪の事態を予測しての会議かな?」
 北都がそう言うと、狭霧は頷いた。
「先程〜〜メインシステム室内にいるバグを〜〜計ったんです〜〜。」
『バグ?』
 俺と北都は狭霧の言葉に眉をひそめた。
「バグってあのプログラムの虫食いの?」
「似ているようで〜〜似てません〜〜。」
『はぁ?』
 ふざけている狭霧に俺たちは素っ頓狂の声をあげた。
「実は〜〜。私達〜〜あまりにもヒマだったんで〜〜プログラムの実体化をしようと〜〜実験を進めてたんですけど〜〜。なんと〜〜できちゃったのは〜〜」
「バグの実体化だったと?」
「そうなんですぅ〜〜。」
 全然困った表情をしない狭霧に俺たちは何も言えずただ呆然としていた。
 ………科学捜査班って一体………。
「とにかく、そのバグをさっさと処分すればいいんだろ。簡単じゃないか。」
 自信満々で言う北都に、狭霧は付け加えをした。
「そのバグの量が〜〜半端じゃなくて〜〜。この部屋全体にいるんですぅ〜〜。」
 その一言に、さっきまで自信満々だった北都は固まった。
「と……とにかく、さっさとやろう!!あはは……あはははは……」
 北都は空笑いをしながらカードキーを通し、ドアを開けると――
『きゅきききき!!』
 と大量のバグが我が物顔でメインシステムで遊んでいた。
「これが……バグ……?」
 俺は唖然としたままバクに指差すと、狭霧は笑顔で頷いた。
 これがバグ……どっから見たって愛くるしくて、もこもこのふわふわの羊のぬいぐるみじゃん。これを処分するのって結構抵抗があるんだけど…。
「これをどうやって処分するのさ?」
「これを〜〜使うんです〜〜」
 と取り出したのは取っ手が長いハンマーだった。
「実はまだ〜〜対処法が分かってないので〜〜それに〜〜貴重な〜〜実験サンプルなので〜〜地道な作業で〜〜お願いします〜〜。」
 ……どんな状況でも科学者魂は抜けてないのね。
 俺たちは狭霧が用意したハンマーを手に取り部屋の中へ入った。
「はぁっ!!」
 ぱこ〜んっ!!
 俺は入った早々目の前にいたバグをちょっと抵抗しつつも思いっきり叩いた。すると、バグはすーっと消えていった。
 さぁ、次はどいつだってあれ?バグがいない?
「そうそう〜〜。言い忘れてたんですけど〜〜一匹のバグを叩いたら〜〜バグは裸眼の者からは〜〜見えなくなってしまうんです〜〜。だから〜〜私達が開発したメガネをかけないとバグが見れないんです〜〜。」
『そーゆーことは早く言え!!』
 俺と北都は同時にツッコミを入れた。
 まったく、狭霧はこういうところが爪が甘いんだから!!
 俺は狭霧に手渡されたメガネをかけると、さっきまで見えなかったバグが見えるようになった。見れるようになってからはスムーズに叩くことができるようになったが、北都はいうと――
「だぁ〜!!ちまちまちまちまちま!!地道な作業ばっかやってたら日が暮れちまう!!要は全部消せばいいんだろ!!
 だったら…天かける雷を統べる雷神よ!!」
 う゛…んっ
 北都は両手に魔力を込め始めると、狭霧はいつになく驚いた。
「あ〜〜!!ダメですぅ〜〜!!!」
 びっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!
 狭霧が止めるのも虚しく雷系の術が発動すると、さっきまでいたバグの量より増えてしまった。
「ちょっと、どうなんてるんだよこれ?!」
 バグに埋もれてしまった俺たちだったが、なんとか俺はバグの中から出ることができた。
「だから〜〜やめてって〜〜言ったのにぃ〜〜!!このバグには〜〜魔力を吸収して増幅する機能が〜〜あるんですぅ〜〜!!」
『なんで入る前に言わないんだよ〜!!』
 泣きじゃくる狭霧に俺たちはいい加減に切れた。
「すいませぇ〜〜んっ!!」
『すいませんぢゃない!!』
 俺たち叩きながらハモってさらに叫んだ。
「何やってんだ、三人とも」
 と低い声で俺たちに声をかけ高見の見物をしているかのように俺たちの光景を見ているのはちょっと白髪混じりのショートに軍服の上に白衣をまとった、神楽=藤片棟梁だった。
「ちょ…藤片さん?!何見てるんですか?!手伝ってくださいよ!!」
 北都はバグに埋もれながらも藤片さんに叫んだ。
「まったく…自業自得だろうが………」
 それは藤片さんも一理あると思うよ。
 藤片さんは何やら胸元から薬袋を取り出すと、バグに向かって撒き散らした。
 ?何だこの粉は?
 俺が不思議に思っていると、北都と狭霧はこの粉の成分を知っているらしく、粉を見たとたん青ざめた。一方藤片さんは粉を撒き散らし終えると、マッチに火をつけ―――
 ちゅっどぉぉぉぉぉぉぉんっ!!
『うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
 いきなり爆発して俺たちはバグ共々吹っ飛び当たり周辺の部屋は跡形もなくなり、体中にすすがついた。この爆発の威力で生きているだけで凄いけど、この威力はちと強すぎるぞ。
 しかし、その爆発おかげで今まで大量にいたバグは消えていた。
「う〜んっ。ちょっと威力が強すぎたかな?」
『強すぎるわ!!』
 ずがすっ!!
 俺と北都、そして狭霧、三人のトリプル・キックが、まともに藤片さんを直撃した!
「人がいるのに何考えているんですか!!」
「そうだよ、いくらなんでも一歩間違えれば、大惨事だよ!!」
 責め立てる北都と俺の剣幕に、しかし藤片さんは、何故か嬉しそうな笑みを浮かべつつ、
「……うぅ〜ん……いいサンプルが取れたなぁ〜。三人とも感謝するよ。」
『しみじみ言うな!!』
 またまたツッコむ俺と北都。
 狭霧は、深い溜め息ひとつつき、
「……神楽棟梁の〜〜いつもの〜〜癖が〜〜出てますわね〜〜」
「そんなにサンプル集め凄いの?」
「はい〜〜。それはもう〜〜血眼になって〜〜獲物を探すかのように〜〜凄いです〜〜。」
 いや…その例え方怖いから……
「しかし…もう一つ大事なサンプルが消えてしまったな。」
 藤片さんはバグが消えて悲しそうに言った。っていうか、この爆発起こしたの藤片さんジャン。
「ひょっとして今の爆発でメインシステムが壊れてたりして―――」
『あはははははは』
 俺の不安に思ったことを言うと皆空笑いをする。
 しかし、俺の不安は見事に的中していた。
 んばしゅんっ!ずがががががが!!ばぐんっ!!ぼぐっ!!
 メインシステムが壊れ、至る所から爆発して煙が出ている。
「ちょっとぉぉぉぉっ!!どうするんですかぁぁぁぁぁっ!!!」
 北都は藤片さんの襟首を掴み上下動かした。
「ん〜〜。僕の力でならなんとか直せるよ。」
「だったら早くやってよ!!」
 俺が叫ぶと、藤片さんはしばし黙り込み――
「―――なーんてな。うそだよ〜んvv」
 ………こ………っ!!
『あほかぁぁぁぁぁっ!!』
 ずきゅるる!!
 再び三人で藤片さんを蹴り飛ばした。
「この非常事態のときになに冗談を飛ばしてるんだよ!!そーゆーもんは終わってからにしろ!!」
「だ〜って、重苦しい空気嫌いなんだも〜ん。」
「『なんだも〜ん』ぢゃない!!少しは時と場合を考えろよ!!」
「ヤダ」
 キッパリ言い切きりつーんっと頬を膨らませてすねる藤片さん。
 子供か、あんたわ。
 どがんっ!!
 後ろの方で再び爆発が起きる。
「げげげっ!こんなことしているヒマはなかったんだっけ。早くこれをどうにかしないと……」
「はいはい、三人ともどいて」
 藤片さんはそう言うと、いきなり消火器をシステム室の方に向かってぶっ放した。おかげで、俺たちは真っ白になった。
「あははは。皆真っ白になっちゃったね〜〜。」
「笑っている場合かよ。余計爆発を促してどうーすんだ。」
「要は〜〜爆発を止めればいいんですよね〜〜?」
 狭霧はそう言うとどこから出したのか薬のビンを取り出した。
 側面には「瞬間冷凍可能薬 レイピーΣ」って書いてあるんだけど……。
 もしかして……
「そぉ〜〜〜れ〜〜〜〜!!」
 狭霧が勢いよく投げると、ビンは弧を描きシステムの機械に当たり、割れ、一瞬のうちに凍った。
「これで〜〜OKですね〜〜」
『OKぢゃない!!』
 狭霧に俺と北都はハモって叫んだ。
「ど〜すんだよ、これ!!完全にシステム麻痺しちまったじゃねーか!!」
 北都は指差しながら狭霧に迫った。
 一方、狭霧はというと―――
「だってぇ〜〜止めろって言ったじゃないですか〜〜〜」
「言ってないわ!!」
 北都はさらに叫んだ。
 結局、そのあとメインシステムが麻痺してしまったため、そこら一帯のシステムが麻痺したのは言うまではなかろう。

 

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